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津田永忠 |
ヤマトです。
以前から取り上げたいと考えながらタイミングを逸していた「百間川(ﾋｬｯｹﾝｶﾞﾜ)」。
この「百間川」はインターネットで検索すれば知りたい情報が大体手にはいると思いますから、ここでは割愛します。
この「百間川」を造ったのも、我が町を通過しアユモドキが生息する「祇園用水」を造ったのも同一人物。
津田永忠(ﾂﾀﾞ ﾅｶﾞﾀﾀﾞ)
日本三名園と称される岡山の「後楽園」も彼の作だ。
彼の業績は、現代の我々に驚くほど多くの土木的遺産を授けてくれている。
むしろ現代の我々は彼の遺産で暮らしているようなものだ。
あらゆる彼の遺産が生活の中に溶け込んでいる。
以前訪れた京都の南禅寺で「琵琶湖疎水」の優雅さに目を奪われた。
また、「通潤橋」の発想の豊かさに驚愕した。
さらには、「眼鏡橋」における岩永三五郎氏の巧みさに魅せられた。
他にも多々あるけれど、足下の津田永忠は身近すぎて興味の外に置いていた気がする。
これから機会があれば、彼の努力の跡を自らも土木技術者の端くれとして眺めてみたい。
そんな風に感じた朝だった。
皆さんの町にもきっと未だに名を残す優秀な土木技術者や名工と言われる方々がいらっしゃることと思います。
是非、このヤマトに教えて下さいませんか？
オリジナルの土木技術者列伝を作りたいなぁ。。。などと考えたりしています。
ではまた。
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土木技術者列伝(1)廣井勇(北海道) |
ヤマトです。
で、早速シリーズにしちゃうところがヤマトらしいでしょ？
当シリーズは
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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先ほど、ブログを書き終わってSkypeオンラインでいらっしゃった口頭試験の勉強真っ最中の竜馬さんを急襲！！！
占い師は正しい！！！
禁酒で頑張らないと。。。
と猛然と脅すも実らず。失敗！！！
優秀な方なのに。。。
酒呑童子になっちゃうのかぁ。。。
さて、その竜馬さんからご推薦を頂いた北海道の偉人は
広井 勇 氏
港湾工学の父と称されるその方は、小樽港の築港にご尽力なさり、英国のスローピング・ブロック・システムをベースとした、ブロックを傾斜させ並置する「斜塊ブロック」という独特な工法を採用し、1908年、日本初のコンクリート製長大防波堤を完成させたそうだ。
この防波堤は、建設から100年以上経過した現在でも当時のままに機能しています。
なお、2006.1土木学会誌に『小樽港北防波堤 平成の改修』と題して取り上げられています。
廣井氏の一言です。
「現場のない学問は学問ではない。」
さすがに良い言葉を発せられますねぇ。。。
では、ヤマトの一言。
問題は現場から発生するが、その答えもまた現場にある。
やるでしょ？
いつも感じるのは、現代の我々のスタンスがいかにも近視眼的であることです。
一端志して造る以上は、数百年のオーダーでモノを捉え、尽力するのが我々の責務。
違うのでしょうか？
ねぇ、竜馬さん？？？
北の大地の冬は今始まったばかりです。
寒風に負けることなく、視線の先にある大きな目標へ向かってＧＯ！！！
応援しています！！！北の竜馬！！！
さて、次回は青森県でどなたか土木の偉人をご紹介下さいませんか？？？
皆さまからのご連絡お待ちしていま～す
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土木技術者列伝（番外編1）八田與一 |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し広く広報することによって、土木界全体の地位向上と我々土木技術者のインセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
として開始したシリーズ。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。どうか皆さんで追記して下さい。
次は青森県の予定だったのですが、まだ情報収集ができていません。
いきなりつまずいていますが。。。
ヤマトのブログはこんなもんです。
そこで、竜馬さんからさらにご推薦頂いた偉大な方をご紹介することにいたしました。
八田 與一(ﾊｯﾀ ﾖｲﾁ) 氏
です。
どうして番外編かと申しますと、八田 與一氏の活動拠点が台湾だからです。
ご出身は石川県だそうですが、ヤマトの視点では「何を成したか？」に着目したいと考えています。どこの方かという事はあまり意識をしておりませんから、誠に申し訳ありませんが、国外が活動拠点だったということで番外の扱いとさせていただきました。
竜馬さん、ゴメンなさいｍ(__)ｍ
しかし、そうであるならば、
外国人でもＯＫということになる訳です！
ほぅ～ら。ピンッ！と思い当たるでしょ？
きっとそのうちご登場なさると思いますよぉ～～～
さて、
八田 與一氏とはどのような方なのか？？？
台湾の嘉南平野にある15万ヘクタールの田畑のかんがい事業にご尽力なさった方のようで、
中でも、満水面積1000ha、有効貯水量1億5,000万m3の大貯水池・烏山頭ダムと、嘉南平野一帯に24,000kmもの水路を張り巡らし、嘉南平野を干ばつの危機から救った方のようです。
特筆すべきは烏山頭ダムにおいて、粘土・砂・礫を使用したセミ・ハイドロリック工法（コンクリートをほとんど使用しない）という手法によりダム内に土砂が溜まりにくくなっており、近年これと同時期に作られたダムが機能不全に陥っていく中で、しっかりと稼動している点である。
また、人柄にも優れていた方のようで、烏山頭ダム完成後の昭和6年（1931年）に作られた八田氏の銅像が、中華民国の蒋介石時代に日本の残した建築物や顕彰碑の破壊がなされた際に、地元の有志によって隠され、昭和56年（1981年）になって再びダムに設置されたという逸話が残されています。
そして、これを読まれた竜馬さんから以下のような情報を頂きました。
これこそが八田氏の最大の功績だとおっしゃいます。
（引用開始）
一番の功績は3年輪作という思想です。
俯瞰的とは、まさにこのことだと思っています。
與一が考案したこの３年輪作制にこそ、彼の農民への思いが込められているのである。與一の考えはこうだ。嘉南平野に巨大ダムが完成されたとしても、この地域に必要な水量の３分の１しか供給できないことはわかっていた。そこで與一は一種の社会主義的管理体制とも言えるような計画を打ち出した。
各地域に水を３年に１度だけ供給するシステムである。このために稲作とサトウキビ栽培と畑作の３種を１年ごと順番に行なうことにする。なぜなら、稲は大量の水が必要であるが、サトウキビはさほど必要ではなく、芋などの畑作にいたってはほとんど必要ない。水の不足も解決する。この案がうまく機能するには、農民が作る作物をきちんと守らなければならないし、互いがエゴを捨て、協力し合う必要がある。成功すれば農産物の飛躍的増産が期待できた。
（引用終了）
土木技術者は技術力だけでなく、むしろハートが無ければ決して人の心の中に残ることは無い事を示して下さっています。
一旦は公務員の職を辞してまで、上記のダム事業に専念なさったというような経緯も紹介されていました。
頭が下がります。。。
参考資料＞土木学会誌2002年5月号『技師八田與一と烏山頭ダムのこと』
購読していますが、この記事は読んでいないですねぇ。。。
物持ちの良いヤマトですから、探し出そうと思っています。
さてさて、今回は番外編として八田 與一 氏をご紹介させて頂きました。
順番にはあまり拘りがありませんから、どんどんご推薦下さいね！
それに、ヤマト、こんな逸話もあるんだぞ！というようなこともドンドンお待ち致しております。
ヤマトは何も分かりませんので、頂いた情報からネットで一所懸命検索するだけですけど。。。
では今回はこれにて^^)／~
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土木技術者列伝（2）川村孫兵衛（宮城県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し広く広報することによって、土木界全体の地位向上と我々土木技術者のインセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。どうか皆さんで追記して下さい。
「土木技術者列伝」と称してスタートしたシリーズですが、講座講師のように周到な準備を行って開始した訳ではありませんから、実は困っていました。
そこへ助け船を頂きましたぁ。
講座仲間のlightupさんです。
lightupさんは総監・口頭試験対策の真っ最中ですが、見かねて次の方をご紹介下さいましたぁ～～
川村孫兵衛重吉(ｶﾜﾑﾗﾏｺﾞﾍﾞｴｼｹﾞﾖｼ) 氏
です。
時は関ヶ原の後、場所は仙台藩。
随分と古いお話です。
現在の山口県に生を受けた孫兵衛は、縁あって仙台藩へ。
そこで彼は、仙台藩の悲願であった仙台平野北部の新田開発を実現するため、水路整備と河川改修を行います。
仙台平野北部には、北上川(ｷﾀｶﾐｶﾞﾜ)・江合川(ｴｱｲｶﾞﾜ)・迫川(ﾊｻﾞﾏｶﾞﾜ)があって、これらは川幅が狭く流れが急であったため、洪水の都度氾濫していたようです。
このため、仙台平野北部は湿地帯や湖沼地帯が多数点在する耕作不適地になっていました。
4年の歳月をかけて孫兵衛は、迫川と江合川を合流させ、後に、その合流に北上川の西流を戻すことで、北上川、迫川、江合川の三大河川を一本化し、舟運路としての北上川の機能を飛躍的に高める工事を行い、完成させました。
当時、仙台藩の公称石高は６２万石でしたが、新田開発が進展した結果、実質石高は１００万石を楽に超えていたと言われています。
さらに、孫兵衛は石巻(ｲｼﾉﾏｷ)の築港工事を行い、米の一大集積地としての地位を確立する礎を作ります。
こうした、孫兵衛の実績の中で忘れてはならないのが、リーダーシップと人的資源管理能力です。
北上川改修工事においては、設計や現場監督のみならず、工事資金が足らないと聞けば自ら金策に走り回って費用を捻出したり（経済性管理）、工事で移転を余儀なくされた人々の年貢の減免を藩にかけあったり（社会環境管理）もしました。また、現場で働く人足たちの意見や要望を聞くため、彼らと寝食を共にすること（人的資源管理）も多々ありました。
少しこじつけっぽいですが、総監的能力を遺憾なく発揮されたからこそ、この難工事は完成へ導かれたのでしょう。
理論だけでは大事は為せません。
人の気持ちを掴むことが如何に大切か。
経済性管理優先の現代に、先人の残した遺産が物語っている気がしてなりません。
ところで、川村孫兵衛重吉とは、どこまでが「姓」でどれが「名」何でしょうかねぇ？？？
一説には孫兵衛の子孫が全員孫兵衛を名乗ったため、区別するための名前とも言われますが、定かではありません。
お分かりの方がいらっしゃいましたら、教えて下さいませんか？
以下に参考URLを掲載しておきました。
興味がお有りの方は是非どうぞ！
【参考URL】
○治水・利水・災害対策に尽くした人々（川村孫兵衛重吉）
○江戸期における北上川改修事業
○治水の名手 川村孫兵衛
※lightupさんがご紹介下さった方が、実はもうお一方いらっしゃいます。
この方については、少々考え中です。
アップするつもりなのですが、少しお待ち下さいねぇ。。。
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土木技術者列伝(3)ヨハニス・デ・レーケ（福井県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し広く広報することによって、土木界全体の地位向上と我々土木技術者のインセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。どうか皆さんで追記して下さい。
今回は福井県からのご紹介です。
ご紹介下さったのは高志の国からさんです。
ご紹介頂いた方は
ヨハニス・デ・レーケ(ｵﾗﾝﾀﾞ) 氏
です。
高志の国からさんが、ご紹介下さったのは、三国港突堤、通称エッセル堤の施工監督者です。
エッセル堤は、明治11年から18年に国の御雇外国人技師としてオランダから招かれたエッセルが設計し、同じくオランダ人のデ・レーケの指導監督で造られた、日本初の西洋式捨石防波堤です。明治初期、土砂の堆積により船の運航に支障をきたすようになった三国港(現福井港)の防波・防風と航路への土砂堆積防止を目的として整備されました。時代の荒波に耐え、築後100年以上経った今も現役で港を守る大きな役割を果たしています。
なお、平成15年12月25日、文化財保護法の規定により重要文化財に指定されました。
ヨハニス・デ・レーケの名は、勉強嫌いのヤマトでさえも知っていました。
但し、この地域・この分野で登場されるとは思ってもいませんでしたぁ。。。
「砂防の父」とも言われるヨハニス・デ・レーケは、きっと別な地域・別な分野でもご登場なさることでしょう～
但し、ヤマトが触れていきたい偉人達の信念や信条など、モノ造りを通じて現出させた思想性を調べたかったのですが、簡単には見つかりませんでしたぁ。。。
エッセル堤に関与したヨハニス・デ・レーケの裏側、特に精神性の部分など、ご存じの方がいらっしゃいましたら、教えて下さいねぇ～～～
参考URLには写真等がアップされています。
【参考URL】
○産業技術遺産探訪 三国港突堤（エッセル堤）
○エッセル堤
○近代土木の散歩径 エッセル堤
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土木技術者列伝(4)桜井小太郎（青森県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者のインセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆さんで追記して下さい。
今回は青森で探索してみました。
悩みましたが、この方をご紹介させて頂こうと思います。
桜井 小太郎(ｻｸﾗｲｺﾀﾛｳ) 氏
です。
上の写真は、日本最古と言われるアーチ状の重力式ダムの大湊第一水源池堰堤です。
旧海軍大湊要港部により建設され、明治４２年に完成したそうです。
海軍の水道施設として使用され、その後、昭和５１年までは水道水源として使われました。
設計は、後に東京の丸ビルなどの設計をなさった桜井小太郎氏。
青森県指定の文化財で、土木学会の「日本の近代土木遺産～現存する重要な土木構造物２０００選 」に選定されています。
本当は青函トンネルの大谷豊二氏にしようか？はたまた三本木原台地開拓の新渡戸傳(ﾆﾄﾍﾞﾂﾄｳ)氏にしようかと迷ったのですが、インパクトの強さと優美さに負けました。
フォルムといい、景観性といい、見る者を惹きつけて止まない説得力は、設計者の意思までをも映し出しているようです。
【参考URL】
○大湊ダム
○大湊要港部水源地堰堤
○水源池公園
【土木学会】
調査不足は否めませんので、どうか追加書込のための情報をお待ちいたしております。
また、過去のブログも随時加筆修正を行っております。
次回は、秋田県、岩手県、山形県辺りでアップしたいと思っております。
皆様のご協力を宜しくお願いいたします。
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土木技術者列伝(5)ピーター．P．ヤンセン（秋田県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者のインセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆さんで追記して下さい。
今回は秋田県にスポットを当てたいと思います。
秋田県と言えば、「八郎潟」。
コチタロさんからご提案を頂いた
ピーター．P．ヤンセン教授(ｵﾗﾝﾀﾞ)
を取り上げたいと思います。
以前も外国人を取り上げたことがあります。
ヤマトは、日本人であれ、外国人であれ、国土と国民のために力を注いだ方々を区別しようという考えを持っていません。
ですから日本に名を残す土木の偉人としてヤンセン教授を取り上げることにしました。
さて、
大潟村は、昭和32年に干拓がはじまるまでは、琵琶湖に次いで、日本で二番目に大きい“八郎潟”という湖でした。
八郎潟は、深いところで約４～５メートルという浅い湖だったので、昔から様々な人が干拓による農地造成を考えていました。
江戸時代には、払戸村（若美町）の渡部斧松(ﾜﾀﾅﾍﾞｵﾉﾏﾂ)という人が、岸の浅い場所を干拓して田を作りました。
明治時代には、島義勇権令（県知事）が初めて大がかりな干拓計画をたてましたが実行できませんでした。
大正・昭和にはいると、こんどは国の力で干拓しようと何度も計画を立てましたが、第二次大戦勃発により実行できませんでした。昭和２０年、大戦終結後、日本全国の食糧不足が契機となって干拓事業が開始されることのなるのです。
表向きはそうなのですが、
実は、サンフランシスコ講和条約調印後、吉田首相はアメリカからオランダへの配慮を求められます。
そこで思いついたのが、オランダの干拓技術の導入だったようです。
昭和29年、ヤンセン教授とフォルカー技師が来日し、現地調査を経て干拓計画ができあがったそうです。
これが噂に名高い「ヤンセン・レポート」です。
これについては随分調べてみましたが、ネット上にはどうやら見あたりません。
しかし、
○大潟村干拓博物館
ではCD-ROMにて閲覧可能とありますから、これはコチタロさんにお願いするとして、ご報告を待ちたいと思います。
コチタロさん、どうかレポートの程宜しくお願いいたします。
ヤンセン教授の偉業の中で、今では当たり前になってしまった工法名がありました。
「サンドベッド工法」です。
上の写真の堤防の下5ｍぐらいまでヘドロを全部取り除き、幅130ｍの砂床に置き換えるという大掛かりなサンドベッド工法により、日本の技術陣がついぞ克服できなかった軟弱地盤での築堤が、これで安全度100％になったそうです。
ここで、ことさら100%と記述しているのは、以下の記事をお読み下さい。
干陸式を目前に控えた39年5月7日、突如震度４の地震（青森県西方沖地震）に襲われ、完成寸前の堤防や構造物が被害を受けた。この衝撃も覚めやらぬ同年6月16日、震度４の新潟地震に再び追い打ちをかけられた。
堤防被害は、最大1.7ｍの沈下。外水位スレスレであったそうだ。
堤防の小段道路やアスファルト舗装に亀裂が入り、天端は波打つように沈下していた。
しかし、細心の注意を払って計算、施工された正面堤防の被災は比較的小さく、本体は安泰であった。
部外者やマスコミは、この程度の地震で壊れる堤防であったのかと、その原因がよく分からなかったこともあって、騒ぎ立てたそうだ。
その後の調査で、地震による堤防の安定性に問題があったのではなく、予期せぬ「砂の流動化現象」（液状化）により被災したことが判明。
堤防の幅を広くするなどの復旧対策を行い、同年9月15日の干陸式を無事迎えたそうである。
こうした事態を背景として理解すれば、100%という表現の意味がご理解いただけるのではないかと思います。
しかし、ヤンセン教授の業績は明らかにすることができませんでした。
どうか皆さんのお力添えを頂いて、もう少し明らかにしていきたいと思います。
最後に、
ヤンセン教授は、吉田首相への報告で、いつも日本の技術陣の能力を褒め上げたそうだ。
「日本の土木技術は、高額の費用を払って私を招く必要はなかった。なぜ日本は私らを招いたか真意がわからない」と言ったそうだ。
真相は不明である。
が、こうしたスタンスは是非とも必要なコミュニケーション・スキルなのだと感じるのはヤマトだけでしょうか？
【参考URL】
○八郎潟干拓と大潟村の歴史
○干拓工事
今回のヤンセン教授につきましては、まだまだ明らかにすべき点が多く残されているようです。
皆様方からのお知恵を拝借して、さらに内容の充実を図りたいと考えています。
是非ともご協力を宜しくお願いいたします。
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土木技術者列伝(6)葛西万司(岩手県) |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆さんで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
今回はまず写真からご覧下さい。
上の写真は、JR釜石線の宮守駅から南に300mほど行ったところにある国道283号と宮守川を跨ぐように架かる「宮守川橋梁」です。
通称「めがね橋」と呼ばれているそうです。
設計者は、辰野金吾氏と葛西万司(ｶｻｲﾏﾝｼﾞ)氏の辰野葛西事務所となっています。
辰野金吾氏は、別な機会に登場なさるでしょうから、今回は葛西氏にスポットを当てたいと思います。
それは、葛西氏のご出身が岩手県だからです。
師匠に当たる辰野氏が設計の大半をリードなさったのかもしれませんが、
対象現場が葛西氏の地元であり、しかも専門である建築とは異なる橋梁という土木施設の設計であったことを考え合わせると、様々な思いが込められていたのではないかと思えてくるのです。
「めがね橋」は、岩手県遠野市にあり、1943（昭和18）年9月に竣工した鉄筋コンクリート造・バランストアーチ橋（５連アーチ橋）です。橋長１０７．３ｍ、高さ１７．８ｍ（川面から）だそうです。
'02年に土木学会選奨土木遺産として指定されています。
昭和18年に改修された達曽部川橋梁「岩根橋」・宮守川橋梁「めがね橋」は、宮澤賢治の童話「銀河鉄道の夜」の原風景を連想させ、旧・宮守村のシンボル的な景観として親しまれているそうです。
辰野葛西事務所は、東京駅の設計も行っており、あのレトロな煉瓦づくり駅舎とこの「めがね橋」は共通する景観要素を持っているような気がします。
建築家の設計した橋梁は、見事としか言いようのない雰囲気があります。
最近の作ですが、レンゾ・ピアノ氏の牛深ハイヤー大橋なども素晴らしいものでした。
近い将来、建築士をと思いたくなるのは、こうした理由からなのです。
という事で、葛西氏の背景や思想性など、全く記述できていません。
これをご覧になられた方で、情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非ともご提供を宜しくお願いいたします。
【参考URL】
○産業技術遺産探訪（宮守川橋梁）
○「風の又三郎」モデルの学校
○めがね橋（宮守川橋梁・達曽部川橋梁）
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土木技術者列伝(7)黒井半四郎(山形県) |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆さんで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
さて、今回は山形県です。
ここではヤマトの尊敬する
上杉鷹山(ｳｴｽｷﾞﾖｳｻﾞﾝ) 氏
をと思いましたが、あまりに人物像がデカ過ぎて、「土木技術者列伝」には不釣り合いかな？と思い、断念しました。
但し、参考URLだけは記載させていただきます。
○複眼で読む上杉鷹山公秘話
○改革の道、歩み続けた心優しい名君。
さて、鷹山の土木業績はと言えば、
「黒井堰(ｸﾛｲｾﾞｷ)」「穴堰(ｱﾅｾﾞｷ)」 という水路を作ったことでしょう。
これにより、米沢盆地北部の水不足を解消して現在の農業の基礎を作りました。
この二つの堰を鷹山の下命により手がけた人こそ、今回ご紹介する方
黒井半四郎(ｸﾛｲﾊﾝｼﾛｳ) 氏
です。
寛政６年（１７９４）、黒井の指導の下、３１カ村の灌漑用水不足解消のため、官民一体となった灌漑堰開発事業が着手される。まず最上川上流（松川）の左岸、下窪田から糠野目、赤湯、梨郷まで約五里にわたる用水路である上堰の開削。そして赤湯村の吉野川以南などにも引水できる約四里の用水堀である下堰の開削。難工事の連続ではあったが、予定通り３カ年で完成を見ることとなる。工事に費やした人夫１０万６，６２５人、要した経費７，９３３貫文（現在の約１億７千万円）という遠大な事業であった。しかしこの利水事業が藩民にもたらした利益は語り尽くせない。米沢藩が将来にわたって立ち直る大きなきっかけとなり、黒井堰は今なお置賜地方に豊かな水脈を与えている。
のちに鷹山は黒井半四郎忠寄の功績を称え堰を「黒井堰」と命名した。
下の写真は、現在の黒井堰取水口の様子です。
今でも形こそ変わりましたが、重要な施設として更新し利用されているようです。
１７９８年（寛政１０年）、奥田村（川西町）の肝煎横山平左衛門が飯豊山地蔵岳の頂上にトンネルを堀り、越後側に流れる水を白川へ落とす大プロジェクトを立案。この穴堰は飯豊山中津川登山口より標高１，５００ｍの７合目にあり、横通尾根を貫いて、西の大又沢の東の白川渓谷をつなぐという奇想天外なものであった。
藩主鷹山はこの献策を受け、黒井に調査・設計を命じ、「飯豊穴堰」開削事業が始まった。しかし山岳で雪が深いため工事は夏の２カ月に限られ、困難を極めた。さらに当時はダイナマイトなどはなく、硬い花崗岩を砕くためには熱湯をかけて岩を焼き、タガネで打ち砕くという非常に手間のかかる施工法であった。黒井堰、飯豊穴堰という二大事業における過労のためか、黒井半四郎は工事まもない寛政１１年、病に倒れた。５３歳であった。その後約１５年の歳月と４０２４貫４２５文(現在の約８６００万円)を要し、飯豊穴堰は完成をみる。坑道は全長約１５０メートル、高さ１．５メートル、幅約六６メートル。
この結果白川の水量は増し、水田面積は大いに拡大。用水路が確保されたことで、多くの農作物が作付けされるようになった。鷹山の晩年には、莫大だった借金もほとんど返済し、米沢藩の財政は永続的安定がはかられた。そしてこの飯豊穴堰は、後の現代、１９８０年の白川ダム完成まで、長年にわたって水田を豊かに潤し続けていくことになるのである。
下の写真は、飯豊山穴堰絵図と現在の穴堰の様子です。
黒井氏は、家臣団である五十騎組の出身で、幼いころから和算（算術）の勉学に励み、中西流和算の最高免許を受けました。その力が認められ、藩の財政を司る勘定頭に任命され、無駄な出費を削るなど、藩財政の改善に努めた。
半四郎は寛政元年（１７８９）には藩政の中枢をになう御中之間年寄に昇格しました。藩財政の改善には、支出の削減だけではなく、収入の増大も必要と考え、灌漑用水を整備して米の増収を図る計画したそうです。
穴堰の工事は半四郎の死後も計画どおり進められ、１９年後にようやく完成したが、半四郎の計算どおり、山の両側から掘ったトンネルはわずかのズレで見事に結ばれたそうです。驚くべき計算能力と、現場管理能力です。
この「飯豊の穴堰」は、現在県の史跡に指定されています。
【参考URL】
○黒井堰 米沢藩士黒井半四郎の一大灌漑事業
○飯豊山穴堰
上杉鷹山にばかり目がいっていたヤマトですが、調べてみて黒井半四郎氏という人物に巡り会い、彼の業績の偉大さを改めて知ることができました。
しかし、彼もまた詳しい資料を探し出すことができませんでした。
さらに、飯豊山穴堰を考え出した方も素晴らしいひらめきであったと感嘆します。
情報が十分ではありませんから、コメントをすることすらできないのですが、機械も道具も現在とは比較のしようが無い状態での工事ですから、想像を絶するものであったことでしょう。
それでも、PPPのような活動関係が築かれていたとの記述も残されていますから、やはり鷹山の人心掌握術はさぞかしと思わざるを得ません。
このブログにつきましても、お読み下さった方々からの補足情報をお待ちいたしております。
是非ともご協力を宜しくお願いいたします。
最後に、大好きな上杉鷹山のおなじみの言葉を二つ。
○為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の 為さぬなりけり
うぅ～む。やる気さえあれば、何事も絶対に達成することができる。
そのためには、目標を定め、ひたすら精進することが大切なのでしょうね。
技術士試験でこれから口頭試験を受けられる方、
来年に向かって決意を新たになさっておられる方。
人様々だと思いますが、何より大切なことは、自分を信じる事です！
必ず明日は開けます！
○してみせて 言って聞かせて させてみる
子供との関係でいつも使う手法です。
子供が、分からない問題を質問してくる。
私が、解答を示す。
そして、解答のプロセスを解説する。
次に、子供に自分の考え方と融合して自ら解答を導いてみる。
実行力を伴わない言葉は空虚ですよね？
それに反して、実際を伴う言葉は重たいですね。
我々技術者はかくありたいものだと常々思っています。
以上、余談でした。
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土木技術者列伝（番外編2）田部純正(映画監督) |
ヤマトです。
以前、lightupさんから頂いた情報「民衆のために生きた土木技術者たち」から、あれこれ検索していました。
すると、”灯台もと暗し”のような情報にぶつかりました。
「映画監督が語る土木の魅力」
です。
なぜ、灯台もと暗しなのか？
土木学会誌はずぅ～っと購読していたからです。
読んでいない証拠ですねぇ。。。情けない
さて、田部監督の言葉からいくつか気になる部分を拾ってみましょう。
『新潟県にある大河津分水可動堰を撮ろうとした場合，カメラを向ければ堰を撮ることはできます。でも堰を撮影できてもそれだけでは，一般の人には何がすごいんだかわからないわけですよ。大河津分水可動堰を理解するためには，越後平野の過去の歴史や，地域がどのように改善されたのか，といった歴史的背景，そして大河津分水可動堰というものが技術的にどのように大変なのかという技術的知識が必要なんですよ。』
ここでヤマトが感じたのは、「視点」と「視野」の問題です。ある意味「俯瞰」にも通じるような。。。
何気なく行っている工事ですが、それは時の流れの中の一部分を切り取ったようなフェーズでしかありません。
その前にはもちろん、その後にも継続する時があるのです。我々の仕事は、その前後の時を繋ぐ役割なのかもしれないなぁ。。。と思った次第です。
『土木というものがインフラに関わり，時に人命にも関わるものであることを考えれば，耐用年数や時代とともに進歩する技術によって改修などで姿を消していくのもやむを得ないものだろうとは思いますが，かけがえのない歴史的遺産が姿を消していくのは寂しく，残念に思いますね。』
全く同感です！
造りすぎない造り方。
というテーマでの構造物の設計・施工に対する取組事例が以前の日経コンストラクションに特集されていたのを思い出しました。
我々土木を志す者は、遠い将来の人類が、「これは残したい！」と思うような施設を造るよう心がけなければならないのでしょう。
それには、時代に踊らされない骨太で地域本意の創意工夫を凝らした配慮が必要なんでしょうね。
八田與一氏とファン・ドールン氏の例を挙げ、『土木にはそれだけ人々の心を動かすものがあるんです。これは，土木の大きな魅力ですよ。』
自分のことは後回しにして、他人を優先する。
どこにでもあったありふれた光景が、今は希少な場面に思われるのはとても寂しいことです。
しかし、人の心を動かすのは、単純だけどそうした何気ない意思を持った行動だと思います。
土木では、それをしようと思えば存分に行えるフィールドがあります。
個人主義が支配的な現代ですが、気持ちは必ず通じるはずです。
『明治以前の技術者は，洪水の氾濫というものが完全には止められないものだというのがわかっていたみたいなんですね。自然の力は強大なもので征服できるものではありません。100のものを0にすることはできないからせめて50にしよう，そういう知恵をこの時代の人々はもっていたんです。』
竜馬さん。
明治以前は、そこら中が総監技術者だらけだったみたいですよぉ～
科学技術偏重と申しますか、絶対主義と申しますか。。。今の世には真の意味の総監技術者が圧倒的に不足しているのでしょうね
『内村鑑三は，“人民救済を目指した土木事業がいかに後世への最大の遺物足り得るか”と力説しています．そういう点で，土木に将来がないはずがないんですよ。ところが，近年の土木事業はあまりにも巨大で，大きなお金が動いているために一般の人々が理解できる範囲を超えてしまっている。』
これもそのとおりですねぇ。
身近なところから、一般の方々の理解を求めていくというか、協働して社会インフラを整備していければ良いなぁ。。。と思ってしまいますね。
以上、土木学会の「外から見る土木」と題したシリーズから引用させて頂きました。
とても示唆に富むコメントが多く、頷くことばかりでした。
土木技術者を取り巻く昨今の状況に、ともすると俯き加減になりがちですが、自信と誇りと勇気をもって、遠い将来を見据えながら、目の前の仕事を精一杯心を尽くしてこなしていく。
これが、現状を打開する唯一の方法では無いのでしょうか？
土木学会誌のバックナンバーも参考にしてみて下さいませ。
今回は、番外編として映画監督の田部純正氏を取り上げました。
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土木技術者列伝(8)ファン・ドールン(福島県) |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆さんで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
今回は、福島県です。
とても懐かしい場所です。
今では「ラーメン」で全国的にも有名な喜多方市に、以前住んでいたことがあります。
ですから他所の県のような気がしないのです。
当時はまだラーメンがさほど有名ではなく、どうしてここはこんなに美味しいラーメン屋さんがいっぱいあるのかなぁ？？？と、ずっと思っていました。
初めてスキーを猪苗代のゲレンデで滑ったのも、初めてラケットを握ってテニスをしたのも、ぜ～んぶここ喜多方でしたから。。。
さて、今回ご紹介するのは、以前lightupさんから宮城県でとご紹介いただいたこの方
ファン・ドールン(ｵﾗﾝﾀﾞ) 氏
です。
番外編でご紹介させて頂いた田部純正氏の記事に出してあったのは布石だった訳です。
ファン・ドールンは、オランダの優秀な水利土木の技術者で、明治政府の招聘により、１８７２（明治５）年２月に来日します。ファン・ドールンは、政府の土木寮の長工師（技師長）として、日本各地の河川改修や港湾建設に貢献することになります。
そして、ファン・ドールンは、猪苗代湖の水を、峠を越えて郡山地域に流すための水路コースを考えました。これが、「安積疏水（ｱｻｶｿｽｲ）」と呼ばれる水路です。
ファン・ドールンは、１８７８（明治１１）年１１月に、日本人技師・山田寅吉の行った測量・設計の資料に基づいて、現地調査を行い精密な水利計算により「安積疏水」に適した水路コースを報告書にまとめます。
これによって、52kmにも及ぶ「安積疏水」の開削が行われます。
安積疎水と会津の日橋川の入り口に、会津へ影響を及ぼさないよう湖面の水位調整を行うために設計した「十六橋水門」により、湖の水は湖の水位を変えることなく、郡山地域に流れるようになります。
この結果、安積開拓で開墾された土地が水田となり、郡山地方の米の収穫量が増加していくことになります。
現在では、郡山市の米の収穫量は、全国の市町村の中で、第2位だそうです。
こうした、彼の業績を称え、地元民の手で昭和6年、猪苗代湖十六橋の水門のたもとに銅像が建てられたそうです。
しかし、第二次世界大戦の時、供出命令が出されたため消滅の危機に見舞われます。この時、地域住民が隠し、戦後に再び戻したそうです。
同じような話を番外編の八田與一氏の時にも書いたような。。。
映画監督の田部純正氏が「土木にはそれだけ人々の心を動かすものがあるんです。これは、土木の大きな魅力ですよ。」とおっしゃっておられます。
各種資料には表れない陰の努力と苦労が相当にあったことを物語っていますし、それに負けることなく力の限り現場や地域に尽くした様子がうかがえます。
昭和54年6月には郡山市がアムステルダムにドールンの墓碑を建てました。そのいきさつにはこんなエピソードがあります。
ある小学校教諭が、オランダに行って調べたところ、ドールンの墓はアムステルダムの一般墓地にあるにはありましたが、無縁仏同然になっていました。
この報告を受けた郡山市が2,800万円の募金を募り、立派な墓を再建したのです。この時、盛大な供養祭を行ったことから100年もの昔、日本の発展に貢献した人物がいたことを知った地元市長が、この話に感動し新開地の道路を『ファン・ドールン通り』と命名したそうです。
土木人もここまで来ると凄すぎると言わざるを得ませんが、決して悪い気はしませんね。
我々は、少なくとも名も無き土木屋かもしれません。
しかし、心意気だけはファン・ドールンに負けたくは無いですね。
lightupさんが折角ご紹介下さったファン・ドールン氏ですが、安積疎水でのご紹介とさせていただきました。申し訳ありませんでした。口頭試験まであとわずかですね。知識は十分だと思いますから、精神性で勝負してきて下さい。みんなで応援していますよぉ～～～
さて、次回ですが、宮城県では先般lightupさんのご推薦により川村孫兵衛氏をご紹介させて頂きました。
そこで、次回は新潟県に跳んでみようかと思っています。
是非、お近くの方からのご推薦をお待ちいたしております。
我が町、我が郷土の誇る土木の偉人をご紹介下さいませ！
【参考URL】
○安積疎水を開削したファン・ドールン
○繁栄の歴史語る“陰の主役”
○十六橋水門
○安積疎水とは
○ヤマトのお気に入りだった「大三元」のタンメン
の写真は
もう一度食べたいなぁ～
などと書いていたら、無性にラーメンが食べたくなってしまいましたぁ～
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土木技術者列伝(編集記1) |
ヤマトです。
これまで北海道・東北地区を眺めてきました。
はっきり申しまして、かなり悩みました。
なかなか人選に苦労いたしました。
この人で良いのだろうか？？？
読んでくださる方にインセンティブを伝えることはできるのだろうか？
はたまた調査不足で人となりを十分伝えきれないことは承知していても、ご本人の人格を損ねていないだろうか？
さらには、ご本人の意志を十分反映しているだろうか？
などなど悩みは尽きませんでした。
この「土木技術者列伝」の冒頭には目的が書いてあります。
しかし、あまりにも大きな目的であるため、お読みくださる方々に意図が通じるかどうかについても大きな疑問があります。
また、ヤマトからの一方的な情報提供にしか過ぎない現状は、とても正常な状態とも思えません。
情報の交換・共有が理想ではありますが、「言うは易く、行うは難し。」です。
ヤマトのインセンティブ提供が不十分であるため、なかなか活発化しないのだと自らに言い聞かせているところです。
さらに、今後は模索をしながら、皆様方にコメントをいただきやすいコンテンツを心がけて参りたいと考えています。
是非とも、気軽に書き込みをして頂ければありがたく思います。
その結果、読者間でのネットワークが拡大していくきっかけになればと思う次第です。
どこかのサイトを探せば、きっと今ヤマトが書いている内容の大半は得られるだろうと思います。
しかし、ヤマトがしたいことは、情報の提供という側面だけではなく、社会的に見て劣勢に立つ建設業界自体の自信と勇気の復活です。
そのために、過去の偉人たちを取り上げ、そこに潜む信念の一端を見ることによって目的を実現していこうと考えた次第です。
過去の偉人たちのように、我々は一人で何か大きなことができるとは思いません。
しかし、ネットワークを使って協力すれば、もしかすると偉人たちの成し遂げた成果よりも大きな結果を手にすることができるかもしれません。
是非とも皆様のご協力をよろしくお願いいたします！
本日は、これから山仕事に出かけます。
その後、歯医者へ行き、午後からは年賀状の印刷で忙殺されそうです。
したがいまして、土木技術者列伝のアップは難しいかもしれません。
悪しからずご了承を賜りたく存じます。
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土木技術者列伝(9)正子重三(新潟県) |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆さんで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
今回は新潟県を取り上げます。
さて、どなたにしようかと悩んでいました。
まず、対象はやはり何と言っても「萬代橋」です。
福島県にいた頃、「新潟ブルース」を大好きな先輩がいらっしゃって、カラオケで良く歌っておられたことを思い出します。その歌詞にも「萬代橋」が出てくるんです。
余談でしたぁ
その萬代橋の設計者・福田武雄氏にしようかと考えたのですが、調べていく内、驚愕の事実に遭遇しました。
そこで、今回はその驚愕の人物
正子重三(ﾏｻｺｼﾞｭｳｿﾞｳ) 氏
をご紹介いたします。
現在の萬代橋(ﾊﾞﾝﾀﾞｲﾊﾞｼ)は３代目の橋で、初代は1886年竣工で萬代橋(ﾖﾛｽﾞﾖﾊﾞｼ)と言われたようです。
現在の萬代橋は1929年竣工ですが、この橋はこれも有名な大河津分水(ｵｵｺｳﾂﾞﾌﾞﾝｽｲ)の完成により、河川幅が１／３となった信濃川に架かり老朽化した２代目萬代橋(木橋)の更新が決定されたようです。
３代目萬代橋は、RC（鉄筋コンクリート）アーチ橋が採用されます。関東大震災に際してアーチ橋の損傷が少なかったこと、また河口に近いため、鉄橋では潮風による錆が懸念されたことが原因のようです。
新潟は砂地盤ですから、当時から耐震性能は何よりも重要な要素だったのでしょう。
福田武雄氏の設計なさった橋は、非常に緩い放物線を描いて僅かに中央で反り返っており、強度と美観を巧みに両立させている。橋脚を減らすため、当時の技術で許す限りのロングスパンアーチ6連構造としたが、全体のバランスを計算し、中央支間から順に42.4m、41.5m、39.0mと、端に行くにつれて僅かずつ小さくなっている。中央部のアーチが大きいのは、当時まだ盛んだった信濃川の河川交通を阻害しないことを配慮したことが原因のようです。
福田武雄氏は、廣井勇氏の弟子である田中豊氏の事実上最初の弟子だったそうです。したがって、福田武雄氏は廣井勇氏の孫弟子ということになる訳です。縁とは異なものですね。
萬代橋の意匠担当は建築家の山田守氏だそうですが、全体の構図が廣井勇氏を彷彿とさせるのは事実を知ったからでしょうか。
橋脚の基礎部には、当時の日本ではまだ例の少なかった空気潜函工法（ニューマチックケーソン工法）が用いられることになりました。この工事では、初めて日本人のみの手によってケーソン工法が実施されました。
ニューマチックケーソン工法はアメリカから導入された当時最新の技術で、関東大震災の復興時に招請された米国人技術者の指導により、隅田川に架かる永代橋の架橋工事に導入されました。萬代橋架橋に当たっては、この技術指導を受けた技術者である、元震災復興局技師の正子重三氏らが招かれます。
やっと今回の主役が出てきましたぁ。
そうです。
この３代目萬代橋の基礎工事でニューマチックケーソン工法に深く関わった方が、正子重三氏です。
彼は、1886（明治20）年岡山県英田町生まれ。
そうなんです。ヤマトと同郷なんです。
しかし、恥ずかしいことに正子重三氏のことを今まで知りませんでした。
だから驚愕なんです。
建設工事が行われた当時は、まだケーソン工法が一般的でなかったため、新潟市民は実情を理解しないままに「恐ろしい作業現場」という誤ったイメージを抱くことになったそうです。
作業員は毎朝、潜函上の筒の中に入ったきり、なかなか出て来ませんでした。詰所には診療所が設けられており、夕刻になると潜函夫らが人力車に乗って病院に向かう姿が見られたそうです。これらは安全対策のために十分な検査に努めた故の措置でしたが、市民はこれを遠巻きに見て重大事態であると誤解したそうです。
やがて市内では「あの筒の底では、毎日何人もの人が死んでいる」「一度入ったら、二度と戻ってくることはできない」など、あらぬ風説が立ち始めたそうです。工事は万全な安全対策を施しており、死亡事故も発生してはいなかったものの、この風説によって市民や関係者が動揺し、工事に支障を来すことが懸念されたようです。
そこで工事指揮者の正子重三氏は、工事の実情を広く公開して誤解を解くため、地元新聞記者を潜函内の現場取材に招く策を採用したようです。現場の状況が詳細に報道されたことにより、ほどなく風説は沈静化したそうです。
広報の重要性を知り、そしてそれを行い得たのは、正子氏に確たる自信があったからに他なりません。しかも、官の力が今とは比較にならないほどに強大であった時代にです。
正子重三氏は、『名ハ求メズ』。
そして、『私の役目は、この優れた技術を日本の地に根付かせることである』と、語っておられます。
萬代橋施工以後、正子重三氏は技術者集団と共に、日本各地を巡り歩き、橋梁等、実に200以上の基礎工事を次々に手掛けたそうです。
特に潜函工事においては画期的進歩をもたらし、特殊の性能と経済的価値を付与した技術者であったようです。
現代的に言えば、流浪の技術屋だったと言えるでしょう。
正子重三氏は、『責任ある者は義務を負う』といつも胸に刻んでいたそうです。
正子は、上も見ず、また下も見ず、ただ己の使命感に従った人であったそうです。
昭和４年８月27日、新潟新聞紙上に「新萬代橋工事に就いて」との見出しで、正子重三氏は次のように述べておられます。
『また、竣工した橋も新潟の名勝として名橋として天下に誇って差し支えないだろうと信じている。それと同時にこの新橋には重大なる使命があると思う。新潟市並びに新潟地方発展のために非常な働きをせねばならぬ義務がある。それには市県民一致協力してこれを愛し合い、誇り合うようにして貰いたいと思う。―中略― 橋の寿命は大切にすると如何によって非常な差異があるものである』と。
正子重三氏は、東京の事務所の部屋で昭和39年6月16日の新潟地震の連絡を受けます。あまりにも無残な新潟市の状況の中で、黒煙の内に傷つきながら萬代橋だけが唯一必死に耐えていたそうです。唯一残った国道橋（萬代橋）の補強が緊急的な大問題となりました。
そして、正子重三氏に白羽の矢が立ちます。この時、正子重三氏は80歳近いお年だったそうですが、現地を視察し、我が子を扱うように萬代橋の手当てにご尽力なさったそうです。
さらに時代を下って、引退なさった後も瀬戸大橋架橋に大いなる知見を与えられたと記されています。
最後まで書いてきて、なぜか涙がこぼれ落ちてきました。
近代土木史にこれほどの影響力を及ぼした方で、しかも同郷の方を知らなかったという羞恥もありますが、それ以上にその生き様に心が震える思いでした。
高等の研究畑で活躍なさったり、或いは総指揮を執る立場にあった方の名は、歴史に留めやすいですが、高等の専門的教育を受けたとは言え、現場たたき上げ的な方の名がこうして残るというのが嬉しくて仕方ありません。
土木の偉人とはヤマトにとってこういうタイプの方だと勝手に思っています。
今でも現役であり続ける萬代橋。
末永く大切にして頂けるとヤマトも嬉しいなぁ。。。と思います。
是非、以下の参考URLをご覧ください。
【参考URL】
○基礎づくり賭けた強靱な心の人(（社）北陸建設弘済会)
○万代橋潜函工事状況報告（正子重三著）
○萬代橋
○萬代橋資料館
次回は、せっかくなのでPMP氏からご紹介頂いた情報を元に兵庫県へジャンプしてみようかと思っています。
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土木技術者列伝(10)佐野藤次郎（兵庫県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆さんで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
今回のターゲットは兵庫県です。
PMP氏がせっかく原口忠次郎氏をご紹介下さったので、ヤマトなりの切り口で整理してみようと取りかかりました。
ところが、ご紹介下さった方の器量に合わせてご紹介くださったのだと思いますが、あまりにも凄い人物であるためまとまりません。
そこで、ヤマトのスケールにダウンして探してみました。
そこでたどり着いたのが
佐野藤次郎(ｻﾉﾄｳｼﾞﾛｳ)氏
です。
佐野氏は、水道専用ダムとして明治３３年に完成した日本最古のコンクリートダムである「布引五本松ダム」を設計なさいました。
佐野藤次郎氏はウイリアム・Ｋ・バルトンの教え子だそうです。バルトンという人は、普段着は和服だったと言われるほどの日本贔屓（にっぽんびいき）で、公務の暇には頼まれるとどこにでも出かけ工事や調査を助けたそうです。淡白な性格で、設計上の報酬などにあまり頓着しなかったと言います。教室においても、「いつも酒を呑んでいて、酔うたまま講義をしておられたようでした」という門下生の思い出話が残っているそうです。
？？？どこかに同じような方がいたような。。。
バルトンの下で学んだ佐野藤次郎氏は、明治二十四年八月に帝国大学工科大学土木工学科を卒業するとすぐに大阪市に技師として赴任しました。
佐野氏は水道のための鋳鉄管を購入するためスコットランドのグラスゴーに明治二十六年から二年間派遣されました。帰国後、明治二十九年大阪市を辞職し、吉村長策の招きで神戸市水道局の嘱託技師となります。
そして、明治三十三年三月佐野氏が設計した「布引ダム」が竣工します。
明治三十五年一月刊の『工学会誌』第二三七巻に「東洋諸国の石堰堤概況」と題する佐野藤次郎氏の報告が掲載されており、そのなかで佐野は布引ダムの工事を詳しく紹介しておられます。
今ではセメントに石膏（せっこう）を加えることは常識になっているようですが、当時は添加されなかったようです。そのため、凝結が瞬時に進行してしまいました。いわゆる始発から終結まで３０分で仕上げたそうです。
コンクリートの混合場は、堰堤の上流９０ｍ～１１０ｍの左右山腹の少し平坦なところに四台の練り台が設けてあり、人力で混合したそうです。
この四台を、総員３４名（男２１人・女１３人）で切り回した。内訳は、練り方人夫８人、小回り水入れ女４人、ジャリ掻き取り及び運搬（距離およそ９０ｍ）人夫５人・女８人、細砂掻き取り及び運搬（距離およそ９０ｍ）、コンクリート積み込み、人夫３人、セメント小運搬（距離およそ５５ｍ）、出来上がりコンクリート運搬及び搗き固め２５人。
コンクリート打設の最盛期には、このほかに錬鉄製の自動混合機も用いたようです。これは、直径４５ｃｍ、長さ２．１ｍの円筒で、なかに螺旋（らせん）のボルトが仕込んであり、上端から砂利とモルタルを交互に入れると、下端からコンクリートが出て来る仕掛けだったようです。搗き固めは千本搗きという道具により人力で行われました。
コンクリートの種類は、配合の仕方を変えて、甲・乙・丙・丁・戊と５種類もつくり、堰堤の場所により使い分けているそうです。
ダム基礎部の床付掘削は、当初設計では平均３．０ｍだったようですが、実際に着手するとクラッキーな岩盤特性だったため、左側は平均６．０ｍ、右側に至っては崩壊が特にひどく、平均９．０ｍの深さになったそうです。
また、渓流に沿って走る一つの断層が発見され、上流では厚さ３０ｃｍ、下流では１５ｃｍの粘土板を挟み込む形で走っていたそうです。そこで、幅平均３．０ｍ、深さ６．０ｍあまりを掘削し、甲号コンクリートを充填したそうです。
今では、調査技術が発達していますから、ある程度の精度で基礎部の設計が行えるかもしれませんが、当時は手探り状態だったでしょうから、変更管理は大変だったことでしょう。
堤体の全面には間知石（けんちいし）を積み、城の城壁を思わせる外観に仕上げられました。間知石の積み方を図面で見る限り、城の石垣積み技術が使われたことが窺われます。
意匠上の特徴は、堤体下流側上部の、垂直面が円弧へ連なる部分につけられた歯飾りで、これは、十九世紀中頃イギリスで流行していた新古典主義の影響が感じられます。
一段の石を周囲より前に出し、飛び出た部分の四辺を削るという細かな細工が施されていますが、こうしたところに佐野氏の、装飾にも気を使った精神が見て取れます。
和洋折衷の奇妙なダムの擁壁に、「世界に向かって厳然」たらんと心がける佐野氏の気概が、顕れているように思えます。
阪神大震にも耐え現在も神戸市の水源として使用されている布引ダム。
漏水がひどくなったそうではありますが、断裂や崩壊はなかったそうです。
どうやら布引ダムは、断層を巧みに避けて築造されたようです。
０１年度から堤体の耐震補強と、堆積した土砂の浚渫工事が行われたそうです。
１００年前に打たれたコンクリートの擁壁が少しもやつれた様子がなく、つい最近打たれたばかりのような真新しさででんと聳（そび）えていて、美しささえ感じたと現場をご覧になった方はおっしゃいます。
そして、次にこのコンクリートを見るのは22世紀だともおっしゃいます。
そうあって欲しいですね。
現場技術者の凄さをこの事例でも再確認させていただきました。
なぜ今回、佐野藤次郎氏をご紹介させていただいたかと申しますと、実は香川県の豊稔池の設計者でもあるのです。
この施設にヤマトは心酔していることが大きく、しかも調べてみると、我が住まいの近くの浄水場関連施設も施工なさったと記録があったのです。
どうかPMPさん、せっかくご紹介いただきましたが、今回はお許し下さい。
【参考URL】
○布引五本松ダム
○東洋諸国の石堰堤概況（佐野藤次郎 著）
○五本松布引ダム～はじめての大規模修復工事～
○布引ダム（改修工事）
○布引ダム（写真集）
○布引ダム（写真集）
○布引ダム（土木学会・旧蔵写真館）
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土木技術者列伝(11)赤木正雄（富山県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆さんで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
今回は、新潟県のお隣、富山県に移動してみます。
富山県と言えば、高い山々が即思い浮かびます。
変ですかぁ。。。
さて、調べてみましたが、適任者がみつかりませんでした。
ここが場当たり的なヤマトならではのところです。
でも、何とか見つけましたよぉ～～～！
今回ご紹介させて頂きますのは、
赤木正雄(ｱｶｷﾞﾏｻｵ) 氏
です。
随分偉い方のようです。
が、大切なのはそう言うことではありません！
では始めていきましょう♪
まずは、こちらをご覧下さい。
この写真は、立山カルデラの全景です。
今回のお話はここが舞台となります。
壮大な絵だと思われませんかぁ。
立山カルデラは、３，０００ｍ級の山々が屏風のように囲む巨大な穴です。切り立った壁は絶えず崩れ、そこから出る岩屑（がんせつ）は雨が降ると土石流となって川を駆け下ります。
今を去る約百五十年前の安政五年二月の末、ここで巨大な地震が起きたそうです。新暦では四月九日の深夜二時、富山の推定震度は６、道路は各所で裂け、そこから水が噴出し、土蔵の壁が崩れたり、大木が根こそぎ倒れ、城の石垣が崩れ、土塀が倒れたそうです。
地震の影響は、山奥の立山カルデラにまでも及んだそうです。周りを囲んで突っ立っていた屏風の一角が崩れ落ち、大鳶山（おおとんびやま）、小鳶山（ことんびやま）という二つの山の頂上部分がカルデラ内部に崩落し、常願寺川を堰止めたそうです。
カルデラ内部で常願寺川は二筋の源流に分かれます。真川と湯川。
地震後は、両川とも各所に満々たる水を湛えた大きな湖がいくつもできたそうです。
３月１０日に第一回の決壊が発生し、大地が振動したかと思うと、川筋一面に黒煙が立ち昇り、大山のような泥洪水が一気に押し出してきた。
岩石、土砂、倒木を巻き込んだ泥粥のような大洪水がすさまじい音とともに押し寄せた。
第二回目が襲ったのは４月２６日。
今度は、泥は前回よりも薄かったが、水かさは２ｍほど高かった。
二回にわたる洪水は加賀藩だけで１３８ケ村、２５，８００石の田地が荒廃した。
富山藩の被害は不明で、溺死者は表向き二百人とされているが、千人に達したというのが実情に近かったそうです。
上記の事態は、特別大きな被害をもたらした事例ですが、その後も小規模な崩壊は断続的に継続したと見られ、ついに富山県が自前で白岩堰堤建設に着手します。
大正３（１９１４）年のことです。
しかし、このダムは大正９（１９２０）年に襲った台風の集中豪雨で脆くも破砕してしまいます。さらに、竣工直前の大正１１（１９２２）年７月、折から襲った集中豪雨による洪水で、根底から決壊してしまいます。
八年間の努力が水泡に帰した瞬間です。
この二つの洪水の結果、堰堤の下の河床は３０ｍ以上も深く掘れたそうです。
富山県は立山砂防は一県の手におえるものではないと判断し、国家に移管するよう運動を始めます。
そして、ついに赤木正雄氏の登場となります。
赤木正雄氏が、直轄事業となった立山砂防の初代工事事務所長（兼務）に就任し、五年間設計と施工にあたることとなります。
赤木正雄が立山の砂防戦略を練ったとき、必要な堰堤は２００だと言ったそうです。
そのくらいつくらなければ、カルデラ内に溜まっている火山性堆積物の流出による被害は防ぎきれないと考えたようです。
河床を岩盤まで掘り下げ、高さ５０ｍのコンクリート堰堤をその上に築く白岩堰堤を設けるという画期的な設計でした。
赤木正雄氏は、最初からここが世界的な砂防工事であることを認識していました。
そして、工事の準備のため、１２ｋｍの軌道を敷設します。
これが、今日のトロッコ軌道の元祖です。
立山砂防工事事務所の一角には、かつてここで使われた歴代のレールが、短く切って見本として保存されています。
初めの頃のレールは、動物園のおサル電車でも無理かと思うような、まるでおもちゃのように頼りなげなものでした。
しかし、軌道を敷設することによって、砂防堰堤工事が高度化されたのは紛れもない事実でした。
大正１５（１９２６）年に始めた工事は、１４年をかけ昭和１４年に完成します。七つの副ダムを合わせた高さは１０８ｍにも及びました。
白岩砂防ダムは７０年にわたり富山平野を土砂災害から守ってきたわけです。そして、平成１１年に「登録有形文化財」になりました。
これだけならば、凄い大事業を為した方なんだで終わってしまいます。
ここから先がヤマトの編集能力です。
赤木正雄氏は、第一高等学校の学生だった時に、新渡戸稲造校長の「人生は表に立って活躍するばかりが決して最善ではない。諸君のうちの一人でも一生を治水に捧げ、毎年襲来するこの水害をなくすことに志を立てる者はいないか」という訓話を聞き、その場で「よしっ、私は治水に身を委ねよう、しかも河の源から始める道に従事しよう」と決意した、と自伝『砂防一路』に書いておられます。
赤木正雄氏は、大正３（１９１４）年、帝国大学の農学部林学科を卒業後、当時農学士は農林省や林業会社に就職するのが一般的だったにも関わらず、内務省に入ります。
内務省の入省内定が大学に知れると、河合という教授が、赤木氏の就職内定を非常に喜びながら、しかし忠告します。「数多い工学士のなかにたった一人林学士が入るわけで、今後定めし困難に遭遇すると思うがどのような苦難に直面しても充分に自重せよ」と。
内務省入省の年の暮れ。主任に呼ばれた赤木氏は、年末賞与として十五円もらった。何も知らぬ赤木はありがたく頂戴した。数日後再び主任に呼ばれた赤木は、五十円だった月給を五十五円に昇給するという辞令をもらった。主任は珍しく不快な面持ちで、本年大学卒業の工学士はみな月給六十円に昇給し、賞与も五十円支給されているのに、赤木が農学部出身というだけのためにこのような差別待遇をされている」と憤慨したそうです。
赤木正雄氏は、「私は、採用される際に言われた学閥による差別待遇はないという話がもろくも潰えて不快の感を抱いたが、新渡戸校長の教えを生かすためにはこのような些事に屈託することなく、また河合先生の訓話もここにあることを想起して、当時熊本県から転任の勧誘を受けながらも一向に耳を傾けず、その上、本所のかかる仕打ちについては一言も家族や知人に漏らさなかった」と述べておられます。
「些事に屈託せず」という精神は、赤木正雄氏の砂防一路の人生を一本の鋼のように貫くことになるのです。
また、ある時他人の設計した砂防ダム工事を監理していたが、設計ミスにより次々と壊れるという事態が発生したそうです。
赤木正雄氏の考えに反する設計であったとはいえ、壊れたことの責任を感じて辞表を提出しますが慰留され、同時にその時決壊の跡を研究せよとドイツ語の専門書を貸与されます。
夜ごと読みふけって、遂に読み終わった時、そのまま返すのが惜しくなった赤木正雄氏は全部筆写したそうです。
厚さ四センチあったそうです。
赤木正雄氏は、砂防ダム決壊の失敗を究めたいと思い、砂防の先進国で徹底的に研究する決意をします。そして、大正１２年５月休職願いを出し、自費で欧州に立ちます。
出世コースに乗った事務官にはすぐまわって来る洋行の順番が、農学部出身の技官である赤木正雄氏には回ってこなかったからです。
常願寺川源流を視察したヨハニス・デ・レーケ氏は次のように書いています。
「私が見た限りでは山の岩盤構成は変化に富み、多くの石灰岩があり、いくつかの場所には玄武岩層がある。しかし、一般的には岩盤は粘土質で柔らかく、湿気があって非常に分解しやすいし、日光と霜の交互作用で崩壊しやすい。さらに標高の高い地域では、霜が急峻な斜面に沿って非常な破壊力を与え、そこを雪が高速でなだれ落ちる。
降雨や融雪による激流が河道を流下する際、河床洗掘がさえぎられるような固い岩盤の下流に小滝群（カスケード＝階段状に連続した滝）を形成するようなところがほとんどない。一般的に小滝群のない急流は、峡谷や下流の平野に確実に多くのトラブルを引き起こす。小滝群が存在しないことが常願寺川の特徴のひとつでもある」と。
つまり、ヨハニス・デ・レーケ氏は、常願寺川の急流ぶりに驚いたのではなく、滝がほとんどないことに驚いたのであった。
滝がなぜ重要か？
滝があれば、水が滝を落ちる間に位置エネルギーが失われる。流下する力がその分だけ小さくなる。
さらに、水理学の定理によれば、二点間を流れる水の平均流速は、平均水深と水面勾配の積の平方根に比例する。
また、堤防を破壊する水の力は、流速の二乗に比例するから、平均勾配と平均水深の積に比例することになる。
勾配が急であればあるほど、水深が深ければ深いほど、破壊力は大きくなる。
滝がないということは、洪水時のすさまじい奔流の力が、そのまま下流に放たれるということである。
逆に言えば、川の途中に滝をつくってやれば暴流の破壊力を抑えることができる。階段のような砂防堰堤がそれである。
表現すべき言葉が思いつきません！
凄まじい技術屋魂を見た思いがしました。
本当は、心の底で屈辱感や被差別意識は当然あったと思います。
しかし、それを極力表に出さず、命がけの現場で技術と心を尽くした様子は、畏怖の念すら覚えてしまいます。
さすがに、文化勲章を受章なさるだけのことはあります！
土木会の誇りだと思います。
とても赤木氏の領域には到達できないでしょうが、目標にして頑張りたいと思います。
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土木技術者列伝(11補足)赤木正雄（富山県） |
ヤマトです。
前回の「赤木正雄」氏ですが、参考URLを書こうとすると、文字制限オーバーとなって受け付けてもらえませんでしたので、補足という形で以下に掲載をさせていただきます。
決して、他の人と区別した扱いではありませんことを申し添えておきます。
【参考URL】
○白岩砂防堰堤
○白岩堰堤工事と常願寺川筋の砂防
○恩師の教えの中で心に響く教えは大切にし、実践しなければならない
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土木技術者列伝(12)板屋平四郎（石川県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆さんで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
今回は、加賀百万石と言われる石川県を探索してみたいと思います。
古より栄えた場所ですからさぞかし色々なものがあるだろうと思っていましたが、なかなか土木技術者でと思って捜すと見つからないものです。
探し方が下手なんでしょうねぇ。。。
やっとの思いで見つけたのは
板屋 平四郎（ｲﾀﾔﾍｲｼﾛｳ） 氏
板屋氏がご苦労なさったのは、辰巳用水です。
彼は、用水やかんがい工事などで実績があり、そろばんと測量が得意であったことから、町人でありながら異例の大抜擢を受けます。
上の図は、辰巳用水の縦断面図です。
この図を見て、えっ！？と驚きました。
そうなんです。
逆サイホンになっているんです。
下の模式図は上の図とは左右逆になっていますのでご注意下さい。
この原理を用いたのは、辰巳用水が日本最初といわれます。その地下導水石管の工法や技術レベルの高さと正確さは、現代でも賞賛されています。
辰巳用水は、軟弱地盤を避けて造られたため屈曲していますが、高い測量技術がそれを為し得たと考えられ、勾配は正確無比で、必要な水量 や流速を得るために水路構造まで細やかな計算・工夫が随所に見られると言います。
当時の逆サイフォンは木樋(もくひ)で造られましたが、腐食や水圧に耐えるために木樋の周りを粘土で固め、その下に平らな石を置いて沈下を防ぐなど、実験的な苦闘、試練の結果到達した方法だったに違いありません。後に石管に代えられますが、今も兼六園にある日本最古の噴水に利用されているそうです。
さらに驚くのは、これだけの偉業を当時の最先端技術と工夫を凝らしたとは言え、たった1年で為し得たという施工速度です。
先に示した図からお分かりのとおり、４ｋｍもトンネルが存在するにも関わらずです。
当然、機械などあるはずもなく、手掘だったはずなのにどうしてわずか1年で掘り終えることができたのか？
現地の事実からの推測ですが、工区分割を行って複数箇所から一気に掘り始めたようです。
そうでなければ絶対に不可能です。
現地には、仮設の横穴が何カ所か残されているようです。
それにしても、光波など存在しない時代に、一体どのような測量手法を用いたのか、とても興味が湧きます。
測量は、夜間に提灯を上下させて、遠くからこれを観測し、同じ高さの点を求め、これから水路の勾配に見合った高さを決めて工事を実施したそうです。
この時使用された測量器は、「町見盤（ちょうけんばん）」と呼ばれる一種の水準儀だったそうです。（上図）。
この用水を造る時に培われた高度な技術が、各地の用水事業に与えた影響は大きかったと思われ、その難度や規模から、江戸の玉川上水、芦ノ湖から導水した箱根用水と並んで“日本三大用水”の一つにもなっています。
そして何よりも、現役の水路ということが、その技術水準の高さを証明しています。
板屋平四郎という人物の記録は、ほとんど残されていないと言います。一説には、あまりの技術の高さから、その技術が漏洩するのを防止するため抹殺されたのではないかとまで言われています。
どう考えてみても、板屋平四郎氏は徒者ではありません！
優秀な測量技術者であると同時に創意工夫のできる河川・砂防技術者。そして、優れたプロジェクト・マネジメント能力を有する総合監理技術者であったことは疑いのないところです。
ヤマトも一度、逆サイフォンの水理計算を行ったことがあります。石綿管でできた逆サイフォンを撤去して代替施設を作り上げるものでした。
従前施設の能力を水理計算によって確認したところ、その口径より大きくても、或いは小さくても水は反対側へ上ることができないことが明らかとなりました。
従前施設の設計者にどうしてそれが分かったのか？
当時、不思議で仕方ありませんでした。
しかし、今回のケースを眺めてみて、昔の技術者の方が、少なくともヤマトなんかよりは余程優れていたのではないか？と思わずにはいられませんでした。
今回は、人物像を描くことが全くできませんでした。
残念です。
もしも板屋氏に関する資料がございましたら、是非とも教えて頂きたいと思います。
※今までにアップ致しました「土木技術者列伝」につきまして、新しい情報が収集できましたら、随時追加させて頂きます。
【参考URL】
○金沢城に水を送る「辰巳(たつみ)用水」
○辰巳用水の石管
○辰巳用水
○辰巳用水の隧道
○犀川水系と辰巳用水位置図
○兼六園の曲水・噴水
○辰巳用水と辰巳ダムから明日の土木を考える
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土木技術者列伝(13)中川吉造（茨城県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆さんで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
今回は、茨城県を訪れてみました。
茨城県は、霞ヶ浦に代表されるように「水の町」というイメージがヤマトには強く、日本のベニスみたいな場所柄かと思います。
間違っていましたらどうかご容赦ください。
そこには利根川という大きな河川が存在します。
今回ご紹介させて頂きますのは
中川吉造(ﾅｶｶﾞﾜｷﾁｿﾞｳ) 氏
です。
しかし、中川氏の業績記録は、ほとんど残されていません。
したがって、今回は継続執筆を覚悟の上で、書かせて頂きます。
中川氏の代表作に横利根閘門があります。
煉瓦造りの閘門は時を経ても見る者に語りかけるものを持っているように感じます。
横利根閘門は、明治３３年（1900）より始まった利根川改修計画に基づく第２期改修工事の一部として、霞ヶ浦と利根川を結ぶ横利根川合流口に、大正３年(1914)から約７年の大工事の末、大正１０年(1921)に完成した我が国最大級の規模を持つ煉瓦造複閘式閘門で、利根川の明治改修事業で唯一現存するシンボル的施設です。
横利根閘門は利根川が増水したときに、洪水が霞ヶ浦に逆流しないように、また増水時でも船舶の航行が可能なように当時の最新技術を用い日本人技術者のみによって建設されたもので、約80念経った現在でも利用されている現役の閘門です。
完成以来大きな改築がなかったために施設の老朽化が進んでいましたが、平成６年に省力化のための自動化と門扉等の腐食が進んでいる部分について当時の設計図通りに復元改築されました。
横利根川閘門の設計および施工の水準は高く、我が国における煉瓦造閘門のひとつの到達点を示す近代化遺産としての価値により平成１２年５月、重要文化財に指定されました。
上で記述しましたとおり、中川吉造氏にまつわるエピソードがほとんど見つからない状況で、唯一次のようなものがありました。
PMP氏が以前ご紹介してくださった「原口忠治郎」氏との逸話です。
昭和５年に荒川放水路の難工事を完成に導いた原口忠治郎氏に、中川吉造氏が依頼します。
「満州に行ってくれないか」と。
原口氏はその場で承諾したそうだ。
「恩人から礼を尽くして頼まれてはいやと言えようはずがない」。
内務省土木局の首脳が列席して渡満する人々の送別会が盛大に開かれた時、
挨拶を求められた原口氏は、荊軻（けいか）の詩を吟じた（荊軻は『史記』の刺客伝に登場する剣客である。
小国燕（えん）の昭王の太子丹の客人であった荊軻は秦の始皇帝を暗殺するため旅立つ。易水という川のほとりに来たとき、荊軻が詠じたのが、「風蕭々（しょうしょう）として易水寒し 壮士ひとたび去って復た還らず」という悲壮な詩である。
「もう生きて日本の土を踏むことはあるまい、自分は満洲の荒野に骨を埋めるのだ」
との覚悟であった。
こうした決意に原口氏を至らしめるには、よほどの人物でなければならないでしょう。
横利根閘門に関する記録を中川氏自身が残していらっしゃいます。
興味がお有りの方は参考URLにて論文を読んでみてください。
なお、冒頭にも書きましたとおり、あまりにも情報量が少なすぎて、十分中川吉造氏の業績やその背景などを記述することができませんでした。
情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非ともご提供を宜しくお願いいたします。
【参考URL】
○横利根閘門に就て（中川吉造 著）
最後に、原口氏の一言を掲載させて頂きます。
「長い内務省生活で痛感したことは技術官の冷遇である。事務官に比べて技術官はなぜこのように不当な差別をもって遇されなければならないのか。図らずも私はこのたび渡満することになり骨をかの地に埋める覚悟であるからよいが、あとに残る技術官諸君が今後ともこの冷遇に甘んじなければならぬとすれば気の毒千万である。一日も早くこの不当な差別が取り除かれ、技術官諸君が名実ともにそのところを得る日の来ることを望む。」
頑張って参りましょう～～
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土木技術者列伝(14)印南丈作・矢板武（栃木県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
今回は、栃木県を探索してみたいと思います。
しかし、こちらも土地勘が無いためどなたにするか、ターゲットが絞れませんでした。
そこで目的から少々逸脱するかもしれませんが、今回はこの方々にしました。
印南丈作(ｲﾝﾅﾐｼﾞｮｳｻｸ) 氏
矢板武(ﾔｲﾀﾀｹｼ) 氏
珍しくお二方であると同時に、土木技術者とは言えない方々のご登場です。
少々このシリーズの趣旨から逸脱しているようですが、ヤマトが大切にしたいのはプロジェクトの裏側にある精神です。
どうかご理解をください。
お二方が携わられたのは、那須疎水。
那須疏水は、福島県の安積疏水、京都府の琵琶湖疏水と共に日本３大疏水と言われます。
古くは那珂川と鬼怒川間の総延長４５ｋｍを運河で結び会津・那須・東京の間の水運を確保するという、明治初期の大運河構想に端を発します。
その後の鉄道・国道の進展に伴い断念されますが、当時悲願であった飲用水・灌漑用水路の掘削へと考え方が変化していきます。
明治１８年、県令三島通庸や地元有志である印南丈作、矢板武らの尽力により、１０万円の事業費（当時の土木局予算の１０分の１）が投入され、国の土木局直轄工事として延長１６．３ｋｍの那須疏水本幹が、約５ヶ月という驚異的なスピードで開削されました。
翌年、第１から第４分水路（４６．５ｋｍ）が引き続いて完成しています。通水時には、舟を浮かべて下ることができるほど豊かな水を那須野ヶ原にもたらしました。
明治３８年、昭和３年の取入口を始めとする改修を経て、昭和４２年から平成６年までの長期の国営那須野原開拓建設事業により、那須疏水・蟇沼用水・木の俣用水の大改修及び用水系統の統合が行われて現在に至っています。
以下に、第一次から第四次までの取水口改修後の写真をアップいたします。
↑那須疎水第一次取水口
↑那須疎水第二次取水口
↑那須疎水第三次取水口
↑那須疎水第四次取水口
明治１０年１月４日には、ご両名は白井喜作氏ら４人地方勧業委員を加えて討議を行い、流水予定地点を調査し、さらに福島県令も説得し水路調査へと進みました。
明治１１年から明治１２年に測量し、政府への上申書における内容の凄さで驚かせたと言います。
ところが、ちょうどその頃。
福島県猪苗代湖を水源とする安積疏水の起工式が予定されていました。
このため、この起工式へ出席していた伊藤博文内務卿・松方正義大蔵大輔を帰路に那須温泉へ立ち寄らせることに成功し、那須疏水開削事業の説明を行うことはできましたが、その後政府からは何の音沙汰もありませんでした。
明治１３年５月１日、同志を数十名集めて那須開墾社を結社します。
しばしば上京し那須疏水開削事業の実現を政府に懇請したそうですが
「当分詮議成リ難シ」と退けられます。
安積疎水事業が動いていたからでしょう。
ついに、ご両名は暗渠掘削の開始を決断します。
その上で政府に迫るという背水の陣を布きました。
第六十国立銀行から借り受け工事に着手したのです。
こうした強引とも言えますが、しかし、変わらぬ情熱がついに山田顕義内務卿を動かし、政府に支出を承諾させてしまいます。
いったんは始まると怒濤の工事だったようです。
本当はそこで活躍なさった技術者をクローズアップしたかったのですが、どうしても探し出すことができませんでした。
この点につきましては継続調査を行い、明らかになりました時点で再び掲載させて頂きたいと思います。
是非とも皆様方からの情報提供を心よりお待ち申し上げております。
【参考URL】
○那須野ヶ原の開拓者 印南 丈作と矢板 武
今回は、一般の方々のご登場でした。
しかし、プロジェクトにかける熱い思いは、物づくりを行う者も計画する者も同じだと思います。
念ずれば叶う！
初志貫徹！
そして、みんなのために頑張るという思想と決意があるからこそ成し遂げられることなのだという、単純ではあっても、大切なことを改めて教えてくれています。
我々土木界にいる者は、大きな仕事ばかりに関われるものではありません。
しかし、どんなに小さな仕事でも命を吹き込むことによって、それを社会はきっと優しく受け入れて下さるものと信じたいと思います。
作るというフェーズだけの視点で工事を進めるのではなく、使うという視点の重要さを今一度改めて考えてみて頂けるとありがたいと思います。
そして、その時、偉大な先人たちだったら、どのように考え、そして対応しただろうか？
と考えて頂ければ、このシリーズは大成功
では今回はここまでです。
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土木技術者列伝(15)Pownall（群馬県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
今回は群馬県を訪ねてみました。
手探り状態で調べていた時、
見つけた！！！
と、思ったのですが、その方の情報が全く取得できません。
したがって、やむを得ず成果のみでご容赦いただくことにします。
後は読まれる方々の行間補充能力に期待する事といたします。
今回ご紹介させて頂きますのは、
Charles
Assheton Whately Pownall(ｲｷﾞﾘｽ) 氏
なぜ英字表記なのか？
実は、「パウネル」とか「ポウナル」とか色々書かれていて、正しい日本語表記名が不明だったからです。
つまり、あまり有名ではなかったということになるかもしれません。
しかし、成果は素晴らしいものがあります。
まずは、以下の写真をご覧下さい。
↑碓氷第2橋梁【重文】
↑碓氷第3橋梁（通称「めがね橋」）【重文】
↑碓氷第4橋梁【重文】
↑碓氷第5橋梁【重文】
碓氷第6橋梁【重文】
これらは一体どこにあるのか？
平成９(1997)年の長野新幹線の開業と共に廃線となってしまった「信越本線」横川－軽井沢間にあります。
事の発端は明治に遡ります。
明治政府による東京－京都間の幹線鉄道計画は、東海道と中山道の２つのルートで比較検討されました。
明治３年６月、土木司員小野友五郎、佐藤政養（与之助）は東海道ルートの視察によって、在来の運送手段や地域開発の観点から中山道に幹線鉄道を計画すべきであると復命します。
実は、ここに大きな秘密があります。
つまり、時代背景を考慮すれば、国防上の見地から路線が攻撃されにくい中山道ルートを選択した可能性が高いと言えます。
ルート決定後、調査を進めますが、緊迫した国内情勢による軍事費支出等で資金不足のため幹線建設は停滞することになります。
政府は「中山道鉄道公債証書条例」を明治１６年１２月に公布して、測量を着手することにしました。しかし建設に着手してみると中部山岳地帯および碓氷峠を通過することが予想外に難工事であり、明治１９年７月１９日閣令第２４号で幹線鉄道計画は東海道にルートが変更されることになります。
明治１７年５月、日本鉄道株式会社により上野－高崎間が開通後、明治１８年１０月には高崎－横川間が開通します。
中山道幹線鉄道の建設資材を輸送するための路線として計画された直江津－上田間の直江津線は、幹線ルートが東海道に変更された後は、中部横断鉄道として工事が進められます。そして明治２１年１２月直江津－軽井沢間が開通することとなります。
こうして、太平洋側と日本海側を結ぶ列島を横断するルートとしての役割を担い、碓氷峠越えの鉄道建設は着手されることになりました。
随分といい加減な計画だったわけですねぇ。。。
フィージビリティ・スタディという用語はきっと無かったんでしょうね。
まるでヤマトの試験対策のようです。
ともかく意味づけは大きく変化しましたが、横川－軽井沢間の工事が行われます。
ここで設計の中心的な役割を果たすのがPownall氏です。
明治２４年２月に工事着手し、ドイツから資材を輸入し、26のトンネル掘削と18の橋梁を含み、約８kmに及ぶ
66.7‰の急勾配を含む全線距離約11.2kmの工事は、未曾有右の難工事となりました。
しかし、これほどの難工事をわずか１年９か月で完成させてしまいます。
その一方で、約500名殉職というわが国工事史上、空前絶後の犠牲を強いることとなりました。
ここにも軍部の強大な力の影響が見え隠れするように感じるのはヤマトだけでしょうか？
かくして、完成を迎えた碓氷線では、桁橋がほとんど使用されていません。
これはを使用しなかったのは、66.7‰の急勾配を登るために採用されたアプト式軌道の影響です。アプト式軌道は、線路の中央に歯状の軌条（ラックレール）があり、鉄製枕木の全体を支持できる構造を必要としたためでした。
橋梁は総数１８ヶ所で、そのうち１ヶ所に鉄製桁を使用しましたが、その他は煉瓦造アーチ橋（煉瓦拱橋）でした。
橋台と橋脚は基礎の２～３段に石を使っていますが、その上は石または煉瓦を使用し、アーチ部分より上は全て煉瓦を用いていました。その代表的な橋梁は碓氷第３橋梁（碓氷川橋梁）です。実に碓氷第三橋梁だけで２００万個のレンガが積まれたと言われています。
橋梁工事着工後、明治２４年１０月に、岐阜と愛知地方に強い地震が発生し、その被害が大規模であったことから、Pownall氏は各橋梁の設計を見直し、煉瓦積の柱などには中間の所々に直立の石柱を挟み、また煉瓦を縦に用い、アーチを積むのにも所々に縦に煉瓦を用いて煉瓦相互を結合させるなどの補強工事を追加しています。
完成時点では、碓氷第3橋梁の橋脚はもっとスマートで美脚だったそうです。
耐震補強の結果、現存するような形になったとか。。。
時を経るにしたがって優美さが増す煉瓦造りの橋梁群は、保存活動が盛んだと言います。
rangerさんが、新潟の萬代橋を称して「用・強・美」と言われました。
萬代橋が、スポットの美ならば、この碓氷峠の橋梁群はエリアの美と言えるでしょう。
「用」を終えた今でもなお我々にその雄姿を見せてくれています。
何がPownall氏をして、このような橋梁群を造らしめたのか？
いくら検索しても、この点だけは不明でした。
ご覧下さった方の中で、ご存じの方がいらっしゃいましたら、是非とも情報提供頂きたいと思います。
【参考URL】
○信越本線
○信越本線碓氷峠鉄道施設
○碓氷のめがね橋
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土木技術者列伝(編集記2) |
ヤマトです。
編集記を書くときは手詰まり感で焦っている時とご理解下さい。
次回は埼玉県を予定して、検索をしていますが、「これっ！」というものが見つかりません。
埼玉県の皆さんごめんなさい。ｍ(__)ｍ
立派な施設はいっぱいあるのですが、ヤマトがターゲットにするのは、施設そのものではなく、施設の建設に関わった方の内面です。
施設の紹介だけならば、可能ではあっても裏方の顔が見えないのは困ったものです。
そういう意味で、考えると現代の土木施設は、設計者や施工者の顔がほとんど見えてきません。
総監流に言うならば、現代の科学は「複雑化、高度化、総合化」の影響により、一専門技術者の力だけで生産や設備が行われている訳ではありませんから、やむを得ないのかもしれません。
確かに、分業化が20世紀の日本の躍進を支えてきたことは間違いありません。
しかし、その一方で、総監もトップマネジメントが如何に重要かを認めています。
近代土木史を眺めていると、様々な偉大な技術者が綺羅星のごとく登場なさいます。
そして、その内面もかなり精度高く記録が残されています。
ところが、現代は。。。
分業化は、何も現代固有のシステムではなかったはずなのにです。
また、現代の「名工」というキーワードで検索を行っても、建築系の技術者名はヒットするのですが、土木系の技術者はまずヒットしません。
例えば、型枠仕事が速い・正確・耐力性能抜群などといった方は絶対にいらっしゃるはずなのに、ネット検索では見つからない。
コンクリートを打たせれば100年は軽く耐力を維持する性能を確保でき、見栄えも抜群な施設造りができる方だっていらっしゃるはずなのに見つからない。
土工事だってそうです。バックホウの操縦が人並み外れて上手で、まるで手作業をしたような土工面を造り上げる能力があっても、そのような人の名はどこにも見あたらない。
他の工種だってそうです。
どうして光が当たらないのでしょうか？
その一方で、建築分野においては固有名詞が溢れています。
もちろんその方々が素晴らしいことは認めます。
しかし、土木系の技術者はどうしてこれほどまでに名が世に出ないのでしょうか？
出す努力をしないからでしょうか？
我々は、精一杯国民のためを思い、力一杯仕事をしていると思っています。
もちろん現在の能力が、必要且つ十分だなどと思い上がった気持ちは微塵も持っていません。
むしろ不足する能力を補うために、多の分野と同様に日々精進を重ねています。
これは決して愚痴ではありません。
そうではなくて、我々はそれぞれの責任を明確にして、しっかりその責務を全うすると共に、その結果を広く広報しなければならないと思うのです。
３Ｋだとか５Ｋだとか。
今は忌み嫌われる業界かもしれません。
しかし、私は、常に子供に言っています。
「この仕事に誇りを持っている。なぜなら、地図に残る仕事なんだから」と。
さらに言えば、「地図を書き換える力を持つ業界」だとも言えます。
その性能さえ良ければ、100年だろうが1,000年だろうが国民の皆さんに使っていただけるんです。
こんな仕事は他にはありません！
こうした思いを一人でも多くの方と共有できればと考え、「土木技術者列伝」をシリーズとしてスタートしました。
ヤマトが以前書いた永六輔氏の「職人」にまつわるブログでは、職人気質の気持ちを書かせていただきました。
こうした気持ちが、根底にあって今回の「土木技術者列伝」につながった訳です。
そして、もう一つ。
昨今の土木会を巡る一連の不祥事。
現場の人間は汗水垂らして精一杯仕事をしているのに、なんて事するんだぁ～～！！
と言いたくなります。
ごく一部の関係者の仕業とは言え、貼られたレッテルを剥がすのは並大抵の努力ではありません。
このため俯き加減に仕事をする方々も増えるでしょう。
しかし、だからこそヤマトは言いたいのです。
今こそ真の土木人の本領を発揮して、如何に国を思って仕事を毎日しているかを示すべきだと。
そのために改めて過去の偉大な方々にご登場いただき、その方々の意思からインセンティブを頂いて明日への活力としていただきたいと願ったのです。
まずは顔のはっきりと見える仕事をしていけるような業界になることを願って、今後も拙いブログながら現場の方々を応援していきたいと思っています。
偉そうな事ばかり書きましたが、どうか意のあるところをお酌み取りいただき、これからもお付き合いいただければ幸いに存じます。
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土木技術者列伝(16)森田林次郎・川島照弘（埼玉県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
今回は埼玉県をご紹介したいと思います。
例によって検索をし始めたところ、埼玉県は内陸地にあるにも不思議と河川工作物の多さに驚きました。
確かに、利根川・荒川という大きな河川があることを考えれば、治水・利水対策は昔から必要性が高かったのでしょうね。
●：樋管・門樋 ●：堰 ●：その他
また、埼玉県内の煉瓦造り樋門の数が多いことにも驚かされます。
明治10年代までは煉瓦樋門の建設が、国家の威信をかけたプロジェクト（それもオランダ人技術者に頼っての）でしか実施されない高度なものであったそうですから、埼玉県でのインセンティブが何であったのか興味深いですね。
さて、今回の主役は
森田林次郎氏と川島照弘氏
です。
上の写真は、倉松落大口逆除 （くらまつおとしおおぐちさかよけ）と呼ばれる煉瓦造りの樋門です。
森田氏と川島氏は、この樋門の工事監督者として記録が残されています。
大口逆除は明治23年の洪水で大破した木造樋管を煉瓦造りで復旧したもので、建設期間は わずかに３ケ月（明治24年3月に起工し、6月に竣功）であり、驚くべき早さで工事が終了しています。
今回もお二方の奮闘ぶりや人となりを伝える情報は取得できませんでしたので、周辺情報から類推をお願いいたします。
当時の日本では河川工作物の設計技術がまだまだ未熟であったため、外国人技術者（専らオランダ人技術者）に頼らなければなりませんでした。
埼玉県は西洋式の河川工事に対応できるように、若手技術者の育成を制度化していたそうです。
この制度によって採用されたのが森田氏でした。制度に基づく修業期間が設けられていて、その年限は３年であったので、治水生徒を終えてからわずか３年の森田氏が大口逆除の工事監督に任命されたことになります。
樋門の設計は現地踏査を行った技術者が担当した可能性が高く、当時の煉瓦樋門の設計とは、工事費算出を目的とした樋門の平面・縦断の配置と規模の決定と、必要があれば意匠や装飾の付加であったようです。
おそらく樋門本体の安定計算は行われておらず、樋門本体の構造計算に至っては論外であったと想像できます。
このように当時の煉瓦積み樋門構造は、現代の設計基準に適合しないだけでなく、完全に逸脱していました。
煉瓦構造物は確固とした構造計算の方法がないまま建造され、煉瓦という構造材は主役の座を降りたのでした。
若手技術者育成制度のカリキュラムがどのような内容だったのかは不明ですが、設計手法を身につけていない状況での工事監督はさぞかし大変だったであろうと推察します。
土木史的には建材が煉瓦からコンクリートへと転換した理由は、構造物が大規模化するに伴ない、煉瓦構造では力学的に対応できなくなったために、コンクリート構造へと移行したというのが通説のようですが、埼玉県の樋門に限れば、必ずしもそうではなかったようです。
埼玉県では大規模な樋門は明治期に既に煉瓦構造で改築されてしまっていて、コンクリート構造の樋門は煉瓦樋門が全盛であった時期に、小規模な施設のみを対象として建設されていた。
埼玉県では主要な河川や水路の抜本的な改修・拡幅は大正末期までほとんど実施されなかったので、既設樋門の規模を拡大せざるを得ない状況も発生しなかった。
明治期に建設された煉瓦樋門の多くは、施設の老朽化及び主要河川の改修に伴い樋門の基本設計や機能が不適応となったために、後年（昭和初期から中期）、コンクリートで改築されています。
つまり、構造力学的にコンクリート造とする必要性があったからというよりも、もうこの時期には構造形式と資材に基づく選択肢が、コンクリートしかなかったからというのが、埼玉県では支配的な理由と考えて良いのではないかと思います。
という事で、埼玉県内の煉瓦樋門を中心として、土木遺産に指定された「倉松落大口逆除」を事例として、関わった森田氏と川島氏のご活躍なさった時代背景などを通して眺めてみました。
個人的には、風合いのある煉瓦構造の土木施設は大変好きです。
当時は果たせなかった設計手法の確立について、現代技術でチャレンジしてみたいと思ってしまいました。
でも、既にあるかもしれませんね。
【参考URL】
○埼玉県の煉瓦水門 ～ レンガ造りの樋門・樋管、堰、伏越、掛樋
○倉松落大口逆除
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今回は特に、以下をオプションとして掲載させていただきます。
平成６年度に埼玉県から「現代の名工」として、
高堰 豊 氏
が「とび工」の分野で表彰されています。
また、平成15年春には「黄綬褒章」なさっていらっしゃいます。
しかし、調べても詳細情報は不明です。
こういう方の人となりや思想などの情報がヤマトは欲しいんですけど。。。
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土木技術者列伝(番外編3)オランダ人 |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
今回は番外編です。
これまで北海道を皮切りに南下しながら各地域で活躍なさったり、奮闘なさった土木分野の偉人や巨人をご紹介させていただきました。
その中で、とかくオランダ人が顕著な活躍をなさっているケースが目立ったような気がします。
そこで、近代日本における土木分野におけるオランダ人の活躍という視点で眺めてみることにしました。
明治政府は、いち早く欧米列国の仲間入りを果たそうと、殖産興業に力を入れていました。しかし、過去２７０年間も鎖国を続けていた日本には、近代的な技術教育を受けた技術者がいなかったため、欧米から技術者を招聘することにしました。
来日した技術者はのべ１２７名で、英・米国が道路・橋梁の分野で１０１名と過半数を占め、オランダからは技術者８名、技能者４名が、河川・港湾などの分野で、１８７２年から１９０３年まで働きました。
オランダ人技術者のなかで、最も長く滞在し多くの仕事をしたのがデ・レイケでした。来日当初は４等工師として工事の指導に携わっていたデ・レイケですが、最後は日本の内務省土木局で事務次官相当の勅任官扱いの地位まで昇進しました。
明治時代に来日した外国人土木技術者は
となっています。
想像したほどオランダ人技術者は多くないのですね。
オランダは、ライン川、ムース川、スヘルデ川の河口に位置しています。
国土のほとんどは平坦で、国名のネーデルランド（therlands）が、「低地」という意味を示しているとおり、最高地点は南東部で、標高３２１ｍという状況です。
国土の約１／２は、ゼロメートル地帯となっており、約２／３は堤防で守られている地域です。
このような国土をもつオランダは土木技術が発達し、特に「低水工事（河口近くの平野部で河底の掘り下げ、堤防のかさ上げ、分水などを行い洪水を防止するための工事）」の技術が優れていました。
このため、明治時代に来日したオランダ人技術者は、日本各地で主に河川・砂防・港湾改修の技術指導に携わり、大きな成果を残すこととなります。
しかし、来日技術者数が少ない中で名を歴史に刻んだ技術者が多かったというのは、技術者魂の差だと思えて仕方がありません。
オランダ人技術者による「低水工事」が進む一方で、日本では山岳が平野部に迫っている地形が多く、山岳部の土砂流の防止が洪水を防ぐことに重要な役割を果たしていることに日本人技術者たちは気づきはじめ、明治３０年ころになると、留学や工部大学校（のちの東京帝国大学工科大学）によって日本人技術者も育ちはじめ、オランダ人技術者の指導による「低水工事」から、日本人技術者による「高水工事」に移行し、日本の土木技術が自立するようになっていくのでした。
このような歴史をたどり、日本独自の河川・砂防技術が進展することになるのです。
我々は、古来から様々な日本の気候や風土に根ざした河川・砂防技術を有していましたが、そこにオランダ流の技術が付加されて、新たな技術進展へつながったと考えるべきなのでしょう。
技術の交流と共有は新たな技術へと進化し、さらにそれは人的資源の交流と交換によるスパイラルアップへとつながっていく。
技術は閉鎖的に用いるよりも、解放して多目的な用途への展開可能性を探ることで、新たなトレンドを形成するトリガーとなっていくと言えるでしょう。
我々土木技術者は、今こそ世界へ向けて日本の技術力の高さを大いに発信し、インセンティブを与えるべき時だと言えます。
また、同時に国内のネガティブな視線をがっちり受け止めた上で、自信と誇りをもって明確に土木魂を示していくべきではないのでしょうか？
オランダ人技術者の魂を参考にし、視線を上げて、この国の行く先を眺めながら、最適解を求めつつ職務を全うしたい。
そんなことを思わせられるオランダ人技術者の活躍の足跡でした。
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土木技術者列伝(18)伊奈忠次（千葉県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
今回は千葉県を訪ねてみました。
そして、今回の話題は、都道府県レベルで見ると少し大きな対象となりました。
ご紹介させて頂く方は
伊奈忠次(ｲﾅﾁｭｳｼﾞ) 氏
です。
取り上げた対象は利根川。
上の図は、江戸時代の利根川を含む関東平野の一部を示しています。
ここで特徴的なのは、利根川が東京湾へ注いでいることです。
現在とはルートが全く異なっていたのですね。
これが、明治時代になるとどうなるかと申しますと、以下の図のようになるのです。
利根川が銚子へ抜ける現在のルートに変わっています。
伊奈忠次氏は、この利根川のルート変更の魁を行った方です。
徳川家康が江戸に入った頃、利根川中流の栗橋付近（埼玉県）から東京湾に亘る地域は、利根川をはじめ、荒川や渡良瀬川が、入り乱れて流れ、頻繁な洪水にみまわれていました。洪水の地域は、江戸の下町や現在の江東区・足立区・江戸川区・埼玉県北葛飾郡・南埼玉郡などにも広がっていました。
家康は伊奈備前守忠次を関東郡代に任じ､関東一帯の治水工事に当たらせました｡その工事とは、当時栗橋付近から南流し江戸湾に注いでいた利根川の水路を東に移す。そのために台地を切り開いて赤堀川とし、点在する湖沼をつなぎ常陸川水系（現在の鬼怒川・小貝川・霞ヶ浦水系の総称）に結びつけて銚子に流す。さらにその放水路として、太井川（太日川）を改修し、現在の江戸川を造るというものでした。太井川の中流は、現在の江戸川のやや西を流れていた川で、庄内古川とも呼ばれ上流は渡良瀬川です。
こうした利根川の流路変更による洪水対策を称して、「利根川東遷事業」と言われます。
従来、利根川東遷事業は、江戸を水害から守る、流域の沼や湿地帯からの新田打ち出し、水上交通網の確立、利根川を北関東の外堀とし、東北諸藩に対する備えとする、といった目的を持っていると解説されてきました。
しかし、近年では歴史的経緯から、むしろ水上交通網や新田開発などの利水目的が先行したが、1783年の浅間山噴火によって治水上の意味が明確化し、さらに明治時代に発生した足尾鉱毒事件が利根川本流の「東遷」を決定づけ、その後の大規模改修によって利根川東遷事業は完結するとの認識が支配的と言われます。
1621年、新川通の開削工事が行われます。これにより、利根川と渡良瀬川が合流し、下流域は今の江戸川に沿って、江戸湾へと流れ出るようになります。
同年、赤堀川の掘削も始まります。赤堀川は鬼怒川の支流である常陸川へと利根川を付け替えるための水路を担う予定でした。
しかし、赤堀川は台地を掘削するために難工事となり、1635年の工事も含めて、通水には二度失敗しています。
この間、1629年には、鬼怒川と小貝川の分流・付け替え工事が行われます。
鬼怒川は、3ヶ所にわたり台地を掘削するという難工事を敢行し、香取海への合流点を約30km上流に移動しました。
これと同時に、布佐・布川間に狭窄部をつくり、その上流に小貝川を合流させる付け替え工事を行っています。
そして、1641年には現在の江戸川上流部が開削され、赤堀川以外の水路が完成します。
1654年、掘削開始から33年後、3度目の赤堀川掘削工事により、ようやく赤堀川に水が流れ（それでも利根川の洪水を流下させるには川幅は狭い）、霞ヶ浦・銚子から、香取浦・江戸川を経由し、江戸へといたる水運の大動脈が完成することになり、事業は一段落することとなります。
伊奈忠次氏の業績は、関八州という広い範囲に及んだため、利根川や荒川の付け替えという河川土木技術者としての手腕だけに止まらず、知行割や寺社政策など江戸幕府の財政基盤の確立に寄与しその業績は計り知れないものがありました。関東各地に残る備前堀や備前堤と呼ばれる運河や堤防は、いずれも伊奈忠次氏の官位「備前守」に由来していると言われます。
諸国からの水運を計り、江戸の繁栄をもたらした伊奈忠次氏は、武士や町民たちはもとより、農民に炭焼き、養蚕、製塩などを勧め、桑、麻、楮などの栽培方法を伝えて広めたため、農民たちからも神仏のように敬われていたと言います。
現在、東北新幹線と上越新幹線が分岐し、埼玉新都市交通伊奈線（ニューシャトル）の車両基地が存在する埼玉県伊奈町は、まさに町名に名を残すほどの業績があったことの現れです。
伊奈忠次氏の土木事業の方式は「伊奈流」と呼ばれています。
その方針は、毎年のように起こる程度の出水に対しては、堤防によりこれを防ぎ、大洪水はむしろ堤防を越水させ、遊水池により被害を少なく抑えることにありました。
この方式は、その後の幕府の基本となりました。
伊奈忠次氏を千葉県でご紹介させて頂いたのは、利根川が東遷により銚子が河口となったためにそうさせて頂いただけで、本来は茨城県でご紹介させて頂くべきだったかもしれませんし、或いは、埼玉県にすべきだったかもしれません。
この点異論は覚悟の上で、しかし、伊奈忠次氏の業績をどこかでご紹介しなければならないと考えていたことはご理解をいただきたいと思います。
【参考URL】
○利根川を替えた話―東遷物語
○利根川と荒川(洪水対策)
○伊奈忠次
これらの逸話からだけでも、総監的な要素や考え方がたくさん見てとれます。
総監は、技術士における技術部門の成立が遅かったため、あたかも最近の技術のように思いますが、古来からその視点と対応の存在が、こうした過去の偉人の業績を眺めると明らかになってきます。
というよりも、それが無ければ事業として円滑な推進は困難だったというべきでしょう。
来年度から総監を除く部門では、択一問題が無くなります。
建設部門の択一問題において、過去に土木における偉人の業績が出題された事があるということを、きっとご存じの方がいらっしゃるでしょう。
択一が無くなるからそうした知識は、不要だと決めつけないで下さい。
よもや現代の技術者が近代の技術者よりも優れているなどという間違った認識と傲慢さをお持ちではないでしょうね？
過去の業績を眺めれば、今の技術士よりも近代の技術者の方が、総合的には優れた能力を保持していたことが明らかとなります。
これを機会に是非謙虚な姿勢で、過去の偉人の業績と向き合ってみて頂ければと思います。
年内のブログ更新は、これをもちまして最後とさせて頂きます。
拙いブログにおつきあい下さった皆さま方には、心より御礼申し上げます。
来年はさらにスキルアップを心がけ、内容の充実に努めたいと思っております。
皆さま方にとりまして、２００７が輝かしい一年となりますことを心よりお祈り申し上げます。
今年一年ありがとうございました。ｍ(__)ｍ
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土木技術者列伝（編集記3） |
ヤマトです。
山のように持ち込んだ書籍とは、実は読まないで溜っていた雑誌などです。(^_^;
しかし、その中で日経コンストラクションの記事に目が止りました。12-8号74頁の「土木技術者改造講座」と題する記事です。第4回の執筆は中井祐先生です。
中井先生のことは、「土木技術者列伝」のネタ探しをしている時に巡り合ったお名前でした。
記事を読みながらラインマーカーを引いていたら、ほとんど全面が真黄色になってしまいました。
ヤマトは、過去の偉大な先人の業績から、土木人としての勇気と誇りを得ようと考えましたが、中井先生は、歴史感と哲学を学べとおっしゃっておられます。
構造物に対する考え方や工夫・知恵などを知るべきであるともおっしゃっていらっしゃいます。
もちろん、そのとおりだとヤマトも思います。
しかし、ヤマト一人でできることには限界があります。そして、まずは各都道府県で一人を目標として、可能な限り早期にこの第1フェーズを終結させたいと考えています。
その後リクエストを頂いた方々や情報不足で取り上げられなかった方々及び活動が全国区で都道府県の枠に納まらない巨人と言われる方々などを順次掲載させて頂きたいと考えています。
が、現在は入院中の身。
しばらくのご猶予を頂戴したいと思います。
最後は、私事になってしまいましたが、ご興味がお有りの方は、是非日経コンストラクションを読んでみて下さい。
なお、残念ながら中井先生の記事を拝読した後に「土木技術者列伝」を開始した訳ではありません。
もしも事前に拝読していれば、アプローチが若干は異なったかもしれないと残念な思いをしているのは事実です。
また、他の回を執筆なさった先生方も大変示唆に富む内容となっています。
年末年始のお休みに、読むぞと思って購入しても、翌年のお正月になってもなお1頁さえ読まないヤマトのような読書嫌いにはうってつけの量であることを最後に付加致します。(^_^)v
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土木技術者列伝(19)米元晋一（東京都） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
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【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
今回は、新春らしく東京都を訪ねてみました。
さすがに首都・東京です。どなたにするべきか迷うほどにいらっしゃいました。
そうした中から選び出し、今回ご紹介させて頂く方は
米元晋一(ﾖﾈﾓﾄｼﾝｲﾁ) 氏
です。
米元氏が関わったのは日本橋。
日本橋の創架は、慶長8 年（1603年）とされ、慶長9年には全国に通じる五街道の起点と定められました。同時に、日本橋に全国里程の原点を置き各街道に日本橋からの距離を示した一里塚を築くことが定められています。
日本橋は、木橋であったため以後火災により焼失し、たびたび架け替えられました。
元和元年(1615年)の再架時の記録によれば敷板の長さが、三十七間四尺五寸（約68 ｍ）と現在を上回る規模であったと記録されています。
現在の日本橋は第２０代目にあたり、明治4 4 年(1911年)4月3日に架設されたもので、長さ49ｍ幅27 ｍのルネッサンス式石造アーチ橋となり、現代まで供用されています。
石造アーチ橋を設計し、工事監督を行ったのが米元晋一氏でした。
調べてみると、設計者がかの高名な樺島正義氏となっている文献があります。
ヤマトの独自の判断では、樺島氏は当時橋梁課長という職責であったことを考え、スーパーバイザーとして関わったと判断し、実務は主任技師である米元氏が行ったと考えました。
また、当時の橋梁建設には珍しく分業体制で橋梁設計が行われたことが特筆されます。
樺島正義氏がプロジェクト・マネジメントを行われたのかもしれません。
また、装飾と様式全般などの意匠設計を大蔵省臨時建築部技師長であった妻木頼黄(ﾂﾏｷﾖﾘﾅｶ)氏が行い、橋上装飾の内の獅子と麒麟の原型製作だけに限っては、東京美術学校教授の渡辺長男氏や岡崎雪声氏が関与なさったそうです。
この日本橋再建は、明治41（1908）年末に着工がなされ、同44年3月の竣工まで2年3カ月を要しました。
当時のお金で52万円余の工事費と延べ10万人の労働力を投じて完成しました。
さて、日本の原点とも言うべき橋梁建設に当たっては、設計の段階で橋の構造、様式、橋上の装飾をどのようなものにするかが大きな問題でした。
江戸時代の面影を残して、高欄擬宝珠http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%93%AC%E5%AE%9D%E7%8F%A0の形が良いとする意見と、新様式の採用を主張する意見とに分かれました。
木橋ではますます増える電車などの重量や交通量に耐えられないし、擬宝珠は木橋でこそ映えるもので、洋式の橋にはふさわしくないなどの理由により、結局、新様式を採用することとなり、石橋となりました。
このような結果採用された２連の石造アーチ橋の構造は、主構造を花崗岩の御影石で構築し、内部には当時の最先端材料であるコンクリートと煉瓦を用いています。
しかし、このような石造アーチ橋は、以降東京で架橋されていません。
石造アーチに用いる石材は、従来専ら安山岩を主体にしていました。
しかし、日本橋では、固く火災に弱いとして敬遠されていた花崗岩を用いています。
花崗岩による白々とした色彩と光沢は、東京に新鮮な風景を創りだし、以降大正期の装飾橋梁や関東大震災後の復興橋梁にも多用されるようになりました。
橋上装飾については、太田道灌と徳川家康の像を置こうという有力な意見や、或いは黄金を用いて架設すべしという突飛な意見もありましたが、結局、現在の獅子と、中国の想像上の動物麒麟を用い、方柱には松と榎をあしらうことになりました。
江戸の初期、日本橋が諸街道の起点となった時、街道の一里塚に榎を植え、街道の並木として松を採用したことにちなんで選ばれたのでした。
ところで、麒麟には翼がないのが普通ですが、日本橋が里程の元票であるところから、"天翔る"という意味を表すために翼（実際には"ひれ"）を付けました。
そして、橋の表面に露出する部分は敷石にいたるまで、すべて花崗岩を用いました。
完成した橋は、「純然たる西洋趣味も採らず西洋美術の骨格に日本趣味の筋肉を取合せたるもの」（米元晋一「新日本橋の架換」『日本橋紀念誌』明治44年）となりました。
世にルネッサンス式といわれる橋はこのようにして完成しました。
橋にこのような装飾を試みたのはわが国最初のことでした。
ところで、完成した日本橋の評判はどうだったでしょうか。
新生日本橋に対する当時の専門家の批評は厳しいものがありました。
『読売新聞』4月2日号は、開通式に先立ち「記念建造物としての日本橋」と題して、工学士田辺淳吉氏が寄稿しています。
田辺氏はその中で、「新しい日本橋の此(ｺ)の新しい試みは国民の美的常識を高め、帝都に美観を添へるといふ点に於(ｵｲ)て与(ｱｽﾞｶ)って大に力ある」としながらも、「根本に於て大きな間違いが二つある。其(ｿ)の一ツは橋のペーヴメントを境として上下が丸で一致を欠いて居いること、其二は将来の日本橋の周囲の変化に対する考が足りなかった事から起る失敗である」と、灯柱の青銅の黒と花崗岩の白の不調和と、将来変るであろう周囲の建物の高層建築に対して貧弱になるという点など、装飾上、様式上の問題点を指摘したそうです。
また、同紙4月3日号には、匿名の工学士の「建築家の見たる日本橋」というインタビュー記事を載せています。
匿名氏は「第一雄大宏壮の気魄が微塵も無いぢゃありませんか」として、電灯柱は「繊巧」に過ぎ、麒麟も「奇醜」というべき趣があり、とくに「電灯柱の腕の曲線はいきんでゐる様で、或る若い建築家が野糞をたれていると云ったのも適当な悪口かと思ひます」、「斯こんなものを出来(ﾃﾞｶ)したのは、私も建築家の一人として遺憾に堪へません」と酷評し、最後に「懸賞競技」で広く優秀な図案を募集してもらいたい、と結んだそうです。
匿名をいいことに云いたい放題の談話の趣があります。
さらに、4月12日から14日号には、早稲田大学建築家主任教授佐藤功一氏が、新日本橋を評して、「先づ第一、下を通る舟からで無くては見え無い橋の裏側の方、つまり人々の歩く表面と反対の側、即(ｽﾅﾜ)ち水に向いて居る方にまで花崗岩の立派な切石を惜気もなく使ってあることなどは、慥(ﾀｼｶ)に無駄な費用であって、少し口が悪いやうであるが、下世話に云ふ『溝の中へ金を投げた』やうな嫌(ｲﾔﾐ)が無いでも無い。・・・それから浮いて来る金を以て比較的寂しい橋の両袂を飾るやうにした方が遙に得策であったやうに思はれる」と批判しています。
しかし、こうした批判は作用に対する反作用と考えられます。
確かにご指摘の側面はあったでしょうが、世間一般があまりにも歓迎したことに対する妬みと考えるべきでしょう。
そうでなければ、これほど長く当時のままで使い続けられることは無かったと思います。
建築家など専門家の間では、日本橋の様式上、装飾上の点について厳しい批評が多かったのですが、日本橋の意匠を担当した妻木氏は、『時事新報』の中で日本橋の装飾について次のように語っておられます。
「我帝都の現状は未だ市区改正の半途にある、云はば未成品であるから新架橋の様式をして之れに調和せしむるの甚(ﾊﾅﾊ)だ困難であるのみか、橋梁夫(ｿ)れ自身に就ても将来大いに発達すべき帝都の偉観となるやう、又江戸名所の一として300年来の歴史を有する古蹟を回顧せしめたくもあり、兎(ﾄ)に角(ｶｸ)日本趣味を以て壮麗典雅の景致を表はしたいと云ふ考で製作したのである」と述べておられます。
震災、戦災を耐え抜いた日本橋ですが、昭和３８年に橋上に高速道路が覆い被さったことから、現在は以下のような状況となっています。
近年、日本橋付近の住民によって、橋の上を覆っている首都高速道路を地下へ通し、景観を復活させる構想が立てられています。
しかし、予算規模が5000億円程度と試算されていることから、石原慎太郎都知事は反対している模様です。
（続く）
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土木技術者列伝(19-2)米元晋一（東京都） |
ヤマトです。
新春早々 力を入れすぎたため字数オーバーで書ききれなくなってしまいました。
そこで、続きを以下に記述いたします。
－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－－
景観特性に関する話題に終始しましたが、写真をご覧いただいてお分かりのとおり、日本橋は非常に浅いアーチ形状となっています。
しかし、日本橋は関東大震災に対しても落橋等の影響を受けていません。優れた耐震性能を有する石橋と言えるのではないでしょうか。
一般的に、コンクリート橋や鋼橋の方が耐震性能が優れるとして、最近では石橋が建設されることはまずありません。
果たして、本当にそうなのでしょうか？
費用対効果の視点を無視する訳にはまいりませんが、ライフサイクルの視点で景観性能まで含めて考えた時、その答えはどういうベクトルとなるのでしょうか？
今や景観とは、環境の一部との認識があります。
どちらも喪失すると、復元が困難か、若しくは相当に長期間を要するものと考えられるからです。
そういう意味を含めて、日本橋を眺めた時、この橋は何を語ってくれるでしょうか？
単に古い石橋というだけに止まらない、作者達の意思と共に橋自身が語りかけてくる言葉に耳を澄ませてみたい気がします。
いかがですか？九州人さん。ヤマトの意図するところを感じ取って頂けたでしょうか？
最後に、橋梁課長であった樺島氏の言葉をご紹介させて頂きます。
「橋梁の美は環境の調和と云うこともあるが、環境中最も重要なるものは、水流との調和である。」
【参考URL】
○日本橋（７）
○日本橋（８）
○日本橋
○日本橋
○日本橋
○日本の橋
○日本橋川の橋梁群
○江戸の日本橋・東京の日本橋
○橋の豆知識
○土木史フォーラム
○日本橋川に空を取り戻す会
今回は、大変長くなってしまい、読みにくいものになりました。
新年ということで、どうかご容赦を願います。ｍ(__)ｍ
今年も「土木技術者列伝」を精一杯書いていきたいと思っております。
何卒、宜しくおつきあいのほど、お願い申し上げます。ｍ(__)ｍ
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土木技術者列伝(20)安藝皎一（山梨県） |
ヤマトです。
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どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
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依るものであることを予めご了解下さい。
今回訪れましたのは、山梨県。
今年の大河ドラマ『風林火山』の中心的な舞台となる場所です。
『風林火山』と言えば、言わずもがな。
名将・武田信玄です。
『風林火山』とは、「疾如風、徐如林、侵掠如火、不動如山」から出来上がったと言われ、この句は『孫子』・軍争篇で軍隊の進退について書いた部分にある「其疾如風、其徐如林、侵掠如火、知難如陰、不動如山、動如雷霆。／其の疾きこと風の如く、其の徐（しず）かなること林の如く、侵掠すること火の如く、知りがたきこと陰の如く、動かざること山の如く、動くこと雷霆（らいてい）の如し」からの引用と言われている。
今回は、武田信玄が主人公か？
と、思われそうですが、それだとNHKの回し者になってしまいます。
しかし、実はそうしようかとも考えたのですが、それではあまりにも。。。
今回ご紹介させて頂きます方は、
安藝皎一(ｱｷｺｳｲﾁ) 氏
です。
そして、今回の舞台は、日本三大急流の一つである富士川です。
前段が長くなりますが、ご容赦下さい。
富士川は、釜無川(ｶﾏﾅｼｶﾞﾜ)と笛吹川(ﾌｴﾌｷｶﾞﾜ)の合流点から下流を呼称します。
この釜無川には御勅使川(ﾐﾀﾞｲｶﾞﾜ)が合流し、頻繁に洪水被害を発生していたようです。
そして、武田信玄は、下図のような各種の対策を講じます。
「信玄堤」，「高岩」，「将棋頭」「石積出し」の施設を考案しては、治水に努めます。
これらが世に言う甲州流と言う治水工法なのです。
さて、ここまでは武田信玄のPRのようですが、話を変えていきます。
安藝皎一氏は、東京帝大文学部英文科に進みますが、１年後に工学部土木工学科に再入学します。
土木工学科では水理学の巨人・物部長穂(ﾓﾉﾉﾍﾞﾅｶﾞﾎ)に師事し河川工学を学んだ後、1926（大正15）年に卒業と同時に内務省に入省します。
最初の8年間を鬼怒川の改修工事に携わります。
鬼怒川での経験を通して、流れの乱流構造や乱れによるエネルギー消散などに深い関心を持つようになり、後の乱流構造の研究、流れの抵抗を表す流速係数と河相との関係に関する研究につながっていきます。
その後、1934（昭和9）年から5年間、富士川改修工事に従事することになります。
安藝皎一氏は、江戸時代を通じて継承された甲州流工法に関心をもち、古文書解読という工学者には難解な課題にも挑戦します。
富士川には安藝皎一氏の設計施工した水制工が、今日も残されています。
やがて、安藝皎一氏は、1937（昭和12）年土木試験所の兼任となり、現場で考えていた技術課題を実験的・理論的にその本質に近づくことによって解決しようと試みます。
現場での経験と土木試験所での実験的・理論的研究の成果を、1939年から1942年にかけて土木学会誌に論文として発表なさっておられます。
このうち1942年の「河相論－主として河相と河川工法との関連性についての研究」に対して土木学会論文賞が与えられました。
1944年には、これらの論文を基に『河相論』（常磐書房）として成書となりました。
その後の経歴は、1948年に経済安定本部資源委員会の初代の事務局長、1951年から3年間は経済安定本部資源調査会副会長、1956年には科学技術庁設置に伴い初代の科学技術審議官などを歴任されました。
しかし、安藝皎一氏の魅力はそうした役職だけではありません。
河川が流れる国の経済発展状況、産業構造、流域住民の土地に対する意識構造など、風土と河川開発のあり方、技術の適用のあり方、技術移転問題など、こうした仕事を通して安藝皎一氏の河川開発思想は深まっていったのでした。
つまり、何のために水に手を加えるのか、将来、流域の人々がどのようなパターンの暮らしをしていくのか、水の存在形態の実態に応じた経済体制、産業構造体制などがどうあるべきかを深く考えるようになったのです。
このように、現地の経緯を踏まえた、生きた技術思想家、自由な知識人型の技術者であった安藝皎一氏は、その河川思想、人柄によって多くの人から慕われ尊敬されました。
我が国の戦後の経済復興に、資源・技術という視点から合理的精神を持って対処し、多大な貢献をなさった偉人と言えるでしょう。
本当は、安藝皎一氏とは『全国区』の偉人だったと言えるでしょう。
しかし、敢えて富士川を舞台とした山梨県でご紹介させて頂いたのは、「風林火山」の影響があったことを否定できません。
武田信玄よりも軍師・山本勘助が好きなヤマトとしては、皆さま方に是非とも甲斐に目を向け、甲州流と言われるその治水事業の思想をご理解頂きたいと考えたからに他なりません。
また、その急流河川が、安藝皎一氏という知名度こそ他の偉人達に比べ劣るかもしれませんが、劣悪なる河川環境をものともしないばかりか、逆に日本の急流河川に対する治水の考え方を、斬新で独創的な論文にまで昇華させた巨人に出会うきっかけとなりました。
残念ながら、安藝皎一氏に関する文献がほとんど記録されていない状況で、詳述できないことをお詫び致します。
なお、土木学会誌2006年2月号に「評伝、月光は大河に映えて 激動の昭和を生きた水の科学者安藝皎一」という図書の紹介記事がありますから、ご興味のおありの方は探してみて頂きたいと思います。
最後に、安藝皎一氏の言葉を掲載し終わりたいと思います。
「河川を常に生長しつつある有機体と考えたい。河川は絶えず変化しつつ、永遠の安定せる世界へと不断の歩みをつづけているのである」
【参考URL】
○信玄堤
○信玄堤ウォ－ク
○穴山駅～新府桃源郷～新府城跡～高岩～信玄堤～釜無川ＣＲ～笛吹川ＣＲ～山梨市駅
○理の塔・技の塔
○安藝皎一著 『河相論』 常磐書房 昭和19年発行
○富士川流域・山梨県下の水害
○土木学会誌2006年2月号目次
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土木技術者列伝(21)池田圓男（長野県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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さて、今回は長野県を探索してみました。
そして、ご紹介させて頂くのは
池田圓男(ｲｹﾀﾞﾏﾙｵ)氏
です。
現場は、「牛伏川(ｳｼﾌﾞｾｶﾞﾜ)」です。
牛伏川は、犀川水系奈良井川支流田川の支渓で、標高1,670mの鉢伏山横峰の西面を水源とする延長約9kmの一級河川です。
流路の流域面積は5.6km2（砂防施設のある山間部は2.6km2）あり、田川に流れ込むまでに半径約3kmの扇状地を造っています。
この地域は、明治時代までは地質の脆弱性と乱伐の影響により裸地であり、山腹は「大欠け」と呼ばれる大崩壊地から、多量の土砂を生産流出しており、沢筋は荒廃していました。この崩壊の始まりは、1829（文政12）年の文書に100年も前の元禄の山崩を指摘していることから、相当古くから存在しており、1868（慶応4）年にも下流の水田180haが壊滅するなど、流域の村々に水害をもたらしていました。
また、江戸時代より、新潟県下の信濃川でも多くの災害が相次ぎ、明治時代には信濃川改修が重要な問題となりました。
そして、この問題の中心的な要因となる土砂の供給源が長野県の水源地帯、中でも牛伏川にあるとされました。
こうした水害対策として、1885（明治18）年、内務省土木局の直轄工事により、牛伏川砂防工事が進められ、「石堰堤工」、「木工沈床」、「護岸石積工」、「柵止工」、「種苗工」の各工事が５年間にわたって施工されます。
内務省土木局による工事は、現在知られているものだけで第１号から第５号までの合計５基の堰堤が造られています。
これらは、「空石積」による石積堰堤ですが、現在でも十分にその役割を果たしています。
水源にはいくつかの沢があり、砂防工事の跡が見られ、特に日影沢、地獄谷、中の沢、泥沢に砂防施設が集中しています。
その後、1898（明治31）年には長野県が事業を受け継ぎ、横断堰堤工事、河床及河岸安定工事、山地崩壊防止工事として、「石堰堤工」、「水路張石工(流水の浸食による河床の低下を抑制する)」、「土堰堤工」、「谷止工(積苗工を行うための地面を安定させる)」、「水通工」、「積苗工(山の斜面を階段状にして苗木を植える)」、「苗木植付工」など１７種にも及ぶ工種で施工されました。
1916（大正５）年、フランスのデュランス川サニエル渓谷にある階段工の図面を参考にして設計した、いわゆる「フランス式階段工」と呼ばれる施工が行われ、1918（大正7）年に完成しました。
何万言を費やすより、ご覧いただいた方が理解は早いでしょう
この話には逸話があって、1911（明治44）年にヨーロッパへ派遣された内務省技師の池田圓男氏が、入手したのはオーストリアの砂防の教科書（ゼッケンドルフ著）だったようです。
ところが、そこに記載されていたのは、元々フランスの教科書（デモンセー著）だったようで、実施例としてフランスのサニエル渓が掲載されていたようなのです。
この結果、対象施設が、「フランス式階段工」と呼ばれるようになったということです。
また、併せて掲載されていた「山地における森林及び芝草の回復工事に関する研究」（1878）も参考になさったようです。
当時の植栽工では、アカマツを主に植え、ニセアカシアはわずか3%程度植えたに過ぎませんでしたが、上流山腹はほとんどがニセアカシアに占められるようになってしまいました。
ニセアカシアの寡占は生態系に悪影響を及ぼす上、根が浅く、倒れやすいという欠点があるため、在来種であるナラやオニグルミなどに樹種を換えてしまう林相転換事業が行われてきたようです。
法面緑化には少々うるさいヤマトですが、ニセアカシアが外来生物規制法において要注意リストに上がろうなどと当時は思いもしなかったことでしょう。
しかし、むしろこうした実施例があったからこそ、そういった認識と理解が得られたと言うべきかもしれません。
それよりも、進取の気性に富む池田氏の現場に対する適応力に敬意を表したいと思います。
欧州の教科書レベルの内容を、環境等が大きく異なる日本の現場へ適用しただけではないかとおっしゃる方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、そこには計り知れない労苦があったはずです。
単なる物まねではないご苦労が。
そうでなければ、フランス式階段工と言われるその流路工は、見よう見まねだけでこれほど長く機能を維持することはできなかったはずです。
また、エイジング効果が上手く発揮されていて、経年変化によりどんどん景観同化が進んでいます。
現代の土木施設でこうした配慮が、或いは意図の見える施設が、いったいどれくらいあるでしょうか？
池田氏だけの業績ではありませんが、当時の砂防技術は現代よりも優れているのでは無いかと思わせられる程に多種多様な工種の適用が見て取れます。
「自然との対話」があったればこその結果ではないかと思えてなりません。
単に物まねではない本物にだけ許される、自然の受容力を見る思いがします。
【参考URL】
○牛伏川階段工
○牛伏川階段工
○牛伏川フランス式流路工
○牛伏川階段工
○流れの景観からみた局所流の流況特性
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土木技術者列伝(22)橋爪誠義（静岡県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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さて、今回は静岡県を探索してみました。
そして、ご紹介させて頂くのは
橋爪誠義(ﾊｼｽﾞﾒｱｷﾖｼ) 氏
です。
？と思われる方が多いのではないでしょうか。
現場は、三島から下田まで伊豆半島を縦断する下田街道（現国道414号）の難所、天城峠に設けられた天城山隧道です。
伊豆半島は、中央を東西に横たわる天城山系によって南北に分断されていますので、この天城越が難所だったのです。
その昔、下田をはじめ南伊豆の人々にとっては海路が一般的で、陸路の整備は遅れていました。
嘉永６年（1853）のペリー来航を契機に下田奉行所が置かれ、そこを舞台に幕末の条約交渉が展開されることになり、陸路での交通も活発になりました。
当時の南伊豆の人々にとって、悲願の天城山隧道が完成したのは明治38年（1905）のことでした。
このトンネルは、昭和45年（1970）に新天城トンネルが開通してからは旧天城トンネルと言われています。
このトンネルの開通は、伊豆半島の南と北を結ぶ下田街道の人や物の往来を活発にしました。
もともと下田街道沿いは、狩野川に映る「逆さ富士」の眺め、数多くの温泉に加えて、源氏旗揚げの地、北条家発祥の地など歴史の香り高い土地柄でもあります。
トンネル完成以降、文人たちが好んで足を運んだのもうなずけます。川端康成「伊豆の踊子」、梶井基次郎「冬の蠅」、井上靖「しろばんば」、松本清張「天城越え」など、文人たちはたくさんの作品を残しています。
作品の舞台を訪ねると、往時が偲ばれます。
さて、天城山隧道は、長さ446m、幅4.1mの総石造りのトンネルとして整備されました。
整備は、下田街道（現国道414号）の改修工事の一環として、静岡県の補助事業により行われたもので、中心的に関与なさったのが、静岡県の技師・橋爪誠義氏でした。
工期は、明治33年起工、同37年竣工だそうです。
しかし、交通量の増加に伴い、昭和42年から同45年にかけて隧道西部に新天城トンネルが建設されたため、天城山隧道は交通機能を維持しつつ主に観光施設として活用されて現在に至っています。
天城隧道は、大仁町の吉田石を用いたと言われ、石巻工法によるトンネルでは、我が国に現存する最大長を有する土木遺産です。
また、抗門や隧道内部の覆工など全体が切石積で構築されており、石材の加工技術には精緻な完成度の高い技術が見て取れます。
現在の金額にして60億円超とも言われるこの天城隧道には、気骨たくましい明治の息吹が感じられます。
橋爪氏を初めとし、この天城隧道に関係なさった方々のご苦労は、供用後100年を経過した今も現場に凛として残され、自然との一体感を与えています。
苔むしてこそ、さらに味の出る土木施設を、今我々は設計のコンセプトにすることができるでしょうか？
1000年の時を超えても尚、天城隧道は今の姿を保っていて欲しいと願わずにはいられません。
今回も橋爪氏の詳細なプロフィールや、現場での思想などについて情報は全く得られませんでした。
しかし、最近ヤマトは思います。
土木界でも相当著名な方に関しては、特に学術関係者の方については、記録が残されていますが、現場により近い方々の情報はほとんど残っていません。
したがって、施設に語ってもらうしか無いのだろうと思うのです。
しかし、施設そのものを主役にしたいとは絶対に思いません。
あくまでも人間に焦点を合わせていきたいと考えています。
【参考URL】
○天城山隧道（旧天城トンネル）
○天城隧道
○旧天城トンネル
○旧天城トンネル
○訪ねてみたい旧街道
○天城峠
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土木技術者列伝(23)平田靫負（岐阜県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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さて、今回は岐阜県を探索してみました。
施設を主体に検索してみても様々ありますし、人で検索しても色々な方がいらっしゃいます。
その中で、今回はどうしてもこの方をご紹介させて頂きたいと思います。
平田靫負(ﾋﾗﾀﾕｷｴ) 氏
です。
時は1573年江戸時代。
ある勅命が幕府から薩摩藩に下ります。
それは「宝暦治水」と言われる大事業でした。
宝暦治水とは、濃尾平野の治水対策で、木曽川、長良川、揖斐川の分流工事のことで、三川分流治水とも言われます。
濃尾平野を貫流する揖斐川・長良川・木曽川の3河川は、下流の川底が高く三川が複雑に合流・分流を繰り返す地形であったことに加え、周囲が輪中と言われる低平地であったことから、頻繁な洪水に見舞われ大きな被害を繰り返し発生していました。
木曽川と揖斐川の水位差は約2m。
三川を分流しないことには、その根本的解決は望めなかったのです。
長良川と揖斐川の締切堤防建設が最大のミッションでした。
地元に残る言葉に「四刻八刻十二刻」があります。
これは大雨が降った際の木曽三川の洪水到達予測時間の事であり、揖斐川は四刻（8時間）、長良川は八刻（16時間）、木曽川は十二刻（24時間）で洪水が到達することを意味しています。
平田靭負氏は「幕府と戦えば、薩摩は戦場となり、罪もない子どもや百姓までもが命を落とす。ならばこの治水事業を引き受け、異国と言えど美濃の民百姓を救うことこそ、薩摩隼人の誉れを後世に知らしめ、御家安泰の基となろう」と、いきりたつ家臣を説得。幕命を受けることとなります。
かくして平田靭負氏は、薩摩藩士千余名を連れて、この難工事のために濃尾平野に向かいます。
美濃のような大河のない薩摩藩士にとって、目前を流れる木曽三川はまるで海。
刀を持つ手を鍬にかえ、暴れ狂う濁流に向かったのでした。
しかも、薩摩藩士を待ち受けていたのは幕府による冷遇。
「食事は一汁一菜、酒や魚は一切禁止」という日常的なことから、町方請負禁止などの工事上の難題にいたるまで、さまざまな悪条件に加え、幕府役人による数々の工事妨害の中で工事は行われました。
およそ1年余りの工期にて、現代の金額にして約300億円をかけた大土木工事は完成します。
予算規模に対する工期の短さだけをとっても、とんでもないプロジェクトだったことが理解できます。
工事の詳細については、【参考URL】に詳しいサイトがありますから、そちらを参照して下さい。
この世紀の一大プロジェクトは、32名の病死者と52名の切腹者という、とんでもない犠牲の上に完成した事業でした。
そして、プロジェクト完成時に締切堤防の上に薩摩藩から取り寄せた「日向松」1,000本が植栽されます。
このため締切堤防は、油島千本松締切堤とも称されます。
やがて、薩摩藩士達は帰藩の途に就きます。
しかし、平田靭負氏は一人残り、翌日切腹して果てるのでした。
何とも壮絶な。。。
歴史を詳しく繙いた訳ではありませんが、平田靭負氏は最初からその覚悟だったのではないかと思えて仕方がありません。
今回、平田靭負氏を取り上げさせて頂いたのは、この方こそ「土木技術者列伝」に相応しいと思ったからです。
出来上がった施設の重要性や投資金額の巨大さ、或いは技術の精緻度などは、土木の重要な基本要素かもしれませんが、平田靭負氏のエピソードにはそれ以上に大切な「土木屋魂」とも言うべきものがあります。
平田靭負氏が、現代の土木界を眺めたとしたら、どうおっしゃったでしょうか？
と考えると、改めて襟を正して、使用者優先の原則を再確認すると共に、遠い将来を見越した配慮を心がけたいとつくづく思った次第です。
皆さんはどのようにお感じになられたでしょうか？
さて、その後明治時代に入ると、内務省が全国各地の治水事業に着手します。
木曽川においては課題の分流工事を本格的に推進すべくヨハニス・デ・レーケを迎え、1888年（明治20年）より「木曽・長良・揖斐三大河水利分流計画」に着手します。
油島を完全に締切り長良川・揖斐川を完全に分流し、木曽川・長良川を背割堤で締め切る他木曽川の流路を立田輪中に、長良川の流路を高須輪中に切り替える事によって完全に木曽三川を分流させる計画を立て、これらは1893年（明治25年）に完成します。
今回は、土木のもつ重みを凄く感じるエピソードでした。
我々は、歴史の上で生かされています。
感謝の気持ちと将来に対する責任感が、我々には不可欠な要素だと言えるでしょう。
そんなことを考えさせられるお話でした。
最後に、平田靭負氏の辞世の句を紹介して終わります。
「住みなれし 里も今さらなごりにて たちぞわずらう美濃の大牧」
【参考URL】
○まんが薩摩義士ものがたり
○宝暦治水薩摩義士伝
○木曽三川の歴史
○壮絶・薩摩義士 ～三川分離の苦闘～
○木曽川について
○木曽川の治水工事と平田靱負
○宝暦治水と薩摩義士（年表）
○木曽三川治水偉人伝
○第221回 民を救った義士たちの物語～宝暦の治水・薩摩藩士の苦闘～『その時歴史が動いた』NHK
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土木技術者列伝(24)石川栄耀（愛知県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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さて、今回は愛知県を訪れました。
そして、ご紹介させて頂くのは
石川栄耀(ｲｼｶﾜﾋﾃﾞｱｷ) 氏
です。
現場は、実に広大な「名古屋市」です。
えっ！？
と、思われても不思議ではありません。
石川栄耀氏は、山形県でお生まれになり、1918（大正7）年東京帝国大学工科大学土木工学科を卒業から2年を経過した1920（大正9）年に都市計画技師第1期生として採用されます。
そして、都市計画地方委員会技師としての赴任先が名古屋だったわけです。
都市計画愛知地方委員会の初代幹事は、理想家肌の事務官僚である黒谷了太郎氏だったそうです。
黒谷氏は、イギリス留学の経験がある上、事務官僚でありながら田園都市の設計者レイモンド・アンウィン氏と交流があり.イギリス都市計画の知識に詳しかった。
黒谷了太郎氏と石川栄耀氏は、上司・部下を越えて都市計画を語り合う友人となり、黒谷氏の影響によって、石川栄耀氏はアンウィン氏に深く傾倒するようになったそうです。
石川栄耀が1923（大正12）年から1年間洋行した際、アンウィン氏に面会し、石川栄耀氏はアンウィン氏から次のような指摘を受けます。
「君のプランにはライフが無い。水際は市民のライフのリソースだ。そこを全部工業にするようでは、工業のことも解っていないと言ってよい」
石川栄耀氏は. この言葉によって覚醒したそうだ。
やがて、若年ながら主任技師に昇格した石川栄耀氏は、自分の意志とアイデアを発揮できる立場となった。
区画整理と街路事業を宅地造成、土木事業の段階にとどめず、建物が実際に建つまで誘導する土地経営の領域まで踏み込んでいる。
分譲地の販売促進に、公園設置の効果が判明すると、区画整理組合の費用負担で公園を整備し、公園祭りを開き、住宅展覧会や土地博覧会を開催するなど、今日の民間デベロッパー、広告代理店、公団・協会の仕事まで、地元の地主、商工業者とタイアップして行った。
石川栄耀氏は「名古屋の生活は実に楽しかった。我々の意見は、大小の関係なく市民に直に承認されたのである」と当時を振り返っておられます。
地元マスコミもまた好意的で、新聞にコラム欄まで提供してくれたり、さらには市長が石川栄耀氏を全面的にバックアップされたことも大きな原因だったのでしょう。
そして、石川栄耀氏の舞台は、戦災後の帝都東京に移っていきます。
東京の戦災復興計画の立案を精力的に開始し、戦災復興事業の全体を指揮する責任者となった石川栄耀氏の立てた計画は、英国田園都市思想の影響が色濃いロマンティックで壮大なものでした。
しかし、結果的にここでは名古屋のような成功を手に入れることができませんでした。
もしも、石川栄耀氏の構想の半分でも具現化していたら。。。と、思うのはヤマト一人では無いはずです。
石川栄耀氏の著作に「私達の都市計画の話」があります。
1948年に兼六館から出版されていますが、序文に次のような言葉が記載されています。
『私は三十年もの間 都市計画のお話を しつづけてきました
私は世の中でこんな大切な こんな面白いお話は ないものだと思っています。
然（しか）し結局大人はダメでした 大人の耳は木の耳 大人の心臓は木の心臓です。
そして大人は第一 美しい夢を見る方法を 知りません。
夢のない人に 都市のお話をしたって ムダな事です。
子供は夢を見ます。 星の夢も花の夢も天の夢も 百年後の日本の夢も
それは子供の耳が 兎（うさぎ）の耳のように大きく柔らかく 子供の心が バラの花の様に 赤くそして匂うからです。
子供にお話をする事を 忘れていた私は何と言う 手ぬかりをしていた事でしょう。
それに第一子供こそ 明日の日本の建設者です。
此の焼け跡-------- 一億五千万坪の焼け跡 此の焼け跡を北京の様に 不思議な美しさをもつ 町にする事も
巴里（パリ）やワシントンの町と 公園の様に美しくする事も 皆今日の子供達に
まかせられた仕事です。
我々の時代は その準備をするだけの 時代なのでした。
それを忘れて居ました。
子供達よ （明日の建設者よ）
あなた達の手で 本当に美しい 日本を造って下さい。
後の世の人々に 焼けて返（かえ）ってよかったなア としみじみ 云って貰（もら）えるような 賢い美しい 町を造って下さい。
此れはその為の 一応のテキストです。
少しムヅカしいかも知れ ませんが
今年ムヅかしかったら 来年読んで下さい。
解りや易すくても 実のない本であったら 何にもならない筈（はず）では ありませんか。
私はあなた方に 「云わなければならない事」は みんなお話したいのです。
だから私の話は何とかして 皆わかって下さらなくては いけません。
私は あなた方を 少しばかり大人のつもりで お話してしまった かも知れません。
あなた方も 少しばかり背のびして 聞いて下さい。
いや何、おちついておよみに なればそれだって ソーウむずかしい事では ない筈です。
それからお願いしたい事は 皆様が 此の本をよんでしまったら 大切な所に赤い線をひいて ソツと お父さんやお母さんの お机の上におく事です。
そして 「オヤこりやア何の御本だい」 とでも おっしゃれば もうシメシメです。
お互いにきこえない様に 手をたたいて ニコニコ笑おうじゃあ ありませんか。
では そんな事のある様に』
そして、同書の終章は次の言葉で結ばれています。
『社会に対する愛情、これを都市計画という』
何とも味わい深い言葉の数々。
ある意味子供のまま年齢を重ねたような純粋気質。
しかも茶目っけタップリ。
しかし、名古屋でのご活躍ぶりは、単なる都市計画を専門とされる技術者の領域を超えた、言わば経営者のような活動範囲には舌を巻くばかりです。
高い志と強い意志が為せる技というような単純な言葉では形容が不足する方です。
我々土木を志す者の最も重要な要素は何か？と問われて、
「社会」若しくは「人」とシャープに迷い無く言い切れるだろうか？と自らに問い質すきっかけを頂いたような気がします。
最後に、社団法人日本都市計画学会では、石川栄耀の業績を記念して昭和34年度に「石川賞」と「石川奨励賞」を制定しています。
「石川賞」では、都市計画に関する独創的または啓発的な業績により、都市計画の進歩、発展に顕著な貢献をした個人または団体を表彰している。
「石川奨励賞」では、石川賞に関し将来性・発展性のある優れたものを表彰している。
興味がおありの方は狙ってみられてはいかがでしょうか？
【参考URL】
○石川栄耀の人間賛歌
○『石川栄耀「私達の都市計画の話」--序--、兼六館、１９４８年１月』
○石川 栄耀著 『都市計画及國土計画ーその構想と技術（日本工学全書）』 工業図書 昭和16年発行
○田園都市論の系譜
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土木技術者列伝(25)服部長七（三重県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
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さて、今回は三重県を訪れてみました。
そして、ご紹介させて頂くのは
服部長七(ﾊｯﾄﾘﾁｮｳｼﾁ) 氏
です。
今回の現場は、四日市港旧港防波堤です。
まずは、ご覧下さい。
写真の方が服部長七氏です。
四日市港は、明治17年に稲葉三右衛門氏の手により完成しました。
そして、その10年後に改修されています。
その改修の時、オランダの土木技術者ヨハネス・デ・レーケ氏がこの「潮吹き防波堤」を提案なさったそうです。
そして、服部長七氏が工事を行われたということです。
一風変わった名称の防波堤です。
潮吹き？なに？
下の図をご覧下さい。
実は、二段になった堤があり、外側（海側：3.7m）より内側（陸側：4.7m）の方が高くなっていて、その内側の堤に穴をあけることで、高波を和らげようと考えられた形式です。
もしも、穴が無ければ、波力の全エネルギーが防波堤に加わり、防波堤が壊れる可能性がありますが、穴を開けて水が抜けるようになっているため、波力の全てが防波堤にかかることはありませんし、高波はシャットアウトできることになります。
全長199ｍに対して、五角形の穴が４９個開いて、防波堤の線形は、少し外側に曲がっています。
高波が押し寄せてきた時、海水が穴から吹き出るように見えるので、「潮吹き防波堤」と命名されたそうです。
これが名前の由来です。
また、この防波堤は、実は高波を抑えるだけでなく、水位調整の機能も果たしていたそうで、世界的にも珍しい構造のため、国の重要文化財に指定されています。
しかし、デ・レーケ氏のこうした斬新なアイデアは、服部氏の特殊工法無くしては発想さえできなかったかもしれないのです。
さぁ、それは一体どのような技術だったのでしょうか？
早速繙いていくことにしましょう。
服部長七氏は、1840（天保11）年、三河国碧海郡北大浜村（現、愛知県碧南市）に生まれました。
16才の時、左官の御尊父がお亡くなったことをきっかけに、桑名（三重県）で数年修業した後、郷里で左官を開業しましたが、田舎の左官に満足できず職を転々とし、ついに34才の時東京で饅頭屋を開業しました。
当時の東京では、市民が池水をそのまま飲用していることを知り、チャレンジ精神旺盛な彼は濾水器（濾過池）が作ろうとしました。
しかし、水密構造に使う良質な材料が無いため、彼が修業した"タタキ"の手法を試みます。
ところが、東京周辺にはマサ種土が無いため、郷里の三河からこれを取り寄せ、店の土間で試みたところ、堅牢なこと"石"のようで、しかも費用も安価であったため、彼は"タタキ"屋になることを決意します。
この"タタキ"とは、石灰に種土を混ぜ、水で固練りしたものを、板や木槌でよくたたき固めたものです。
種土は花崗岩が風化し土壌化したものが最適とされていて、矢作川流域など、三河地方に堆積するマサ土がそれで、後に各地に送り出されて使われたため、「三州たたき」の名が広まったほどです。
"タタキ"屋になった服部長七氏のもとへ舞い込む注文は、井戸側、石塀、水槽などの小さな工事ばかりで、彼の野望は充たされなかったと言います。
しかし、彼の業績がやがて宮内省に認められ、皇居学問所の廊下や泉水、青山赤坂離宮などの工事を次々に請け負い、これを契機として、大久保利通、木戸孝充、品川弥二郎ら政府高官の私邸工事にも出入りするようになったそうです。
服部長七氏は自分の得心がゆくまでは、採算を度外視しても仕事をやり抜く一徹さが認められ、請負師として成長していくのでした。
服部長七氏は、原料の練り具合などの工夫によって"タタキ"の耐水性を高めることに成功し、土木工事への自信を持つようになっていきました。
そして、1881（M14）年の第二回内国勧業博覧会に、"タタキ"による暖炉、濾水器模型などを出品し、賞を得ています。
この第二回博覧会の会場内で、泉水池を請け負った長七が"タタキ"工事をやっているところへやってきたのが、農務省のお雇い外人技師ヨハネス・デ・レーケ氏だったのです。
そして、デ・レーケ氏は服部長七氏に尋ねます。
「この人造石は何で作っているのか？」
それまで自分の工法を「長七タタキ」と呼んでいたそうですが、この時以来「人造石」と呼ぶようになったと言います。
そして、四日市港の改修工法を考案することになっていくのです。
ざっと服部長七氏の半生を眺めただけでも、なかなか興味深い人物だったことが分かります。
「大江戸豪商伝」（童門冬二著・徳間文庫）に収録された「ワラジを釣る男」という、服部長七氏を主人公とした短編に、彼のユニークな発想とキャラクターが描かれています。
ご興味のある方はご一読をお奨め致します。
ヤマトは昔、二和土あるいは三和土に傾倒した時期がありました。
二和土（三和土）とは、「タタキ」と読みますが、赤土・石灰・砂利に苦塩(ﾆｶﾞﾘ)を混ぜて水で練り、締め固めたものを言います。
つまり、服部長七氏が行ったものとほぼ同じものです。
何に利用するつもりだったかと申しますと、ロックフィル・ダムを担当していた時、コア材料がなかなか見つからず、ブレンドにより現場製造する覚悟を決めた時、含水比が低減できなかったため、二和土（三和土）の理論を応用しようとしていたのです。
結局、苦塩(ﾆｶﾞﾘ)は混合しないで課題解決を図りましたが、その時の試験・研究過程で、二和土（三和土）の応用をずっと考え続けていましたから、今回のテーマは大変印象深いものでした。
ところで、世界遺産に登録されているカンボジアのアンコール遺跡には、ユネスコ主導のもと各国の救済チームが集まり、復旧工事が行われてきました。
日本のチームが手がけたのは、建造から７００年近い時を経過した寺院で、土台が老朽化し崩壊の危機にさらされていました。
工事に際してさまざまな検討を重ねた結果、強度、耐久性ともに最も優れた技術、即ち「長七タタキ」が採用されることとなるのです。
何だか感激しますね。
【参考URL】
○服部長七
○服部長七と人造石
○潮吹き防波堤
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土木技術者列伝(26)田邊義三郎（滋賀県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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さて、今回は滋賀県を訪れてみました。
滋賀県と言えば、日本最大の湖「琵琶湖」です。
琵琶湖にまつわる方をと思って探していました時に遭遇した方をご紹介させて頂きます。
その方は
田邊義三郎(ﾀﾅﾍﾞｷﾞｻﾌﾞﾛｳ) 氏
です。
淀川水系草津川上流の大津市上田上桐生町の自然休養林の中に、周辺の自然に溶け込んだ石造りの古い砂防ダムがあります。
これが日本の近代砂防事業のシンボル的存在「オランダ堰堤」です。
築堤百十年を超えた歴史あるダムは、重厚な雰囲気を醸し出し、古びた石積みに十分な安定感があります。
オランダ堰堤は、明治以降の砂防事業の歴史的遺産というだけでなく、築堤当時の原形を維持したまま、今も立派に機能を果たしているところに大きな意義があります。
「オランダ堰堤」という名の通り、この砂防ダムは、オランダ人技師ヨハネス・デ・レーケ氏（明治六年来日、明治三十四年帰国）の指導によって築造されたものです。
明治政府に招聘され、淀川水系の治水・治山に大きな功績をあげたデ・レーケ氏は、ヤマトの土木技術者列伝にも幾度無く名前が出てきました。
デ・レーケ氏の指導のもとに行われた事業の一つが、オランダ堰堤、淀川改修事業とそれにかかわる田上山(ﾀﾅｶﾐﾔﾏ)一帯の砂防事業でした。
オランダ堰堤のある田上山一帯は、千数百年前には樹木の生い茂る一大美林地帯で、藤原宮や紫香楽宮の宮城建設、比叡山延暦寺や三井寺などの寺院建設のための用材が大量に切り出されていました。
戦国時代は軍用資材、あるいは兵火によって焼かれた京洛の建物の復旧資材、さらに大坂城築造の木材、製鉄用薪炭材として、繰り返し伐採が行われてきました。
この乱伐の結果、江戸時代後期には田上山は荒廃してしまったのでした。
樹木が切られ保水力を失った山からは土砂が流れ出し、周辺の大戸川、信楽川、草津川、瀬田川で洪水氾濫を引き起こし、淀川下流の大坂にもたびたび洪水災害を発生させていました。
明治時代、田上山一帯を含む淀川上流域水源山地の荒廃ぶりを視察したデ・レーケ氏は、上流山地の治山と砂防の重要性を説き、土砂の流出を防ぐ床固工、堰堤工、護岸工などの近代技術を取り入れました。
オランダ堰堤はその施設群の一つです。
オランダ堰堤の設計は、ドイツ留学経験のある若い日本人技師である田邊義三郎氏（1858～1889）が行ったのだそうです。
1889（明治22）年に完成した堰堤の構造は、30cm角、長さ90cmの石柱を階段状に積み上げた「割石積み堰堤」で、高さ約7m、幅34mの緩いアーチ形をしています。
この形状が鎧に似ていることから「鎧積み」ともいわれています。
砂防ダムは、流出土砂の抑止・貯留、河床の侵食防止、山脚固定、山崩れ防止などの砂防機能を備えています。
こうした本来の機能に加え、オランダ堰堤に特徴的なのは、内部に粘土をハガネ土として入れ、水をためる構造になっていることです。
というのは、ダムにたまった水から水蒸気が発生し、それが山腹の樹木の生育を促進する効果があるからです。
田上山の砂防に詳しい京都府立大学の水原邦夫教授は、「これは西洋の技術を日本人の発想によって改良した一つの例。田邊技師の技術が活かされています」とおっしゃっていらっしゃいます。
このオランダ堰堤の得意な形状と意匠は、デ・レーケ氏の石堰堤スケッチや、彼の工法に関する砂防模型等にも見あたらず、推測の域を出ませんが、田邊義三郎氏のオリジナルだった可能性が高いようです。
いずれにしても、今も生き続けるオランダ堰堤の存在は、「治水は治山にあり」という先人の知恵を改めて私たちに納得させてくれるものに違いありません。
ヤマトが二和土（三和土）に興味を持っていたことは、以前コメントしたとおりですが、正にそれを砂防堰堤で実現なさっていらっしゃったとは。。。
参りました。
それも明治時代にです。
何と我が能力のお粗末なことか。。。
皆さん、既にお気づきの方がいらっしゃると思いますが、このオランダ堰堤の完成は、1889年です。
田邊義三郎氏のご逝去も同じ1889年なのです。
つまり田邊義三郎氏は、このオランダ堰堤の完成直後に他界なさったことになるのです。
どのような事情だったかは詳細情報がありませんから分かりませんが、もしもご病気だったとすれば、死を覚悟してこのオランダ堰堤に自らの命を注ぎ込んでいたことになります。
そうでは無くとも、「ダムにたまった水から水蒸気が発生し、それが山腹の樹木の生育を促進する効果」などという事を現代の設計者が果たして考えるでしょうか？
「参った」と思いました。
経済優先を錦の御旗として、量の確保にどちらかと言えば軸足を置いて進められてきた社会資本整備。
しかし、大切なものを等閑にしてきてはいないでしょうか？
それは、全ての技術者に共通のものかもしれませんし、或いは、各自異なるものかもしれません。
少なくともこの逸話を通じて、ヤマトは土木技術者とは何たるかを、再び自らに問い質すきっかけを頂いたような気がしました。
【参考URL】
○田邊義三郎
○オランダ堰堤
○鎧ダム
○オランダ堰堤
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土木技術者列伝(27)田辺朔郎（京都府） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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さて、今回は京都府を訪れました。
そして、今回ご紹介させて頂くのを、ヤマトは心待ちにしていた
田辺朔郎(ﾀﾅﾍﾞｻｸﾛｳ) 氏
です。
今回の現場は、言わずと知れた琵琶湖疎水です。
京都市東山の麓、観光客で賑わう哲学の道を見下ろす蹴上(ｹｱｹﾞ)の地に、図面を手にした若き技術者の銅像が建っています。
まさに彼こそ、明治初期の文明開化の時代、不屈の精神と卓越した技術によって、京都に琵琶湖疏水を開通させた、田辺朔郎氏その人です。
1869（明治2）年の東京遷都によって、政治・経済・文化の中心が東京に移り、京都は人口の急激な減少と共に産業・経済が衰退を辿っていました。
そこで、人心を新たに市民が一丸となれる幾多の復興策の一つとして、当時の北垣国道京都府知事が計画したのが、水の確保と物資運搬を目的とする琵琶湖疏水の建設でした。
実は、琵琶湖と京都を運河で結ぶという計画は、古くは豊臣秀吉の時代に提案されていました。
しかし、あまりの難工事のため、ついに実現には至りませんでした。
この壮大なプロジェクトの責任者として白羽の矢が立てられたのは、当時、東京工部大学校（現・東京大学工学部）を卒業したばかりの田辺朔郎氏でした。
北垣知事は、このプロジェクトを担当する人材を求めて工部大学の校長大鳥圭介氏（「戊辰戦争」で名を馳せた彼の大鳥圭介氏である。）を訪ねたそうです。
すると、なんと事もあろうに、大鳥校長は、その適任者として当時20歳になったばかりの田辺朔朗学生を推薦したのですから驚きです。
1880（明治14）年当時、大規模な土木事業の主任技術者には欧米人が当たっており、日本人を主任技術者に迎えること自体、大変な決断だったのです。
明治時代はやること為すことが破天荒であり、無茶苦茶とも言える決断だと思うのは浅はかです。
北垣知事は、田辺朔郎氏の綿密な実測踏査と理論的な卒業論文、その真摯な態度に惚れ込み、世紀の大事業を弱冠23歳の若者に任せることを決断したのです。
この判断がどれほど凄かったかを物語る事実をご紹介致します。
当時、日本最長の鉄道トンネルが北陸線の柳ヶ瀬トンネル（延長1344ｍ）でしたが、琵琶湖疎水で計画されたトンネルはその倍にあたる2436ｍでした。
また、琵琶湖疎水建設に要した工事費125万円は、当時の京都府の年間財政規模50～60万円、国家予算7,000万円（この内、土木予算（公共投資）100万円）などから考えると、その規模たるや空前絶後のスケールでした。
にも関わらず、新卒者を大抜擢したのです。
明治人恐るべし！
工事は、1885（明治18）年に着工、1890（明治23）年に竣工しています。
琵琶湖疎水の建設工事は、最も難関が予想された第１隧道（硬岩と湧水による難工事）から取りかかることになり、施工方法についてもトンネルの両側からの掘削の他、日本で最初の試みとしてトンネルの途中に竪坑（深さ47m）を2カ所掘削する方式も採用しています。
また、水路トンネル以外にも難所があり、琵琶湖と京都市内とは同じ水位ではなかったことから、水位を上下する閘門を数カ所に設ける必要がありました。
このため30m余の段差をインクラインで結ばなければなりませんでした。
さらに、田辺朔郎氏の仕事は計画立案だけでなく、関連資材の製造や技術者の養成にいたるまですべてを手探りで進めなければなりませんでした。
そして、疎水工事開始後まもなく、アメリカで水力発電が成功したとの報に触れ、田辺朔郎氏は直ちに渡米し調査を進め、そして疎水の落差を利用した水力発電に計画を改めます。
それが1892年に竣工した蹴上（ｹｱｹﾞ）発電所で、わが国初めての公共用の水力発電施設です。
田辺朔郎氏には、次の逸話が残されています。
疏水のルートとなる山中の地質を調査中、彼は誤って右手の中指を負傷した。
東京に戻り、卒業論文として調査結果のまとめにかかる頃から、右手中指のケガは悪化し、首から吊っても痛みは耐え難い状態となった。
しかし、母子家庭の苦学生である彼に、病院で治療するゆとりや時間的は勿論、経済的にも無かった。
慣れない左手で書く英文の論文や製図の苦労はさらに大きかった。
平行線を引こうと定規をあてがい、動かないように重しをのせて、いざ線を引こうとすると烏口(ｶﾗｽｸﾞﾁ)のインクが乾いている。
最初からやり直しだ。
ケガが左手であったら･･････と思わないではない。
だが「左手で百難を排する方がやりがいがあるってえものだ。断じて行えば鬼神もこれを避く」と、田辺は歯を食いしばった。
不僥不屈の精神力を、彼はこうして培っていった。
1883（明治16）年5月15日、田辺朔郎は工部大学校を首席で卒業した。
しかし、骨膜炎を悪化させた右手中指は、帝国大学付属病院で第1関節と第2関節の間を切除され、小指ほどに短くなってしまったが、長いあいだ苦しめられた痛みからは、ようやく解放された。
最後に、田邊朔郎氏のノートに残されていた恩師ヘンリー・ダイアーの言葉をご紹介致します。
It is not how
much I did,but how well do.
どれだけ頑張ってきたかではなく、これからどれだけのことをやれるか、それが大切である。
十数年前のこと、南禅寺を訪れた時、初めて目にした水路閣の優美さに目を奪われて以来、田辺朔郎氏を崇拝してきました。
今回このようにしてご紹介させて頂けることは、ヤマトにとって誠に名誉なことです。
また、田辺朔郎氏をご承知の方が多いと思いますが、敢えて取り上げさせて頂いたのは、最後のヘンリー・ダイアー氏の言葉を紹介したかったからです。
きっと田辺朔郎氏もこの言葉を励みとしたに違いありません。
皆さまもそれぞれの立場でこの言葉を噛みしめて頂ければと思います。
【参考URL】
○田辺朔郎と琵琶湖疎水
○琵琶湖疎水※写真も良いですが、疎水絵図は他にありません。
○田辺朔郎業績
○琵琶湖疎水
○琵琶湖疎水※最も写真の充実したサイトです。
○田辺朔郎著 『琵琶湖疏水工事図譜』 明治24年発行
○袖珍公式工師必携 初,３編,補遺
○琵琶湖疎水の測量
○京洛そぞろ歩き
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土木技術者列伝(28)増田誠一（奈良県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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さて、今回は奈良県を訪れてみました。
実は、ずいぶんと悩みました。
皆さまご承知のとおり、歴史的建造物の宝庫のような奈良県です。
どれをとっても素晴らしいものばかりです。
しかし、そこで浮かび上がってくるのは歴史的に有名な方々ばかりです。
それでは、「土木技術者列伝」の思想に合致しません。
今回は、ご紹介させて頂く方の詳細は、あまり明らかではございませんが、「使用者の視点」という切り口で選択させて頂きました。
ご紹介させて頂くのは
増田誠一(ﾏｽﾀﾞｾｲｲﾁ) 氏
です。
そして、今回の現場は、ＪＲ奈良駅旧駅舎です。
古都奈良に初めて鉄道が敷設されたのは1890（明23）年12月で、大阪鉄道が王寺～奈良間を開業しました。
1892（明25）年2月には、奈良～湊町（現・ＪＲ難波）間が全通し、翌1893（明26）年には、王寺～桜井間（現・桜井線）も全通、古都の鉄道網は発展していきます。
1890年12月に誕生した奈良駅の初代駅舎は、木造平屋建て、瓦葺きの和風建築で、街の東西軸である三条通りに面していたことから"三条のすてんしょん"と呼ばれ、親しまれていました。
三条通りには近代的な都市建築物が次々と建てられ、奈良駅を中心に街もにぎわっていきました。
1900（明33）年、大阪鉄道は関西鉄道と合併し、次いで1907（明40）年には関西鉄道が国有化されます。
1933（昭8）年4月、古都にふさわしい駅舎をと、二代目駅舎の建設工事がスタートします。
設計者は、大阪鉄道管理局工務課技師 増田誠一氏で、当時流行していた帝冠様式を採用し、翌年に主要部が完成しました。
増田誠一氏は、関西の巨匠・武田五一氏の愛弟子です。
なんと、卒業制作が「駅舎」で、卒業直後にこの駅舎を設計なさったそうです。
堂々たる駅舎は、一見、寺院仏閣風の和洋折衷デザインで、鉄筋コンクリート造りでした。
瓦ぶきの方形(ﾎｳｷﾞｮｳ)屋根の頂点に立てられた相輪、軒先につるされた風鐸(ﾌｳﾀｸ)、柱を飾る宝相華(ﾎｳｿｳｹﾞ)などの古代文様など、仏教建築の要素が随所に取り入れられていました。
一方、外装にはタイルやテラコッタ※1が用いられ、内装も待合室の円柱、東大寺や鹿が描かれたステンドグラスなど、洋式建築の要素もふんだんに取り入れた意匠となっていました。
当初の設計では、両翼のある左右対称の建築物で、まず中央部が造られましたが、第二次世界大戦によって工事が延期され、1957（昭32）年に右翼部の増築のみが行われました。
そのため"未完の駅舎"とも言われていましたが、ＪＲとなってからは、イベント時に夜間ライトアップなども行われ、その建築美が多くの人々の目を楽しませてきました。
しかし、駅のすぐ北にある踏切付近での道路渋滞が激化したため、奈良市は線路と道路の立体交差事業を計画し、それに伴う高架型新駅舎の建設および現駅舎の解体を発表しました。
これに異を唱えた市民と有識者は、シンポジウムや署名活動など保存に向けた運動をおこない、ついに行政を動かします。
そして、平成16年5月、JR奈良駅が曳家工法によって4日間かけて北へ18m移動しました。
※1 テラコッタ…素焼きの陶器
景観10年、風景100年、風土1000年 という言葉をご存じでしょうか？
土木構造物が景観に馴染むのに10年。
それが風景に同化するのに100年。
そして、風土の一部になるには1000年という期間を要する。
したがって、土木構造物は、これぐらいの期間を想定して物づくりすべきものなのだという教えです。
今回は、設計者の思想を使う側がどのように感じたのかという視点で眺めてみました。
二代目駅舎の取り壊し方針が出された後の市民の反応は、関係者冥利に尽きる行動だとは思われませんか？
ヤマトは、今まで近年の土木構造物は、誰が設計し、そして誰が工事を行ったのか、そして、誰が維持運営を行っているのか、さっぱり明らかでないことに不満を抱いていました。
PRが下手なのかと思っていました。
或いは、責任の分散という組織構造が原因かとも思っていました。
しかし、そうでは無いことがやっと分かりました。
作る側からの押しつけであってはならないのです。
本当に優れた土木構造物であるならば、使って下さる方々から評判は自ずと出てくるものなのです。
しかし、ヤマトの関わってきた施設にそうした評判が上がったためしはありませんから、まだまだ修行が足りません！
継続的なスキルアップを心がけ、顧客満足の視点を最上位のプライオリティに、微力ながら1000年使っていただける施設づくりに邁進したいと思います。
【参考URL】
○奈良駅の変遷
○JR奈良駅旧駅舎
○JR奈良駅
○奈良駅
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土木技術者列伝(29)朝比奈段右衛門（和歌山県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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さて、今回は和歌山県を訪れてみました。
そして、ご紹介させて頂くのは
朝比奈段右衛門(ｱｻﾋﾅﾀﾞﾝｴﾓﾝ) 氏
です。
今回の現場は、水軒堤防です。
位置は下図をご参照下さい。
水軒堤防とは、初代紀州藩主徳川頼宣(ﾖﾘﾉﾌﾞ)の時代、朝比奈段右衛門（隠居名：水軒）氏が寛永年間（1624～1644年）に約13年かけて築造したもので、防波堤の高さは三～六間（5.4～10.8ｍ），全長は九〇〇余間（1.62km）に及ぶ規模だそうです。
表築石は和歌山城改修の和泉砂岩、裏築石は雑賀崎石を使用し、切石で布積み（水平に石の目地が通る積み方）され、表面に丸く膨らみを持たせた「こぶ出し」という精巧な技法を使って、丁寧に積み上げられているそうです。
石積み東側（陸側）の特徴は、最上段に砂岩を一列、中央部横方向に砂岩を二列積んで、中央部砂岩列より上方と下方は結晶片岩を積んで構築しているそうです。
東側の砂岩は、西側に比べて加工が粗い石材を使用しています。
石積みより東側の土層は黄褐色粘土層を含んだ人工的な堆積で、堤防東側は盛土によって構築されていたことが明らかとなっています。
石積み上面の特徴は、西側より大ぶりの砂岩の切石が用いられ、一部に石材を切り出す際に施された矢穴がみられると言います。
このような石積みは17世紀の金沢城などでは確認できるそうですが、堤防としては全国的にみても例がないということです。
水軒堤防は、平成17年2月、和歌山市西浜の臨港道路工事現場で発見されたもので、平成17年5～6月の発掘調査により明らかとなったものです。
水軒堤防がこれまで詳細が明らかでなかったのは、築造後の海流変化などにより明治時代後半から砂が堆積し始め、昭和30年代に埋まってしまったものとみられています。
これまでの調査の結果、改築の痕跡が見られないことから、宝永地震（1707年）、安政南海地震（1854年）、南海大地震（1946年）などの大地震でも破損が生じなかった可能性を示唆しています。
いやはや、もうこれだけの情報でさえ圧倒されてしまいます。
江戸人恐るべし！
またしてもヤマトは完膚無きまでにやっつけられましたぁ。。。
「布積み」は最近あまり施工の機会が無いと思っていました。
強いて行うとするならば、高さが比較的低く、上載過重があまりかからない部位に用いる方法だと認識していました。
しかし、どうですか？
高さが5～10ｍにも及ぶ海岸堤防構造物に「布積み」です。
しかも、材料の使い分けをご覧になりましたか？
さらに凄いのは、相当な地震動や波力によっても壊れていないという事実です。
何も申し上げることはございません。
総合的な品質管理の下、あらゆるリスクを特定し、代替案の評価に基づくリスク対策がマネジメントされた施設であることは言うまでもありません。
近年のプロジェクトは、経済性評価ばかりがクローズ・アップされますが、数百年にも及び要求される機能とその発揮を前提条件と考えれば、経済性評価のプライオリティは自ずと低下します。
こうした視点こそが、土木施設の本来あるべきプロジェクト・マネジメントだとヤマトは思うのですが、皆さまはどのようにお感じになられるでしょうか？
逆説的に言えば、経済性だけに拘っている間は、本物のプロジェクトに成熟していないドラフト段階の構想と言うべきなのかもしれません。
この発掘された水軒堤防が今後どのように扱われるのか、興味が尽きません。
トレード・オフ課題の実例としてお考えいただければと切に願っています。
【参考URL】
○紀ノ川緑の歴史回廊
○水軒堤防（特筆和歌山）
○水軒堤防石積み出現（和歌山港湾事務所）
○水軒堤防発掘調査
○和歌山市水軒堤防 防災堤防に築城技術 江戸時代に築造（紀伊民報）
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土木技術者列伝(30)沖野忠雄（大阪府） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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さて、今回は大阪府を訪れてみました。
そして、ご紹介させて頂くのは
沖野忠雄(ｵｷﾉﾀﾀﾞｵ) 氏
です。
今回の現場は、淀川と大阪築港です。
大阪平野は、大部分が淀川や大和川の氾濫により形成された、地盤高の低い沖積平野です。
これらの河川勾配は、比較的緩やか（1/4,000～1/10,000程度）で、生駒山の山麓付近までがほぼ感潮区間であり、かつ低地盤であるため、たびたび洪水や浸水の被害にあってきました。
縄文時代前期には、大阪平野は内海の一部でした。
その後、淀川や大和川の度重なる氾濫により、土砂が堆積し、低地が形成されました。
大阪平野は、多くの河川を有しており、水資源に恵まれている反面、水害を受けやすい地形となっていました。
大阪平野の洪水対策の歴史は古く、仁徳天皇の時代（320年頃）まで遡ります。
「難波の堀江」や、「茨田の堤」などが記録として残っています。
下図が古代の大阪平野の様子です。今とは比較にならないほど入り江が広く深いことが分かります。
その後、豊臣秀吉によって、淀川左岸の枚方～長柄間に、「文禄堤」が造られます。
さらに時代を下って、江戸時代元禄期（5代将軍綱吉の時代）に、大坂の拡張工事が進められることになり、河村瑞賢が安治川開削工事を実施し、淀川下流の治水に貢献します。
また、堂島や曽根崎などの新地も、この頃に生まれました。同時に安治川河口に港をつくり、水運の発展にもつながりました。
大和川の付替には消極的であった河村瑞賢の死後、開始された大和川の付替工事は、河村瑞賢による安治川開削から20年後の1704年に柏原～堺間約14.5kmの新たなルートで建設されます。
工期はなんとたったの8ケ月。（このテーマも捨てがたかったのですが。。。）
その当時の大阪平野を示したのが下図です。
古代の大阪平野とは様子が一変していることが明らかです。
現代の形に近づいてきたことが分かります。
このような治水・利水の機能が備わってきた淀川でしたが、淀川とその支流から流入する大量の土砂により、大阪港付近は水深が浅く、吃水の深い蒸気船の入港が困難な状態に陥ります。
これにより外国船の往来が増加したにも拘わらず、大阪港はその受け入れ先になれず、大阪経済は衰退を始めます。
このため、大阪府は大阪港の築港を決意し、オランダ人技師デ・レーケに計画立案を依頼します。
そして、総予算2,249万400円（当時の横浜港、小樽港などの築港予算の約10倍）という未曾有の規模の築港工事が開始されたのでした。
工事は、1896（明治29）年、まず淀川改修から始まります。
この工事責任者が、沖野忠雄氏でした。
そして翌1897（明治30）年、大阪築港工事が着工します。
大阪市の依頼により、こちらも沖野忠雄氏が工事責任者を兼任することとなりました。
沖野忠雄氏は、この二つの現場を人力車で隔日に出勤したといいます。
しかも、これだけ大規模な築港にも関わらず、工期が8年という厳しい制約条件が課されていました。
この短工期での完成を可能にしたのは、工事のシステム化と機械化によるそうです。
コンクリートブロックの製作に至るまで請負業者を使わず直営にし、さらに外国から工事機械を輸入し、その機械を修繕する機械工場までも直営で造ったと言います。
その一方で、沖野忠雄氏は、両工事に携わる技師達を自宅に招いてご馳走するなど、現場の人間関係を築くことにも努めたようです。
その頃、部下だった真田秀吉氏『沖野博士傳記』によると、両工事の技師は一家のごとく親密だったといいます。
沖野忠雄氏は、酒を一滴も飲まず、『真面目でユーモア少し、人を笑わせることは下手だった』としながらも、『いつも話題の中心となっておられた』と部下に慕われる人柄を記しておられます。
また、鉄筋コンクリートにいち早く着目したり、機械の導入など工法も進歩的なのは、常に『新書籍を読み、世界の進運に後れぬよう努められた結果』としています。
こうした姿勢が、沖野忠雄氏を『工事の機械化の元祖』と言わしめる所以ともなっているのでしょう。
沖野忠雄氏の凄さは、そうした勉学熱心さばかりではなく、必要とあらば計画書にない工事を断行したり、将来有望と見込んだ技師を帝大に通わせたりするという点にもありました。
法規に縛られず、国家に有益かどうかが判断基準なのでした。
各種工事計画も日本全体を見て着手するため、郷里から水害が多い河川治水の陳情を受けても、優先するようなことはなかったと言います。
一方で、金銭や名誉に極めて淡泊だった方のようで、大阪築港の功労に、大阪市は数万円の報奨金を沖野忠雄氏に贈ろうとしたそうですが、沖野忠雄氏は遂に受取らなかったと言います。
さらに、土木局長の椅子を勧められた時も、「行政官になろうと思わない」と終生一技術者としての道を選んだそうです。
1918（大正7）年、内務技監を退官した沖野忠雄氏は、「俺は技師として恥ずるところなきだけの仕事をしてきた」と親しい者に打ち明けているそうです。
そして、そのわずか3年後の1921（大正10）年、68才で生涯を閉じられたそうです。
『日本の治水港湾工事の始祖』といわれる沖野忠雄氏は、大阪のみならず全国の主要な土木工事はほとんど沖野忠雄氏の裁断を仰いだと言います。
在職した30余年、一貫して港湾や河川工事に携わり、国外を含め手がけた港湾は８０カ所、河川は１００カ所を越えたそうです。
いやはや。またしても巨人登場ですね。
技術者としてのスキルが高いばかりでなく、視点と視野は俯瞰的であり、且つ総合的です。
そして、何より地位や名声或いは金銭に心が動きがちな方が多い中で、純粋に現場イズムを貫徹なさったその姿勢には胸を打たれます。
きっと資格の一つや二つに悪戦苦闘し、その合否に一喜一憂している姿を沖野氏がご覧になったら、どうおっしゃるでしょうか？
改めて、資格は単なる一里塚という意を強くしたヤマトでした。
そして、現場に迷いが生じた時には思い出し、自問したいと思います。
「恥ずるところなきだけの仕事」をしているか？と。
【参考URL】
○近畿の発展を支えた“母なる川”
○治水の歩み
○沖野忠雄
○国営巨椋池農地防災事業
○清廉潔白の技師沖野忠雄
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土木技術者列伝(31)片山東熊（鳥取県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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さて、今回は鳥取県を訪ねてみました。
そして、ご紹介させて頂くのは
片山東熊(ｶﾀﾔﾏﾄｳｸﾏ) 氏
です。
ご紹介するのは、仁風閣です。
安政元年、辰野金吾と同じペリーの浦賀来航の翌年、片山東熊氏は長州萩に生まれている。
下級武士の四男で、兄弟は男ばかりだった。
幼いころは相当に腕白な少年であったそうだ。
慶応元年、12歳で奇兵隊（尊敬すべき高杉晋作が組織した。）に入隊。
元服前であったため本来ならば入隊は困難でしたが、年齢を偽って志をとげています。
そのまま維新砲煙中の人となり、会津総攻撃にも参加し、名高い激戦を経験します。
その後、世が改まり、大阪造兵寮に学ぶが続かず、さらに東京に出て新設の工学寮を受験する。片山東熊氏は見事これに合格し、専門科の選択では悩んだ末造家学科を選び、ここに日本初の宮廷建築家となるべき人の第一歩がしるされたことになるのです。
片山東熊氏の幸運は、その出身が長州士族であったということに尽きます。
片山東熊氏の長兄則和は維新以前より山県有朋氏に近く、片山東熊氏の生涯を通じて山県氏のひきたてによる影響が強かったようです。
工部大学校卒業後、片山東熊氏は工部省に入省し、明治14年、師コンドルによる有栖川宮邸の建設に参加します（コンドルは洋館部分担当）。
翌年、工事途中ながら有栖川宮熾仁（たるひと）親王に随行してロシア皇太子戴冠式に出席し、片山東熊氏は有栖川宮邸室内装飾の調達を名目に宮の帰国後もさらに一年滞在を猶予され、ヨーロッパ各国の宮殿建築を学んでいます。
その後片山東熊氏は太政官、外務省などに出仕し、その間、第一作である北京公使館を手掛けるなどするが、いよいよ本丸である宮内省皇居御造営局出仕を命ぜられるのは同公使館が完成した明治１９年の暮れのことであった。
明治２２年、奈良、京都の帝室博物館建設が計画されると、片山はこれらの主任技師となって設計を担当し、工事の指揮を執る。これを皮切りに明治２０年代の片山は山県邸をはじめ、邸宅建築を中心に活発に設計活動に邁進した。やがて明治29年12月、東宮御所御造営調査委員に就任し、翌年、欧米各国の宮殿建築調査旅行の途につきます。
皇太子殿下嘉仁親王ご成婚を期に計画された東宮御所(のちの赤坂離宮、現迎賓館)の着工は、片山が帰国した翌年、明治32年に開始されます。
以後、片山東熊氏は、ほぼその全精力を東宮御所に傾注することになります。
世界史上、歴史的ヨーロッパ建築による最後の宮殿となったこの建物は、10年の歳月を経て明治42年に完成しました。
この時、片山東熊氏は55歳になっていました。
片山東熊氏にとって、生涯最大の仕事を無事に完結させたのでした。
そうした全盛期の片山東熊氏の手に依るのが、仁風閣です。
明治40年5月、時の皇太子殿下（のちの大正天皇）の山陰行啓に際し、ご宿舎として、もと鳥取藩主池田仲博公爵によって扇御殿跡に建てられたのが仁風閣です。
片山東熊氏の設計をサポートする形で、仁風閣の建築に参加なさったのは、工部大学校での片山東熊氏の後輩にあたる鳥取市出身の建築家橋本平蔵氏であり、また、地元の工匠浜田芳藏氏が施工にあたったそうです。
仁風閣は、フレンチルネッサンス様式を基調とする白亜の木造瓦葺二階建の本格的洋風建築です。
櫛形ペディメントを主要なモチーフにした端正な正面のたたずまいに、バロック風な軒飾りがほどこしてあり、正面右側には、らせん階段のために八角尖塔屋根が変化を与え、この建築の特徴を打ち出しています。
また、背面1・2階吹抜けのベランダは、軽快で美しい構成を示しています。
内部は御座所・謁見所・御食堂の主要室をはじめとして、1・2階の各室とも室内装飾に意が払われ、マントルピース（暖炉飾り）・カーテンボックス・シャンデリアなどの細部意匠にも見るべきものが多いと言われます。
↑螺旋階段 この螺旋階段には支柱がありません。
ささら桁（階板を支えるわき板）が支柱の代わりをしています。
ささら桁は、削ったケヤキの厚板を６枚つないで出来ています。
↑御座所 仁風閣の中で、最も豪華なこしらえの部屋です。
落ち着いた彩色・柄の壁紙、天井紙に包まれて、イタリー産黒大理石のマントルピースが安定感を増し、柱左右の緑色タイルは当時世界的に有名なイギリスの陶芸家フラックスマンの作品で、右に王子像、左に王女像が配してあります。
鏡枠は菊花彫刻がほどこされ、カーテンボックスの美しい花柄の彫刻と調和し、天井には５灯のシャンデリヤが豪華な曲線美を見せています。
寝椅子・座椅子はウルシ塗り、菊花の金マキ絵仕上げで、当時をそのままに表現しています。
↑二階ベランダ
↑謁見所
↑この「仁風閣」の額は、1907（明治40）年5月、皇太子殿下山陰行啓のお供をされ、この建物を「仁風閣」と命名なさった東郷平八郎元帥によって書かれたものです。
殿下ご到着の当日には、鳥取県下で初めて電灯が灯されるなど、明治の文明開化を華々しくうたいあげた記念建築でもあったそうです。
ヤマトは仁風閣の実物を見たことがあります。
しかし、これほど有名な方が建築なさったものだとは知りませんでした。
しかも、神社、仏閣の専門家がいらっしゃることは承知していましたが、宮廷建築家がいらっしゃるとは思いもしませんでした。
こうした建築には費用対効果は求められないのだろうと思っていましたら、東宮御所の建築費用は予想外に膨れ上がり、明治天皇はこれをお許しにならず、結局皇太子殿下がここにお住まいになることはなかったとか。
しかし、今ではその遺産を引き継ぎ、迎賓館として国賓の歓待に使用されています。
今では到底作り得ない施設であると同時に、重ねた歴史の重みが加わった重厚さも兼ね備えた誇るべき建築物であると感じます。
「贅」とは何か？
そして、如何に用いるものか？
問題を投げかけられたような気がしました。
【参考URL】
○仁風閣
○片山東熊
○片山東熊
○フレンチ型ルネッサンス様式の明治の洋館 仁風閣
○仁風閣
○仁風閣
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土木技術者列伝(32)石崎絢彦（島根県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
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土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
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特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
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さて、今回は島根県を訪ねてみました。
ご紹介させて頂くのは
石橋絢彦(ｲｼﾊﾞｼｱﾔﾋｺ)氏
です。
そして、今回の現場は、日御碕灯台です。
まずは写真をご覧下さい。
出雲日御碕灯台は、日本海に突き出た島根半島の西端（北緯35度25分51秒、東経132度37分54秒）に位置しています。
岬は石英粗面岩から成る隆起海蝕台地で、灯台は日本海の荒波に洗われる断崖の上に建ち、白く輝くその姿は荒々しい岩肌に対して絶妙なコントラストを見せています。
基礎から頭頂部までの高さは43.65メートル。
これは建築された当時から現在に至るまで、日本一の高さを誇っています。
光度は、48万カンデラ、光達距離は、21海里（約39km） 、日本で6ヶ所しかない第１等フレネル式レンズ（レンズ直径2m59cm）を使用した第１等灯台です。
出雲日御碕灯台は、1900（明治33）年の起工であることから、外国人技師はすでに存在せず、設計・施工はすべて日本人の手で行われました。
総工費は10万2188円66銭4厘、完成には2年5ヶ月余りの歳月を要しました。そして1903年（明治36年）4月1日日本海に向け煌々たる光が放たれました。
そして、この灯台の設計をなさったのが、航路標識管理事務所の技師で工学博士の石橋絢彦氏だったのです。
石橋絢彦氏は、大学校土木課の第一期卒業生（明治12年）で、卒業の翌年に工部省より灯台や港湾工事研究のためイギリス留学を命ぜられます。
当時のイギリス灯台建設の権威であるトリニティ･ハウス技師長のジェムズ・ニコラス･ダグラスに師事し灯台建設技術の指導を受け、当時改築中のエジストン灯台で灯台建築の実際を学びます。
更にイギリスばかりでなくフランス・アメリカの灯台や機器製作工場の視察を終え、1883（明治16）年に帰国します。
この灯台の特徴は、西洋に例を見ない世界的にもめずらしい「二重殻複合構造」であり、外壁は石材、内壁はレンガの異なる材料の組合せによる組積造りで、その断面は上図のようになっています。
また、詳細図面は下図のとおりです。
石を用いて灯台を造ることを前提とした場合、輸送の制約から石材を施工場所近辺より求めるざるを得なかったと考えられます。
そのため、石の性質や石工の技術、現場の状況などを勘案して、それに適した構造と施工方法を考える必要があったと思われます。
出雲日御碕灯台の場合、外壁の石材は、島根県松江市美保関町森山の硬質の岩から切り出し、境港から海路54海里を帆船で日御碕に近い宇龍のおわし浜まで運んだそうです。
海岸から約300m離れた現場までは、丸太組みの運搬用桟橋を仮設し運搬したとされ、その際に人力に頼らざるを得なかったことが石材一つの大きさを決める要因であったと推定されています。
また、さほど強度を期待できない石であったことが「二重殻複合構造」の採用を促した可能性が指摘されています。
1998年には、IALA（国際航路標識協会）の「世界の歴史的灯台100選」に、日本からは犬吠埼灯台、神子元島灯台、美保関灯台、姫埼灯台と並び、選ばれています。
われわれ、総監を目指す技術者にとって、とても大きな視点を与えて下さっています。
きちんとフィージビリティ・スタディが行われていること。
そして、そこから実施においてのハザードを抽出し、使用環境を考慮した機能確保のためのプロジェクト方針を明確に定めて、なお且つ経済性にも配慮した計画だったことを十分うかがい知ることができます。
また、プロジェクトを達成しうる方法・手段について、あらゆる可能性、代替案を追求し、確立論的な意思決定により得た結論が日御碕灯台という現実であると言えるでしょう。
各都道府県を訪ねて先人の偉大な業績に触れる度、総監的視点と対応の重要性を知る思いがします。
先人達に負けないよう、今年こそは総監取得に全力を傾けなければなりません。
こんなところでいつまでも足踏みをしているわけにはいきません。
頑張ります！
【参考URL】
○日御碕灯台
○出雲日御碕灯台
○日御碕灯台の概要
○出雲日御碕と灯台
○出雲日御碕灯台
○出雲日御碕灯台
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土木技術者列伝(33)吉川広嘉（山口県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
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【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
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【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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さて、今回は山口県を訪ねてみました。
山口県は、ヤマトにとって高杉晋作先生という尊敬する方を輩出した土地柄です。
しかも様々な土木施設が残されているのですが、関係なさった方のお名前が定かでない場合が多く、少し悩みました。
そして、ご紹介させて頂きます方は
吉川広嘉(ｷｯｶﾜﾋﾛﾖｼ) 氏
です。
現場は皆さま良くご存じの錦帯橋。
錦帯橋の縦断形状は、長く円弧と思われてきましたが、どうぞ下の写真をご覧下さい。
上の写真の鎖の形状をカテナリー（懸垂線）と言います。
放物線に似ていますが、放物線ではありません。
鎖は重力によって下に引っ張られます。
そして、鎖の一つ一つのつなぎめは、すべて引張りあっている状態です。
重力に対して、鎖は、引張り力で受け止めて抵抗している訳です。
このカテナリー形状を上下反転させたものが錦帯橋の縦断形状です。
つまりこの形状では、橋を構成する部材の全てが圧縮力を受けることになります。
では、この類い希な形状の錦帯橋がどのようにしてできたのか。
毛利軍学の基本『毛利の高陣』思想により造り上げられた、南蛮作りとともに全国的にも珍しい趣の戦国時代末期の城、岩国城。
岩国城主 吉川広嘉氏は元来病弱でしたが、読書に親しみ、武芸を好み、学問心と技術心を重んじる政策は、岩国文化の開祖と仰がれていたそうです。
そのような城主でしたから、当然のこと城下町整備にも力が入ります。
その一環で、清流「錦川」に架橋が行われました。
しかし、広い流域を持つ錦川の増水時の水流の激しさは想像を絶し、幾度と架けても橋はことごとく流失しました。
渡し船だけに頼る交通の不便と増水時の危険は大変なものだったようです。
そして、「流れない橋を架けたい」との切なる願いの実現に挑戦していことになります。
このため、吉川広嘉氏は側近の中から小河内玄可･真田三郎右衛門らを相談役に、児玉九郎右衛門を橋専門の研究員に任命し、架橋事業に当たらせます。
まず吉川広嘉氏は、1661年に児玉九郎右衛門を甲州（山梨県）大月にある猿橋の見学調査に行かせています。
甲州街道の渓谷にかかる橋柱のない橋「猿橋」に錦帯橋架橋のヒントを得ようとしたのです。
しかし、猿橋の架かる桂川の川幅30mに対して、錦川の川幅200mは構造的限界である35mを大きく上回っていて、技術の流用は困難でした。
やがて転機が訪れます。
吉川広嘉氏は、病気療養の際、明の帰化僧で医師でもある独立(ﾄﾞｸﾘｭｳ)を岩国に呼び、治療を受けていました。
明文化に関心のあった広嘉は、独立の所持する「西湖遊覧誌」という書物に興味を抱き、これを見る機会を得ました。
そこには湖に点在する島づたいに石橋がかかる挿図がありました。
これが錦帯橋着想の原点と言われています。
そして、研究を重ねた結果、橋台が4基、したがって5径間（5橋）と決まりました。
しかし、5径間のうち両端は、 流れが弱いため普通の柱橋にし、中央の3径間を足のないアーチにしました。
この木造の三連続アーチ（３スパンアーチ）というのは、世界でも類例がありませんでした。
錦帯橋は全長約200mです。
つまり、1ス パンは約40mとなりました。
基本的な構想から架橋の実施まで、実に10年近くの歳月がたっていました。
この間、頭で考えるだけでなく、実験と改良を行っているようです。
橋台・橋体はそれぞれどんな構造が最も良いかについても相当に調べ上げています。
特に、錦帯橋創建の前年である1672年には、児玉九郎右衛門は長崎に行かせて情報収集に当たらせています。
さらに、架橋の見通しがつくと、吉川広嘉氏は関係者を集めて何度も討議を行います。
その結果、精密な計画が立てられました。
橋台・橋体の設計が仕上がった後、1673年に架橋に着手しますが、まず、木造アーチの桁と梁の部分の組立を、横山の蓼原で予行しています。
そして、梅雨明けの6月28日に橋台の起工式を行うと、驚くべきことにわずか3ケ月で完成させています。
なぜこれほどまでに短期間で完成できたのか？
1.木材や石材の事前調達
2.木造部分や石垣の組立て予行
3.4橋台の同時施工
4.5橋体の同時施工
5.橋専門大工の養成
6.設計・施工技術のWBS
などが挙げられるのではないかと思います。
ところが、建設の翌1674年5月28日に発生した洪水により、錦帯橋はまさかの流失という事態を招きます。
中央の橋台2基が破壊され、3連続アーチが落橋し流れてしまったのです。
吉川広嘉氏がこの程度の災難で悲願を諦めるはずはありません。
早速、原因解明を急ぎます。
そして、橋台事態の構造的欠陥によるものではなく、川床を固めていた敷石に不備があったことを解明します。
橋台周囲の敷石が、洪水により端部から剥離・流亡し、続いて橋台の根入れ部が洗掘されて淵を形成したことに伴い、橋台の石垣が底部から陥没したのでした。
原因が明らかになると、即座に吉川広嘉氏は再建を命じます。
6月になり、水が引くと、橋台2基を築き直します。
それとともに、川床の全面に大石を敷いて、橋台周囲の洗掘防止対策を入念に施したようです。
再建された錦帯橋は、以後276年間機能を損なうことなく使われたと伝えられています。
今回は、色々と書きたいことが山盛りで、何から書き始めようか迷うほどです。
まずは、吉川広嘉氏の総合技術監理能力ですね。
錦帯橋架設をプロジェクトとして掌握している洞察力。
そして、何よりも論理的な意思決定と行動力に優れています。
ビジョンの確かさと俯瞰的な視点。
WBSとPDCAによる実現可能性の確かさの追求。
どれ一つとってもヤマトには不足するものばかりです。
こんなトップがいる組織は強靱でしょうねぇ。
今回のブログは、本当は児玉九郎右衛門氏をタイトルにまとめようと考えてスタートしたのですが、調べれば調べるほど、吉川広嘉氏の凄さが際だってしまうことになりました。
そこで、方針を変更したというのが真相です。
ヤマトの「土木技術者列伝」は、実際に汗をかいた方をクローズ・アップすることを主眼としています。
ですから、お山の大将はどうでも良いのですが、今回の吉川広嘉氏だけはそうはいきませんでした。
吉川広嘉氏が現代の日本をご覧になったら、何とおっしゃるのでしょうか？
人のために尽くすことを忘れ、自らの利と欲のみで生きている人間の多さに呆れ果てるのではないでしょうか？
「土木技術者列伝」では、善良で有能な技術者の方々を心から応援するために、ますますヒート・アップさせていきたいと考えています。
不正・不義の輩がどれほど跋扈しようとも、われわれは自らが信じた志を高く掲げて、信念を曲げず、将来のために尽力する心を忘れないようにしましょう！
最後は、少し力みが入りました。
【参考URL】
○『錦帯橋のアーチ形状に関する基礎的研究』と題して松塚展門が日本建築学会で発表
○錦帯橋
○岩国城と錦帯橋
○世界に誇る木組技法を駆使した錦帯橋
○そりのある形、巧みの魔術
○岩国の錦帯橋
○日本の名橋・錦帯橋
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土木技術者列伝(34)バルトン（広島県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
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特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
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さて、今回は広島県を訪ねてみました。
そして、ご紹介させて頂きます方は
バルトン氏(イギリス)
です。
今回の現場は、牛田浄水場・旧濾過井上屋です。
デルタ地帯（三角洲）に生まれた街・広島は、井戸を掘っても塩水が上がるため、良質な地下水が少なく、人々のほとんどは川の水をそのまま飲み水にしていました。
しかし、明治時代になると、この水が伝染病の原因となり、コレラや赤痢が発生して猛威をふるいました。
また、広島藩の時代から、何度も大火災が起こり、人々は水に対して大変な苦労をしていました。
明治27年に日清戦争が起こると、大本営が広島市に置かれ、政治・軍事の中心となったため、多くの軍人らが集まり、水需要が増加し良質な水の必要性がさらに大きくなりました。
このような経過を辿り、人々の待ち望んだ水道布設が決定しました。
しかし、当時はまだ水道技術が未成熟で、国内には水道技術者が存在しませんでした。
この当時、全国でも横浜、函館、長崎、大阪にしか水道施設は整っていなかった時代です。
明治17年、ロンドンで開催された万国衛生博覧会に参加した内務省衛生局長 永井久一郎（永井荷風の父）の要請により、明治20年5月来日し、工科大学の衛生工学担当講師となり、また翌年から内務省衛生局顧問技師でもあったのが、英国人技師W.K.バルトン氏でした。
そこで、広島市はW.K.バルトン氏の指導を仰ぐことにしたのです。
市民水道の工事は、軍用水道の工事と同時に行われ、明治31年８月12日に完成しました。
下の写真は、牛田浄水場の旧濾過井上屋で、W.K.バルトン氏が設計なさったものだそうです。
広島市の水道は、天皇の勅令により軍用の水道という形で実現することになりました。
いくら軍の事業とはいっても、水道の布設のために勅令が出るということは、いまだかつて例を見ないことでした。
W.K.バルトン氏は、教育者としてもまれにみる資質の持ち主でした。
学理のみに流されないよう、常に地域性重視の姿勢の重要性を説いたそうです。
1894（明治27）年にW.K.バルトン氏は、「都市の給水と水道施設の建設」というタイトルの専門書を発刊しています。
1898（明治31）年に2版が出ているそうですから、当時としてはかなり読まれた本だったのでしょう。
英語で書かれてはいますが、当時の学生たちは、この本を教科書として使ったそうです。重要なことは、この本の中には随所に日本の都市の実例が挿入されていることです。
こうしたところからも、W.K.バルトン氏の地域性重視の姿勢が読み取れます。
上水道に関するW.K.バルトン氏の技術思想は、厳格な細菌汚染阻止を何よりも優先しておられたようで、万難を排して、清浄な水源の確保を図ろうとする決意は並々ならぬものだったようです。
W.K.バルトン氏の業績は、上水道だけに止まらず、下水道にも及んでいます。
W.K.バルトン氏にとっては、人間生活における「水」を取り巻く衛生管理は大変重要であったものと推察されます。
W.K.バルトン氏が考えた下水道は、雑排水だけを対象にしたものでした。
これは、雨水に汚水を混ぜると、全体が汚水に変わるという考え方に基づいたものでした。
したがって、し尿は原則として汚水管に流させなかったと言います。
現代の下水処理技術からすれば、とても考えられない処理方針ですが、当時の下水処理技術の稚拙さを正当に評価すれば当然の結論だったと言えるでしょう。
地域性を尊重し、決して実現不可能な無理な提案はしなかったW.K.バルトン氏の技術思想を象徴するお話と言えます。
ここで、話題は転換します。
W.K.バルトン氏の業績がさらに二つあります。
一つは、日本写真会創設で、もう一つは、「凌雲閣（浅草十二階）」の設計です。
前者は、1891（明治24）年10月28日に発生した濃尾大震災における根尾谷の大断層写真の撮影を顕著な業績として挙げることができるでしょう。
後者は、言葉よりも実物の方が良いでしょう。
明治23年10月完成した「凌雲閣」は、10階までが八角形の総レンガ造り、11・12階が木造の塔でした。
1896（明治29）年8月W.K.バルトン氏は、後藤新平氏の強い要請を入れて、一番弟子の浜野弥四郎氏を帯同して台湾に渡ります。
当時の台湾は、悪疫島と恐れられていたそうですが、二人の献身的な活動によって、やがてその汚名は拭い去られていったと言います。
浜野氏は、W.K.バルトン氏没後20年に当たる1919（大正8）年に台北の水道水源地構内に師W.K.バルトン氏の胸像を建てて、その業績を次のように称えたそうです。
「自己の天職を尽くして之を全うするもの、直に是れ生命の悠久を保持する所以なり」
師に捧げる言葉に、自らの決意があります。
この言葉を読んだ時、「技術」とは高い精神性に支えられたものだということを改めて強く感じました。
抽象ではない、具体的な高い目的を実現するために、自らに言い聞かせるものを持たない技術者は、世に貢献する資格は無い。
とも、思いました。
卑しくも「士」と名の付く資格を有して、その資格の名の下に仕事を行う者は、「士」の名に恥じない仕事ぶりを発揮するのは当然のことです。
偉大な先人の業績に触れる度、そうした意を強くするのはヤマトだけでしょうか？
「士」とは武士。
この覚悟で自らの目的に向かって邁進したいと思いました。
【参考URL】
○W.K.バルトン
○広島市水道の歴史
○牛田浄水場 旧濾過井上屋
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土木技術者列伝(35)ムルデル（岡山県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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さて、今回は我が町岡山県です。
どなたをご紹介させて頂こうかと。。。悩むほどには知らないのが現実なのですが。。。
今回はなかなか登場しないなぁ。。。と思われていたであろうこの方をご紹介させて頂きます。
ムルデル(オランダ) 氏
です。
そして、現場は児島湾干拓です。
上の写真は、現在の児島湖及び周辺干拓地の様子です。
江戸時代以前、岡山城主・宇喜多秀家は、積極的に新田開発を行いました。
1584年（天正12年）千原九右衛門に命じて、現在の倉敷市東部から早島にかけて干潟の干拓が行われました。
この時築いたのが、宇喜多堤（うきたつづみ）と言われる全長3.5kmに及ぶ堤防でした。
この他にも、灌漑用水として大井手を補強したり、新たに八か郷用水を開いたのもこの頃です。
江戸時代になると、ますます新田開発に力を注ぐようになります。
近世の新田干拓をみると、全国で1,804件の開発が行われています。
そのうち、岡山県では266件となっていて、他を圧倒しています。
因みに、新田開発のうち、藩自らが行うものを「藩営新田」、幕府が行うものを「公儀新田」、民間人によるものを「民営新田」と言うそうです。
「民営新田」はさらに分類されていて、戦国時代に武士だった人が農民にもどって開発したものを「土豪開発新田」、町人によるものを「町人請負新田」、村単位 で請け負ったものを「村請新田」と言ったそうです。
何だか歴史の授業みたいになってしまいました。
やがて、江戸幕府が倒れ、明治維新を迎えます。
これにより武士は禄を失い、仕事を失ってしまったのです。
明治以降の新田開発は、こうしたリストラ武士の救済色が濃くなるのです。
こうした状況を背景として、明治10年代、旧岡山藩家老を中心とする士族らが岡山県庁へ次々と新田開発の許可申請をします。
1880（明治13）年、県庁職員生本傅九郎の意見を取り入れ、それらをまとめて開発しようと考えた県令高崎五六は、内務省雇工師ムルデル氏の意見を求めることになったのでした。
翌1881（明治14）年、ムルデル氏が児島湾の視察にやって来ます。
ムルデル氏は緻密な調査を行い、児島湾の干拓が可能なこと、そして岡山にとって有益であることを主張するムルデル工師の「児島湾開墾復命書」をまとめ、内務省に提出したそうです。
この復命書では、児島湾が大変精度高く分析してあり、干拓工事に大きな影響を与えました。
そして、この報告書が以後の児島湾干拓の出発点となりました。
ムルデル氏は、川の源流から河口まで、すべてのつながりを大切にする考え方で、干拓の地だけでなく、それぞれの川もくまなく見て歩きました。
そして「樹木すでに伐採せられ、もしくは株根のみわずかに存し、または全く禿裸したる山」にとても驚いたと言われます。
このころの土砂流出は特に激しく、旭川河口部の堆積量は年間で約15cmにもなったという記録が残されています。
こうした事態を憂慮したムルデル氏は、森林伐採を禁止し、木を植えることの意義を訴え、土砂崩れや洪水への対策を呼びかけたと言われます。
児島湾干拓事業は、国家プロジェクトとしての開始が期待されましたが、許可が下りず、民間開発として行わざるをえませんでした。
ここで登場するのが、大阪の資本家、藤田傳三郎(ﾌｼﾞﾀﾃﾞﾝｻﾞﾌﾞﾛｳ)氏です。
しかし、工事着手までには幾多の苦難があったようです。
ムルデル氏の復命書提出から工事着手まで、実に20年近くの時が必要でした。
試験的に従来の方法で堤防を建設した時の様子を『松陰本山彦一翁伝記』が伝えています。
「約六四間の築堤線の前面に松丸太杭を打ちこみ、竹シガラを揺き、堤心は土を以って築き、前面
は二割、後面は一割五分の傾斜勾配を有する土堤を築かしめた。然るに盛土が六、七分の高さに達するや俄然沈下運動を起こし、僅々三～四時間のうちに堤防全部は泥盤のうちに呑まれてしまった」
試行錯誤を重ねた結果、丈夫な基礎工事を行い、その上に石垣を築き、石灰真砂土のコンクリートなどで空隙を埋める方法にたどりついたと言います。
他にも、暴風雨の影響による堤防決壊、コレラの流行による人夫の集団感染や、堤防の底から内部の水が溢れ出したりと、幾多の困難を乗り越えて、延べ１万数千haを造成した児島湾干拓事業は1911年に完成を迎えます。
ムルデル氏の復命書提出から、実に30年という歳月が流れていました。
ムルデル氏の残されたもので、特徴的なものにケレップ水制群があります。
ケレップ水制と言えば、木曽川が有名ですが、岡山の旭川にも残っているのです。
ケレップ水制とは粗朶（そだ）と石材を組み合わせた治水施設です。
オランダ語で、水跳ねのことを「krib」と言いますが、これが訛って「ケレップ」となったと考えられます。
数々の困難を乗り越えて完成した干拓事業でしたが、用水の確保にはさらに困窮を極めたようです。
特に、児島湾付近では潮の干満に伴う塩水の上昇下降により淡水取水が困難な場面が少なくありませんでした。
そして、これが児島湖の建設へとつながっていくことになるのです。
長い、長い歴史物語です。
今回の主人公をムルデル氏と藤田傳三郎氏のご両名で悩んだのですが、児島湾干拓の基礎を築いたという点で、ムルデル氏をご紹介させて頂きました。
しかし、ヤマトの真意は、実際の干拓事業に関わられた現場の方々のご苦労をご紹介したかったのですが、やはり詳細な記録を繙くことは困難でした。
自らの足下の歴史を知ることは、父母や祖父母などの苦労の上にある自らを知ることに等しく、感謝の念を禁じ得ません。
われわれは、将来に目を転じ、子々孫々が豊かで安全に生活ができるよう可能な努力を、惜しむことなく行わなければなりません。
「誰かがする」とは考えないで、誰もしなくても「自らがする」という思いで、信念を貫いていきたいと思います。
ヤマトにとって、資格とはそのための証だと思っています。
将来、この「土木技術者列伝」に掲載して頂けるような成果を、自らに期して日々研鑽を重ねたいと思う足下の大いなる成果でした。
【参考URL】
○児島湖(お薦め！)
○児島湖及び周辺干拓地
○児島湾の生い立ち
○児島湖
○みんなの児島湖
○旭川
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土木技術者列伝（編集記4） |
ヤマトです。
年末の編集記3以降、快調に飛ばしてきた感のある「土木技術者列伝」ですが、なかなか苦労は絶えませんでした。
まず、どなたにするか。
これを決定するためには、何をなさったかに着目しなければなりません。
有名な施設には、色々な背景情報が多数ありますが、どなたが中心的に関与なさったのか、そしてどのようなご苦労があったのか、本当に知りたい情報はなかなか無いものです。
そして、マンネリを避けなければなりません。
われわれの現場は、千差万別。
人の顔ぐらいに異なります。
常々ヤマトが現場で考えることは、アインシュタインの理論です。
「特殊相対性理論」と「一般相対性理論」(これはあくまで比喩ですが。。。)
現場固有の問題は何かにまず着目します。
そして、その解決策が、他の現場と共通した問題だと考えられる部分に及ぼす影響は何かを考えます。
特殊性の把握とその影響範囲と言えるでしょう。
言わばスクリーニングとスコーピングですね。
そうした範囲からこぼれた領域が、一般問題として残るのですが、これとて本当に一般論で良いのかどうかをしっかり吟味する姿勢を残しておかなければなりません。
余談ながら、平素から考えている自らのアイデアを試すのは、特殊領域問題において行うことにしています。
話が逸れました。（毎度のことですが。。。）
継続して「土木技術者列伝」をお読み下さっていらっしゃる方は、既にお気づきだと思います。
最近のヤマトのコメントに対する姿勢が変化したことを。
「土木技術者列伝」は、そもそも昨今の土木界を取り巻くネガティブな環境を打ち砕くため、先人の偉業を繙き、勇気と自信を取り戻すことを狙いとして開始しました。
しかし、その後においても談合問題や耐震偽装の問題は後を絶たず、悔しいを通り越して、情けない気持ちで一杯なのです。
結果的にそれがコメントに色濃く出てしまうのです。
ものごとに「失敗」はつきものです。
ヤマトは「失敗」を恐れはしません。
これまでも新しい試みにチャレンジし、数限りない「失敗」を繰り返してきました。
人は残念ながら経験したことからしか学べない特性を有しています。
ごく希に経験していないのに、考えの及ぶ方がいらっしゃいますが。。。
ヤマトは、こういった方を「天才」と呼ぶことにしています。
また脱線です。
「失敗」こそスキルアップの大きなチャンスだと思っているから、「失敗」を恐れないのですが、そこで最も大切なことは「失敗」を失敗と認め、公表することです。
ポジティブな「失敗」は大いにするべきだとヤマトは信じて疑いません。
「土木技術者列伝」は、いよいよ佳境を迎えます。
本州を離れ、四国・九州へと移動していきます。
どんな方が出てくるか？
単なる事例紹介に陥らないよう気をつけながら、ヤマトのスパイスを効かせた「土木技術者列伝」を心がけたいと思います。
皆さま方の応援が、何よりの力です。
と、言ってブログ・ランキングなどといったものは全く興味のないヤマトですから、どこかをクリックして下さい。
などと書くつもりは毛頭ございません。
まして、そんなリンクを貼るつもりもありません。（あるのかもしませんが、やり方が分からないだけという話もあります）
日本全国の建設分野に関与なさっていらっしゃる技術者の皆さ～ん！
決して下を向いてはダメですよぉ～！
先人達のご苦労を知れば、われわれはまだまだ恵まれているのですから。
視線を上げて明日とそして遠い将来に思いを巡らして下さい！
ネガティブな環境の時にこそ、真の人間力は試されるのですから。
「土木技術者列伝」は、若干の休憩を挟ませていただいて、再び怒濤のアップを期して参ります。
ご期待下さいませｍ(__)ｍ
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土木技術者列伝(37)松江豊寿（徳島県） |
ヤマトです。
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今回は徳島県を訪ねてみました。
ご紹介させて頂く方は
松江豊寿(ﾏﾂｴﾄﾖﾋｻ) 氏
です。
エッ！？と思われた方は流石です！
1914年、第一次世界大戦で日本軍は、ドイツの極東根拠地であった中国の青島（ﾁﾝﾀｵ）を攻略しました。
その結果、ドイツ兵4,700人を捕虜として送還し、日本各地にある収容所に収められる事となります。
厳しい待遇が当然な収容所の中で、奇跡の様な収容所が徳島にありました。
板東俘虜収容所の所長を務める会津人の松江豊寿氏は、陸軍の上層部の意志に背いてまでも、捕虜達の人権を遵守し、寛容な待遇をさせたそうです。
捕虜達は、パンを焼く事も、新聞を印刷する事も、楽器を演奏する事も、さらにはビールを飲む事さえ許されました。
また、言語・習慣・文化の異なる地域住民の暖かさに触れ、収容所生活の中で、生きる喜びをみいだして行ったそうです。
そして、休戦条約に調印し、大ドイツ帝国は崩壊します。
自由を宣告された捕虜達は、松江豊寿氏や所員、そして地域住民に感謝を込めて、日本で初めてベートーベン作曲『交響曲第九番 歓喜の歌』を演奏する事に挑戦したのでした。
上記の記述は、映画『バルトの楽園』のストーリーです。
「土木技術者列伝」らしからぬオープニングですよね。
さて、今回の現場は、ドイツ橋とドイツめがね橋です。
鳴門市大麻町JR坂東駅の北側に、四国霊場一番札所竺和山霊山寺があります。
この山門の西側を北へ約１kmほど進むと、県立自然公園の大麻山の山すそに約千八百年の歴史を誇る大麻比古神社の拝殿に行き着きます。
さらに本殿に沿って歩いていくと、細い山道に差しかかり、そこを左に折れると、附石柱と呼ばれる高さ約50cmの標柱に漢字、ひらがな、ドイツ語で橋名が刻まれています。
標柱の横、小さな谷を跨いで石造りの小橋が架かっています。
この橋が、第一次世界大戦（1914－1919）で、捕虜となり大麻町桧の坂東俘虜収容所に収容されていたドイツ軍兵士達が造った石造りのアーチ橋でドイツ橋と呼ばれている橋です。近くの池にも「めがね橋」が架けられています。
いずれも完成は1919年（大正8年）6月と言われています。
これらの橋は、ドイツ人が帰国を前に記念として残したものと言われています。
捕虜の中に橋梁の技術を持った人がいたと推定され、ドイツ人の技術レベルの高さをうかがい知ることができます。
ドイツ橋の橋長は約6m、幅1.5mで谷川を跨ぐアーチ空間は、支間2m、高さ3mで、近くで採れる和泉砂岩を20cmから30cm角に仕上げて積み重ね、アーチ部分は楔形にした角材でせりを持たせた精巧な出来ばえと言えるでしょう。
今回は、土木技術者としてのご苦労という視点ではなく、それを引き出した人的資源管理能力とでも言いうる事例としてピックアップさせて頂きました。
もしも、松江豊寿氏がいらっしゃらなかったなら、ドイツ橋やドイツめがね橋は存在しなかったでしょうし、また、こうした形式の橋が普及・発展することも無かったかもしれません。
技術者の能力を引き出す能力は、インセンティブと簡単に表現できるものではありません。
そこには心と心のコミュニケーションが必ず存在したはずです。
今、技術以前の問題が、大きな影響を社会に及ぼしています。
どれほど優秀で、高い技術力を保有していても、思想性が低ければ、社会の理解を得ることはできません。
いえ、むしろそれは罪悪かもしれません。
経済合理性や効率性だけでしか評価測定できない技術者は、真の技術者とは言えず、心のこもった「もてなし」の心の無い施設しか作れないのではないかと、ヤマトは思います。
社会資本は、言わば、一般の方々をお迎えする場と考えることができるのではないかと思うのです。
使用してくださる方の中には、身体に障害を抱えていらっしゃる方もいらっしゃるでしょうし、やっと歩き始めた幼児もいらっしゃるでしょう。
また、ご高齢にして歩くのがなかなか困難な方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、どのような条件下の方々にも、社会資本機能をお使いいただくための配慮は当然為されるべきであって、それがユニバーサル・デザインの基本精神だろうと思うのです。
技術士として「高等の専門的応用能力」を発揮するためには、高い精神性に裏付けられた技術思想がより大切であることを、教えられる松江豊寿氏のエピソードだと言えるのではないでしょうか。
【参考URL】
○松江豊寿
○ドイツ橋
○徳島を楽しむ
○ドイツ橋とめがね橋
○めがね橋／ドイツ橋
○阿波の橋図鑑（ドイツ橋）
○板東俘虜収容所
○ドイツ橋
●ばんどうドイツ橋（動画）
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土木技術者列伝(38)野中兼山（高知県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
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土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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今回は高知県を訪ねてみました。
ご紹介させて頂く方は
野中兼山(ﾉﾅｶｹﾝｻﾞﾝ) 氏
です。
今回の現場は手結港です。
土佐と言えば、山内一豊。『功名が辻』ですね。
『功名が辻』の作者、司馬遼太郎氏は野中兼山氏のことを次のように書いていらっしゃいます。
『江戸期、土佐藩は“政治は土佐”と言われ、他藩から一目置かれる存在だった。
この評判の一つには、野中兼山の三十年に亘る政治とその実績があったことは否定できない。
兼山以前の土佐は、人々が自然に耕し、自然に漁りする山河であるにすぎなかった。
兼山はこれを政治の力で改変した。
農業土木により新田三千町歩を得た。
新田開発に携わった人々の内、1,000人を郷士に取り立て、長宗我部氏の遺臣達のガス抜きをいくらか行った。
兼山施政三十年の間に行った用水工事は、物部川流域7ヶ所、仁淀川流域4ヶ所、吉野川流域7ヶ所、四万十川流域3ヶ所、松田川流域1ヶ所と、その実行力は驚嘆に値する。』
このように土佐藩にとって重要な役割を果たした野中兼山氏ですが、今回ご紹介させて頂く港湾事業でも手腕を大いに発揮されています。
手結港は、河口にある岩盤の入り江を掘削して整備した掘込式港湾の先駆けともいえるものでした。
同時期に行われた津呂港の工事延べ人数36万5,000人に比べれば、手結港の工事は比較的容易でした。
但し、漂砂が堆積する傾向にあったため、湾口に防砂堤と突堤を設けたようです。
ところが、1873年（明治6年）高知県は改修工事に際して、漁船の出入りに邪魔であるとの理由から、野中兼山氏が築いた防砂堤と突堤を縮小してしまいます。
野中兼山氏は次のように言っていたそうです。
「後世、もしもこれを破壊すれば、港はたちまち埋まってしまうだろう」と。
先人の貴重な遺訓が守られなかったため、やがて手結港は、野中兼山氏の予言どおり堆砂の影響により港湾機能を喪失してしまいます。
港湾機能の復活は、1915年（大正4年）の県による大改修工事の結果によってのことでした。
野中兼山氏は、海南朱子学に傾倒していました。
この思想は、「人類の生活は、自然に依存して成り立つことを前提としているが、人間は自然の秩序に従いながらもそれを開発することによって自然と調和し、われわれが自然を改良することにこそ人間としての意義がある」というものでした。
野中兼山氏ご自身がお書きになった『室戸湊記』には、次のように書き記されています。
『賢君の其の民を労する所、其の民を逸する所、皆其の道を得たる也。』（名君が領内の建設工事などに領民を動員するのは、領国発展のためであり、それによって領民の生活が安定し向上することは、優れた政治である。）
野中兼山氏はこのように厳しい方であったことは、自らに対しても同様で、起床4時、8時から夕方6時まで公務を執った後、10時まで私用と読書に当て、就寝が12時という毎日だったようです。
そして、「たとえ、百歳まで生きたとしても後世の人々に思い出されるような仕事をしなければ長生きをした甲斐がない」とおっしゃったそうです。
このような野中兼山氏でしたから、反発も大きかったようで、藩内のみならず幕府にも睨まれる存在となり、49歳の短い生涯を土佐山田の幽閉地で閉じました。
あまりにも高い思想と目的が、野中兼山氏を突き動かしていたようです。
もう10年生きていらっしゃったら、おそらく野中兼山氏の名声は海外にまで轟くような存在になっておられたのではないかと思えて仕方ありません。
アクセルとブレーキを一人で行うことは難しいものです。
睡眠時間8時間を得なければ正常な活動が約束できないヤマトとは大違いで、4時間ですって。
大学受験生並みの睡眠時間ですよ。
非常に高いインセンティブを自ら掲げて、そこに向かうモチベーションの原動力は郷土愛だったのではないかと思いますが、いかがでしょうか？
野中兼山氏の手結港にける予言は、まさに総監的ではありませんか。
俯瞰し総合的に問題を捉えているからこそ言い切れる言葉だと思います。
様々なフェーズに潜在するハザードを特定しながら、その影響度合いと対策を秤にかけながら、優先課題を実施する。
そして、どこにどのようなリスクが潜在しているのかを情報伝達する。
リスクマネジメントのノウハウがたっぷり詰め込まれたお話ですね。
東の横綱を上杉鷹山氏とするならば、西の横綱は野中兼山氏ではないかと思うのですが、いかがでしょうか？
我が町の熊山蕃山氏も大した人物なのですが。。。
このようなことを思うのは、やはり、山本勘助、竹中半兵衛、黒田官兵衛などが好きな影響なのでしょうか？
などと全く話が逸れてしまいました。
手結港を改修したときに、現代の技術者が震撼したと言います。
しかし、この内容は残念ながら詳細が取得できていません。
わかり次第アップさせていただきたいと思います。
【参考URL】
○野中兼山
○手結港
○江戸の情緒漂う歴史港（動画）
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土木技術者列伝(39)足立重信（愛媛県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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今回は愛媛県を訪ねてみました。
ご紹介させて頂く方は
足立重信（ｱﾀﾞﾁｼｹﾞﾉﾌﾞ）氏
です。
そして、今回の現場は重信川
そうなんです。
個人のお名前が付けられた川です。
全国でも珍しいと言われています。
その昔、伊予川と呼ばれていた重信川は、急流で運び出す土砂量も多く、その歴史は氾濫の歴史でした。
重信川の流路変遷をみると、傍若無人な暴れぶりが良く分かります。
現在までの調査研究によりますと、約８００年前から５５０年前までの第一期、約５５０年前から４００年前の第二期、そして約４００年前から３００年前の第三期と、重信川は何回も大きく流れを変えてきたと言われています。
「賤ヶ岳七本槍」の一人でありながら、徳川時代にも生き延びた加藤嘉明。
家康から伊予松木城を領したのは1595年（文禄４年）。
移ってきた城のすぐ南には伊予川の河口があった。
毎年雨の時期には堤防が無い両岸から洪水があふれ、流域一帯の田畑や家屋が押し流される惨状を目にして、ただちに普請奉行であった足立重信氏に、「伊予川の氾濫を防ぎ、要害に備え、城下町の繁栄を促し、近在の田畑の灌漑に活用できるように改修せよ」と命じます。
この命を受けた足立重信氏が、精密な現地踏査の上で下した判断は、大規模な伊予川の築堤によって流路を定めることでした。
約8kmにわたって流路を改め、堤防を築くという大工事は、当時の人々が想像も出来なかった、霞堤や鎌投（直角に岩石を組んだ小さな堰堤を築き、水勢を弱める仕組み）などという水制工法を用いて進められました。
特に、松前城の手前で屈曲する伊予川の流れを抑えるために考案された水制工は、秀逸と評価されています。
そして、次に着手したのが、石手川の改修工事と松山城の築城です。
それまでの居城である松木城は、海岸沿いにあり、風波の被害が頻繁で、決して居城とするに相応しい場所にはありませんでした。
新たな白の候補地となった勝山は、その南麓を石手川が流れており、水害の多い地でした。
足立重信氏は、伊予川の経験を生かし、流路の変更を行い、改修した伊予川へ合流させる計画を練ります。
この転流工事での最難関は、岩堰と呼ばれる箇所の巨大岩石の開削でした。
これを切り崩さないと、南へルートを変更することが出来なかったからです。
足立重信氏は、このため新工法の開発に着手しますが、ノミと槌による方法以外に画期的な工法開発はできなかったと言います。
そして、「岩一升に、米一升」というインセンティブを現場作業員に与えます。
すると、それまで遅々として進まなかった現場が、驚くほどのスピードを確保したと言います。
松山城の築城工事には様々な逸話が生まれているそうです。
松山城の築城工事に取りかかった足立重信氏は、まちづくりに住民の力を結集させるという手腕を発揮します。
近隣の農民を総動員したリレー方式により、瓦運搬はわずか１日で終わらせ、魚売りの行商を行う「売魚婦（おたた）」を荷物と小砂の運搬に活用することで効率よく築城が進められていったと言います。
自ら指揮を執り、時には新技術を披露し、時には地域の将来像を語りながら住民の熱意を盛り上げて築城作業は進められたそうです。
地域の人々が、目を見張る新たな技術で伊予川を治めた足立重信氏の功績は長く讃えられ、人々は伊予川を重信川と呼ぶようになったと伝えられています。
単に、洪水被害を減少させたり、それを利用して新田開発を行ったというだけで、一般の方々が、このような賞賛を与えるでしょうか？
ヤマトは決してそうは思いません。
足立重信氏の民衆に対する心が通じたからに他ならないと思うのです。
地位や身分の差を感じさせない、同じ目線の心が民衆をしてそう（伊予川を重信川と改称した）せしめたと思えてなりません。
もちろん、足立重信氏の業績や或いは、その技術の高さは否定するものではありませんし、賞賛に値する成果を残されたと敬意を表することは当然ですが、それ以上に高い志を感じないわけにはいかないのです。
総監の勉強を再開したところですが、今回の足立重信氏のエピソードから、改めて高い精神性を持たない技術の空しさを逆に感じることとなりました。
技術体系としての総監だけで満足することなく、実践としての総監技術習得を心がけて、今年こそは何が何でも総監奪取！
でなければ、目的へのアプローチがさらにまた遅れてしまいますし、「土木技術者列伝」へ名を残すためのプロセスにも支障をきたしてしまいます。
足立重信氏のエピソードをもう一つご紹介して終わりにします。
松山城を築城する予定だった勝山は、赤土がムキだしの殺風景な地だったそうです。
足立重信氏は、山に餌を撒いて小鳥を呼び寄せ、小鳥の糞に混じった木の実によって自然な緑化を果たそうと考えられました。
今では、松山城は、緑濃い深山の中にたたずんでいます。
【参考URL】
○川に名を残す足立重信
○重信川
○川を造り替えた男 足立重信
○川に名を残す普請奉行
○重信川
○命舞う 野鳥の楽園（動画）
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土木技術者列伝(40)阿部美樹志（福岡県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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ついに九州地方へ上陸です！！！
って、何だか台風みたいですね
今回は福岡県を訪ねてみました。
ご紹介させて頂く方は
阿部美樹志 (ｱﾍﾞﾐｷｼ) 氏
です。
そして、今回の現場は名島川橋梁です。
名島川橋梁は、福岡市東区名島に1923年（大正12年）完成した橋長211.8mのRC充腹アーチ形式の橋梁です。
アーチのスパンこそ小さいですが、延長が210mにも及ぶ橋梁で、この時代に架けられた例は他にはありません。
アーチ環上部に施したアーチを強調する突起や、スパンドレル（庇の天井などに用いられる、金属製の外装板。１０cm前後の幅の板を並べて張ったものが多い。上下に重なる窓と窓の間の壁の部分の金属製の外装板）部に設けられた三角飾りなどは、秀逸な意匠であると言われています。
この名島川橋梁の設計者が、阿部美樹志氏です。
1883年（明治16年）岩手県一関に生まれ、札幌農学校土木工学科に学び、わが国の鉄筋コンクリート工学の開祖といわれる工学博士です。
1911年（明治44年）には、農商務省海外練習生、鉄道海外研究生として、アメリカのイリノイ大学の大学院に学び、卒業論文「鉄筋コンクリート造剛接加工の理論と実験に関する研究」でドクトル・オブ・フィロソフィーの学位を受けられました。
帰国後は初の鉄筋コンクリート高架鉄道を東京に完成させ、関東大震災では、同博士の設計した建築物に一つも被害が出なかったと言われています。
地震国ニッポンでコンクリート構造物を設計し、永く使用するためには何に留意すべきか、十分理解なさっていた証拠だと言えるでしょう。
今、耐震偽装に関する事件が社会に大きなインパクトを与えています。
良い機会ですから、ここで耐震性能について少し考えてみましょう。
但し、鋼構造・コンクリート分野の専門家では無いヤマトが書くことですから、専門家の皆さん、どうか修正・訂正を宜しくお願いいたします。
建物は大地震で被害を受けますが、地震で建物が被害を受けるのではなくて、地震で地盤が震害を受け、その影響が建物に及ぶとまずは考えるべきです。
地震は地盤という媒体の中を通って、建物に到達するのですから当然ですよね。
激震においては、地盤が一瞬激しくうねります。
このため、建物が基礎から吹き飛ばされたり、股裂きになって一挙に破壊されてしまいます。
筋交いやアンカーボルトで土台を基礎に緊結せよと盛んに言われますが、これでは殆ど効果が無いと言っても良いと思います。
日本の伝統建築では、地固めを特に重視しました。
薬師寺や唐招提寺などの基礎部分の地盤は元々軟弱なのですが、地面を掘り込んで丁寧に地盤を突き固めています。
このような硬い人工地盤に建設したことによって、過去の大地震にも耐えたと言われています。
上部の建物の耐震性能ばかりが問題視されますが、実は地盤の検討を伴わない建物だけの耐震性能確保は、極論になりますが、何の意味も無いと言って良いかもしれません。
構造補強よりも、実は地盤対策の方が遥かに重要だと言えるとヤマトは考えています。
それが証拠に、兵庫県南部地震において、ＲＣ造で全く無被害で残った確率の高さは、実は戦災を受けた古い建築の方だったという事実には驚かされます。
特殊な建物を除くと、一般建物の耐震設計技術は昭和初期、80年前には既に完成していたと言われます。
つまり10階建て位までのビルは、戦前の市街地建築物法の時代に完璧な耐震化が果たされていたことが、兵庫県南部地震によって証明されたと言えるのです。
ところが、なぜか、このような戦前建物は危険であると言われます。
本当に不思議なことです。
耐震性に問題を抱えているのは戦前の歴史建造物にではなく、実は戦後の新しいビルなのです。
さらにもう一つ。
激震でもまったく無被害の建物の中で、重要なのは公団型壁式住宅です。
これらは、基本的には戦災復興住宅です。
終戦後の耐乏困窮時代に構造の神様といわれ、旧建設省（戦災復興院）を創設された阿部美樹志氏によって基本設計されたものなのです。
大変な経済的設計にも拘わらず、過去の地震でも被害が出たという履歴はありません。
阿部美樹志氏は極めて厳格で、無駄のない合理的な設計で知られており、材料は人より３割は少なかったと言われます。
このため、阿部“みきし”ではなく、“みわり（三割）”とも言われたそうです。
肝心なことは、構造設計や施工に知恵があるか無いかだと言えるでしょう。
創意工夫すれば頑丈な建物を経済的に作れるはずなのです。
非常に回りくどい阿部美樹志氏の人物紹介になってしまいましたが、同氏に関する資料がなかなか見つからないため、やむを得ずヤマトがストーリーを作りました。
間違った点はあるかもしれませんが、決してウソを書いたつもりはありません。
話を戻します。
阿部美樹志氏が設計なさった名島川橋梁に隣接して、名島橋が国道3号線を繋いでいます。
名島橋は、1933年（昭和８年）に完成した橋長204.1mの鉄筋コンクリートアーチ橋です。
この橋は、かなり有名ですが、まじまじ眺めることは少ないかもしれません。
実は、福岡国際マラソンのコースの中に位置するのです。
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実に優雅です。
名島川橋梁に比べれば、センスが違いますね。
これは、阿部美樹志氏の設計ではありません。
しかし、名島橋の設計に名島川橋梁の設計が大きな影響を与えたことは否定できないでしょう。
色々な視点で先人達の偉業を眺めれば、眺めるほど、現代のわれわれは何をやっているんだという自戒の念に駆られます。
本質を見極める眼。
真に求められる目的と機能。
そして、何より一度造ったからには、千年は有効に機能させるぞという気概があります。
「技術」とは、そうした意思を実現する武器なのです。
先人の偉業に触れ、自らの小ささをその都度実感していますが、だからこそ真の技術者を目指して高みを極める覚悟が必要であることを、ヤマトは心に刻み込んでいます。
「土木技術者列伝」をシリーズでお届けさせて頂いていますが、そのことでヤマト自身も成長させて頂いている実感を感じます。
お読み下さる皆さまにもそうであることを願って止みません。
【参考URL】
○川面に映える多径間アーチ橋
○名島川橋梁
○鐵筋混凝土の耐震價値と施工法
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土木技術者列伝(41)成富兵庫茂安（佐賀県） |
ヤマトです
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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今回は佐賀県を訪ねてみました。
今回は治水の神様をご紹介させて頂きます。
ご紹介させて頂く方は
成富兵庫茂安（ﾅﾘﾄﾞﾐﾋｮｳｺﾞｼｹﾞﾔｽ）氏
です。
今回の現場は石井樋です。
石井樋は約400年前、当時頻繁に断水と干ばつに襲われていた佐賀城下の水道用水や佐賀平野の農業用水の確保を目的として、佐賀市大和町の嘉瀬川に築造された日本最古の取水施設です。
この構造的特徴を文章で説明するのは後にして、ともかく次の模式図をご覧下さい。
どこまでアプローチできるか分かりませんが、石井樋他の取水システムの理解を深めてみましょう。
石井樋は、佐賀城下にきれいな飲み水を安定的に供給することを目的としていました。
もともと嘉瀬川は砂の多い河川です。
このため、石井樋はいかにしてきれいな飲み水を佐賀城下に送るかに苦心し、水理上の色々な仕掛けが施されています。
大井手堰は水の流れを受け止め流れを変え、天狗の鼻・象の鼻で水の流れを緩やかにし土砂を沈ませ、石井樋に導く役目をします。
石井樋は、洪水の勢いから多布施川の堤防が決壊しないように三門にして水量を調節、余分な水は嘉瀬川に流す役目をします。
その他にも、二重堤（小さな堤防を本堤防の前に造って本堤防を守ったもの）や水防林（洪水の勢いが直接堤防に当たらないよう植えられた木々）、遊水地（洪水を一時的に貯めるポケット）を配置するなど、治水的な仕掛けも沢山造り、嘉瀬川本堤を守りました。
天狗の鼻、石井樋などの遺構は現在も現地に残っています。
上記三枚の写真は、上から順に「発掘された石井樋」「発掘された大井手堰」「発掘された天狗の鼻」です。
そして、ご覧下さい。
「ふるさとの 水の流れを ふたたび明日へ」をテーマに、国土交通省が中心となり進めてきた「石井樋地区歴史的水辺整備事業」の一環で整備された復元された石井樋や「さが水ものがたり館」にある石井樋の模型や実験設備です。
発掘され残存していた、水の流れを変えるための「象の鼻」「天狗の鼻」などは修復して、そのままの形で利用されたそうです。
成富兵庫茂安氏の業績は、石井樋だけではありません。
下図をご覧下さい。
上図の赤丸が、成富兵庫茂安氏の関わった施設だそうです。
１：千栗の堤防（筑後川） ２：蛤水道（田手川） ３：石井樋（多布施川） ４：波佐間水道（多久川） ５：永池の堤（北方町） ６：桃の川水路（松浦川）
成富兵庫茂安氏の手による井樋（水の出入口）、堤（水を貯める施設）、堤防、水路などは、大小すべて併せると100カ所以上にのぼり、現在もなお健在で利用されているものが多いと言われます。
成富兵庫茂安氏の思想の一面が理解できる事例をご紹介しましょう。
東西12kmに及ぶ１：千栗堤防の堤防工事は、内と外の二枚構造となっています。
その間は広い所では200mにも及んでいます。
普段は無税の畑地として農民に解放され、洪水が起きると広大な遊水地になって外への氾濫を防ぐ役目を果たすというしかけです。
水が引けばさらに肥沃になった土地が残るというわけです。
高い堤防を一枚だけ築いて無理に水を押し止めようとしても、一度破れると走り出した水の力は破壊的です。
巨大な洪水の力に力で抵抗するのではなく、遊水地により水の力を徐々に発散される考え方です。
「水を走らせず、自然に遊ぶように流す発想」が、成富兵庫茂安氏の基本姿勢にありました。
千栗堤防の工期は実に12年も要しています。
しかし、これは作業にかり出される農民の負担を軽くするためでした。
第一、城代家老の成富兵庫茂安氏自身が作業小屋に寝泊りしながら率先して現場で働いたそうです。
現場の信頼どころか、民衆の心が集まらないはずがありません。
このような成富兵庫茂安氏が残した言葉があります。
「石井樋、掛け替えるな」
住民達はこの言葉にしたがって、毎年春には総出で川浚えをしながら石井樋を守ってきたそうです。
石井樋もそれに応えて三百数十年の間、嘉瀬川の流れを制御していました。
ところが、現代になってコンクリート材料のための度を過ぎた川砂採取の影響で、河床低下が著しくなり、ついには水門まで水を上げられなくなり、水源としての機能が果たせなくなってしまったそうです。
治水の神様と称せられる一端をご紹介させて頂きました。
成富兵庫茂安氏に関する記事は、日経コンストラクション2006年2月10日号「地域で生きる設計術」で存じていましたが、ここまでの巨人だとは思いませんでした。
鍋島直茂の家臣であった三千数百石取りの成富兵庫茂安氏を、加藤清正はなんと一万石でヘッドハンティングしようとしたと言います。
また、豊臣秀吉の朝鮮出兵では、五千石以上の大身の侍たちが、成富兵庫茂安氏の部下に組み入れられたとも伝えられています。
こういう方が現代にいらっしゃれば、教わることは山のようにあったでしょうね。
石井樋にしても、いきなり成功したとは思えません。
発想の原点がどこかにあって、それを実験などにより確かめながら、理論を組み立てて最終的に実現を果たされたのだと思います。
その間には、途方もない試行錯誤がきっとあっただろうと思います。
現場にしっかりと足をおろして、しかも地の利を上手く利用した成富兵庫茂安氏の発想力と行動力は、感動ものです。
治水の神様として、未だに人々の記憶の中にはっきりと残り、そして尊敬の念が耐えない成富兵庫茂安氏。
わずかな情報からだけでも、成富兵庫茂安氏の器の大きさが、器の小さなヤマトにさえ理解できます。
必ずや何時の日か、成富兵庫茂安氏の業績をこの目で見てみたい。
そんな気持ちにさせられるお話でした。
【参考URL】
○神様と呼ばれる武士
○治水の神様
○石井樋
○日本最古の取水施設「石井樋」復元
○石井樋
○400年前の取水施設
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土木技術者列伝(42)鉄川与助（長崎県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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今回は長崎県を訪ねてみました。
異国情緒溢れる長崎県。
このため外国人をご紹介することになるという先入観は吹き飛びました。
ご紹介させて頂く方は
鉄川与助（ﾃﾂｶﾜﾖｽｹ）氏
です。
今回の現場は敢えて特定せず、天主堂とさせて頂きます。
まずは作品をご覧下さい。
↑青砂ケ浦天主堂
↑頭ケ島天主堂
著作権の関係からリンク先の画像を、ヤマトのブログには転載いたしておりませんので、皆さまもどうかご配意下さい。
青砂ケ浦天主堂と頭ケ浦天主堂は、共に国指定の重要文化財で、鉄川与助氏の手によるものです。
鉄川与助氏は、四代続いた大工の家に生まれます。
几帳面で学問好き。
体を動かすことを惜しまない。
加えてひどく筋がよかったと言われています。
十七歳ですでに普通の家をきちんと建てるだけの腕前を持っていたくらいだ。
腕の良い大工だったからこそ、風変わりな教会の建築が面白くてたまらなかったようです。
曽根に続いて福江島の堂崎天主堂、中通島の鯛ノ浦天主堂の建築にも加わります。
「楽しかったでしょうね。当時外国からきた神父さんといえば、手品のような新知識を持った技術者。教わることは多かったはずです」と語るのは与助の孫の鉄川進さん。
1907年（明治40年）に完成した中通島の冷水天主堂では、28歳の鉄川与助氏は初めて棟梁として設計も担当しました。
野崎島の野首天主堂、中通島の青砂ケ浦天主堂など、棟梁・鉄川与助氏の名は次第に上がっていきましたが、常に謙虚で研究熱心でした。
そんなとき出会ったのが、マルコ・マリ・ド・ロ神父です。
日本の信者たちへの献身的な愛情の深さと、多方面の才能に基づく啓蒙活動で死後数十年を経過する現在も「ド・ロ様」と慕われるこのフランス人神父は、とりわけ建築の方面に秀でていたようです。
彼は鉄川与助氏を「テツ」と呼び、愛弟子としていくつもの現場に伴ったそうです。
「ド・ロ様によって建築家としての目が開かれた」と後に鉄川与助氏が語るほど、師弟の間は密接だったようです。
しかし神父は作業場でのケガがもとで世を去ってしまいます。
臨終を見守る鉄川与助氏に師は言葉を残します。
「お前の心が正しければ十分やっていける。しっかりやれ」と
鉄川与助氏が建てた天主堂は、一つとして同じものがないと言われます。
ある工法でどこかの天主堂を建築したら、次には必ずその工法を発展させるか、別の工法への挑戦をしています。
以前の作をそのまま引き写す安易な道は絶対に選んでいません。
高等小学校しか出ていない鉄川与助氏は、日本建築学会主催の講習会には欠かさず上京して参加し、会場の受付担当者からは「いつも一番乗りの長崎の人」と顔を覚えられる熱心さだったようです。
微積分も独学で修め、帝大出のエリートたちに交じって29歳で同学会の会員に推挙されます。
いつ寝るのだろうか、と周囲が不思議がるほど努力を重ねた鉄川与助氏は、こうした勉学をベースに、さまざまなスタイルの天主堂を造り出していったのです。
棟梁として初めて設計した冷水天主堂は木造でしたが、翌年に完成した野首天主堂は美しい赤レンガ造りでした。
さらに、十年ほど後には、現地で切り出した石を積んで重厚な味わいの頭ケ島天主堂を建て、関東大震災でレンガ造りの建物が倒壊したと知ると、当時の最新の工法である鉄筋コンクリートへといち早くスタンスを移します。
構造材の変化に合わせて、全体の印象を左右する塔の高さや窓の形などももちろん考慮していたようです。
バラエティに富んでいたのは外観だけではありません。
信者が祈りを捧げる大切な内部の空間にも工夫は凝らされています。
石造りで大型の西洋の教会は、天井の重さを支えるリブ・ヴォールト（コウモリ天井）方式が一般的です。
横壁から天井の中心に向かって幾本もの支え壁が伸び、荘厳な雰囲気を醸す効果もあります。
鉄川与助氏も神父から教えられたこの形態でいくつもの天主堂を建てています。
一方、日本の天井は、西洋に比べて軽いので素材は幅広く選べます。
竹や木、漆喰……。
建物によってさまざまな高さに架け分けられるほどリブ天井に習熟した鉄川与助氏でしたが、さらにある時期からは全く異なる折り上げ天井方式も使うようになります。
一見簡素ですが、低い建物にも広く明るい空間を生む構造が創れます。
合理性と創造性の融合を求めて次々と新しい挑戦を重ねていった鉄川与助氏は、技術者の自由な精神を持ち続けました。
仏教徒である鉄川与助氏が、師と仰ぐド・ロ神父から改宗を勧められても、頑なに拒んだ理由の一つはここにあると考えられています。
代々のキリシタン宗徒が持つ細やかで濃密な人間関係を尊重はしても、その中にドップリ身を浸すことは鉄川与助氏には躊躇われたのではないかと思います。
天主堂の依頼主の大半が貧しい信者だったことから、少しでも彼らの経済的な負担が軽くなるよう棟梁として常に知恵を絞っていたと言われています。
鉄川与助氏は、「信者が生活を切り詰めて集めた浄財で建てる天主堂だから、頑丈で美しいものでなくては」が口ぐせだったと言います。
長崎の旧浦上天主堂が被爆した時、塔のドームは爆風で飛ばされて川に落ちたそうですが、原形を保ち、流れを堰き止めて撤去は難航したそうです。
このドームを造ったのが鉄川与助氏でした。
鉄川与助氏のものつくりの確かさがうかがえるエピソードと言えます。
「仕事に厳しい。手抜きは一番の敵。調子のいい人間が大嫌い」と鉄川与助氏を知る人々は口をそろえて、「与助は頑固なまでに仕事に関しては妥協しなかった」と言います。
ド・ロ神父が改宗を勧めた裏には、一部の信者の「異教徒には任せられない」という突き上げもあったようです。
天主堂建築の仕事をスムースに受注するには改宗した方が良いという判断が、鉄川与助氏への改宗だったとも言われます。
しかし、「調子の良い人間が大嫌い」な鉄川与助氏には、そうした計算ずくの改宗は耐えられなかったのではないかとも言われています。
「本当の信仰はそんなもんじゃない。仕事は仕事で見てくれ。自信がある」という意地が、鉄川与助氏に改宗をさせなかったとも考えられています。
鉄川与助氏が改宗しなかった理由は、自由な精神性にあるのか、意地にあるのか、仏教徒としての筋を通すことにあるのかは謎です。
しかし、鉄川与助氏が建てた天主堂の多くは、今もその土地の景観に溶け込んで、やがて風景となり、遠い将来には風土となっていくことでしょう。
今回の鉄川与助氏は建築系ですが、ヤマトの描きたい土木技術者列伝の対象とは、こうした方なのです。
技術者の意地を秘めながらも、使用してくださる方の立場に立ったものづくりを行う。
そして、時代の変化に臨機応変にそのスタンスを変化させながらも、首尾一貫した技術者哲学が明確である。
これぞまさにヤマトの理想型です。
特に、ヤマトは「職人」が大好きです！
鉄川与助氏の創り出した天主堂は、きっとその場に行けば、鉄川与助氏の意思を語ってくれるのだと思います。
これまでヤマトは、様々な情報をネット上から懸命に収集しようとしてきましたが、実物に対面して得る情報には敵わないことを知りながら、やむを得ず行ってきました。
しかし、「土木技術者列伝」第1期の終了を目前に控えて、現地へ行かなければ真の意味や意図は理解できないと強く思い始めています。
第2期がもしもあるとするならば、現地取材に基づく情報収集は不可欠な要素と言えるでしょう。
しかし、その時は、自らが相当の技量を備えた時でなければならないでしょう。
たかだか技術士程度の資格レベルで止まっていたのでは、相手に対して失礼というものです。
さらにさらに高い領域へ続くスパイラルアップのエンドレスな道のりを、一歩一歩確かに踏み固めながら歩んで行かなければならないと、思わせて下さる鉄川与助氏の技術者魂でした。
【参考URL】
○おじいちゃんが建てた教会 ←お孫さんのＨＰ
○鉄川与助
○鉄川与助
○教会堂棟梁 鉄川与助
○西海に天主堂を建て続けた棟梁
○匠どもが物語
○天主堂
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土木技術者列伝(43)小野安夫（大分県）Part1 |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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今回は大分県を訪ねてみました。
ご紹介させて頂く方は
小野安夫 (ｵﾉﾔｽｵ) 氏
です。
そして、今回の現場はヤマトのお気に入り。
ダムの貴婦人とも言われる白水ダムです。
まずは、ご覧下さい。
竹田市の山奥にある白水(ﾊｸｽｲ)溜池堰堤水利施設、通称「白水ダム」は、昭和13年に、農業用水を配水する「富士緒井路（ﾌｼﾞｵｲﾛ）」の水不足対策のために建築されたもので、豊後大野市や竹田市の田畑を潤しています。
その水が流れ落ちる様は、まるで１枚の真っ白な布が風で翻るような美しさです。
堰堤の右岸と左岸では水の表情が全く違います。
右岸から流れる水は、曲面を滑り「武者返し」のように身を翻すと、直角に向きを変えて、ダイナミックに流れ落ちていきます。
一方、左岸の水は幾筋も弧を描きながら、半円状の階段に集まると、そこからはドレスの裾のように広がって落ちていきます。
動と静、左右のデザインの相違は、予測した必然よりもなお美しいと言えるのではないでしょうか？
この画像は皆さまの中にもご覧になった方が多いのではないかと思います。
そうです。焼酎のCMで使われていました。（決して酒造ﾒｰｶｰの回し者ではありません！）
こんなダムを一体どのような人が何を考えて造ったのでしょうか？
それでは眺めていきましょう。
この地方の水不足は深刻で、昔から水争いの絶えない地域だったそうです。
そのため、早くから水路の開発が進み、1914年（大正3年）には、大野川の源流に取水口を設けた「富士緒井路(ﾌｼﾞｵｲﾛ)」が通水しています。
しかし、この画期的な井路も、度重なる水路の故障に加え、同じ川を取水口とする別の井路とのトラブルから、安定した用水の確保が急がれていました。
1938年(昭和13年)、こうした経緯から白水ダムは誕生しました。
計画から7年、着工から4年半を費やしたと言われます。
総工費は21万円。
日雇い労働者の賃金が1円58銭という時代です。
それほど潤沢な予算とは言えませんが、泥沼化する日中戦争に、国家総動員法が施行された年でしたから、着工当時は不景気で人手もあり、まだ土木資材も確保できたことが幸いしたのではないでしょうか。
築堤には現場で採れる阿蘇溶結凝灰岩を切り出し、レンガ状に加工して積み上げる工法が採用されました。
積み石の隙間にはコンクリートが使用されていますが、ほぼ石造りといってよいダムです。
実は、美しい水流も、この石造りという素材が生み出した演出なのです。
白水ダムを手掛けたのが、今回ご紹介させて頂く、大分県の農業土木技手（後に技師）であった小野安夫氏です。
ひと昔前の土木技師は、現代のような単なる技術屋ではありません。
仕事の内容にも依りますが、計画から地質調査、設計や工事費の積算はもちろん、現場監督までこなすプロジェクト・マネージャー兼プレーヤーでした。
特に、このダムは、豊後石工たちの技の粋を集めたものでした。
小野安夫氏のもとには、腕のよい職人が鹿児島からも駆けつけたと言います。
当時の現場を伝える写真からは、そんな石工たちの誇りが読みとれます。
さらに、ボーリング風景や竣工時の様子など、工事過程の一つひとつが、貴重な写真資料として残されているそうです。
「これだけは捨ててくれるな」。
小野安夫氏は、自分が撮影した白水ダムの工事写真を最期まで大切にしていたと、次女の河野敦子さんはおっしゃいます。
また、「父は白水ダムをシラミズ、シラミズと呼んでいました。難工事だったと聞いていますから、特別な思いがあったのでしょう」と、長女の貴美恵さんも当時を振り返ります。
生前、多くを語らなかった小野安夫氏だそうですが、シラミズについては、幾つかの思い出話を貴美恵さんに残したと言います。
「地盤が弱い所でしたから、馘を覚悟で工事に当たったようです。補強のために、切り出した石を堤体の内側に詰めるなど、丁寧な仕事を心掛けたと言っていました」
農業高校を卒業するとすぐに、県庁に就職した小野安夫氏は、やがて東京農業大学や電気通信大学で土木、数学を学び、技手として県の農業土木に携わったそうです。
白水ダムは、そんな才能あふれる若きエンジニアに任された一大プロジェクトだったのです。
しかし、弱い地質に難工事を強いられます。
ダム計画地一帯は、阿蘇山の噴火によって積もった、地元の人が「灰土」と呼ぶ弱い地盤が広がっていました。
普通のダムのように、水を直接水路に落下させて流すと、弱い地盤は破壊の畏れがあります。
そこで、小野安夫氏は、様々な工夫を凝らします。
堤の表面には、近くの山から切り出した数万個にも及ぶ凝灰岩を積み上げ、凹凸のある構造にしています。
特に、堰堤の中央部には目の粗い切石を意図的に積み上げて、落下に伴うエネルギーの減殺に配慮したように見受けられます。
その結果、流れ落ちる水を泡立たせる効果を得て、上に示したような見事な景観を演出しています。
また、堰堤が左右非対称形になっているのも、この地盤の悪さを補強するものだったと言われています。
岩盤の弱さをカバーするため、底壁や側壁にかかる水の圧力を何とか抑えようと緻密な計算を行い、左岸は階段状落下方式、右岸は武者返し方式として落下エネルギーの低減に配慮なさっておられます。
これによって地盤が保護されると共に、｢転波]と呼ばれる美しい水流の形が生まれています。
右岸の壁は、ねじれたカ－ブになっていて、遊園地のウォ－タ－・コ－スタ－のように水が回りながら滑り落ちていくようになっています。
左岸は、円形の階段状に擁壁で固められ、その上を水が順番に下りていきながら、水頭ロスを徐々に発生する仕組みになっています。
しかも、中央部、左右岩部それぞれ下流の水叩き部への進入方向が異なりますから、複雑な跳水が発生し莫大なエネルギーロスが発生する結果となります。
このため、下流水路への負担は、相当に低減されるものと考えられます。
これらの技法によって、全体的に独特な流水美を生み出し、まことに芸術的な景観を形成しています。
そして、白水ダムは今でも写真どおりの見事な流れを形成しつつ、現役で活躍しているようです。
普通の技術者は、造ろうとするモノにしか目が行かないものです。
仮に目を向けたとしても、それは本体構造に与える影響を考える場合に限定されるのが通常だと思います。
ところが、白水ダムにおいては、本体構造とダムからの落下水脈並びに下流への影響までもすべてワンセットにして考えているところが凄いと言えます。
これぞまさにプロジェクト・マネージャーの仕事です。
首をかけて行うだけの価値は十分あったと思いますが、当事者としては相当な覚悟が必要であったことは理解できます。
これが国家プロジェクトであれば、コスト管理はさほど重視されないかもしれませんが、今回のケースではそうはいかなかったでしょう。
そのような制約条件下において、これだけの発想を実現なさった小野安夫氏には完全に脱帽です。
しかも、理想と現実にさほど大きな乖離が無かったであろうことも驚くばかりです。
絵心があったと言われる小野安夫氏ですが、緻密さにおいても一級品と言える成果を残されました。
われわれ現代の技術者は、今回のケースから何を学び、そしてどのように活かしていくべきなのでしょうか？
それは、各自異なるでしょうが、少なくともイメージの大切さは心に刻むべきでしょう。
それは景観という視点だけではなく、将来の地域計画や社会構造などあらゆるフェーズについて言えることだと思います。
そして、それを支える技術とは、数字に弄ばれたものではない、本物の技術が必要なのだと思います。
先人の偉大なる業績は、われわれに無言の内に様々な知見を示して下さっています。
われわれは、幸いにして聞こうとする姿勢を持ちさえすれば良いのです。
この「土木技術者列伝」が、皆さまにとってそのきっかけにでもなれば幸いです。
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土木技術者列伝(43)小野安夫（大分県）Part2 |
[ 土木技術者列伝
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参考URL だけが文字数オーバーとなって書き切れませんでしたので、Part2として記載させて頂きます。
いくらヤマトのお気に入りのダムだからと言って、他の方々と区別した訳ではありませんので、その点だけはどうかご理解をお願い致します。
【参考URL】
○富士緒井路の白水ダム
○白水ダム物語
○白水溜池堰堤水利施設
○白水ダム
○白水溜池堰堤
○日本一美しいダム
○美しいダム
○白水ダム（縦断方向）パノラマ写真
○白水ダム（横断方向）パノラマ写真
○白水ダム（写真）
○白水溜池堰堤（パノラマ）
○白水ダム（動画）
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土木技術者列伝(44)増田淳（宮崎県）Part1 |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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今回は宮崎県を訪ねてみました。
今回は天才と称せられた方をご紹介させて頂きます。
ご紹介させて頂く方は
増田淳（ﾏｽﾀﾞｼﾞｭﾝ）氏
です。
現場は美々津(ﾐﾐﾂ)橋
現在国道10号線が通る美々津大橋の800ｍ上流に位置する県道51号に架かる現役の橋梁が美々津橋です。
一見するとよく見かける普通の橋ですが、1934年（昭和9年）3月に竣工したこの美々津橋は、70有余年の歴史を保つ橋であり、また宮崎県近代化の大きな役目を担い、さらに土木史上からも高い価値が認められていると言います。
美々津橋の長さは168ｍ、現存するスパンドレルブレースド・アーチ橋としては、国内で最も古いものの一つです。
設計は天才橋梁設計技術者と言われる増田淳氏です。
この美々津橋ができるまでは、官営の渡し舟が耳川を渡る唯一の交通手段であり、当時の幹線道であった国道3号線は耳川によって寸断されていました。
そのため美々津橋の竣工は県民の悲願でもあり、昭和9年の竣工式には県知事を初め2,000人が出席して祝ったと言われます。
上路アーチ橋の一形式で路面とアーチとの間の部分をスパンドレルといい、スパンドレルをトラス構造にしたものをスパンドレルブレースド・アーチ橋と言います。
スパンドレルブレースド・アーチ橋は、アーチ部分と補鋼桁の間をブレースで斜めにトラス結合させた形状によって、荷重の偏載などによる水平変位が少なくなる特長を持った構造形式だと言われています。
つまり、アーチリブを持たないトラス構造のアーチによってアーチ作用の働きをさせる橋梁の構造形式で、足場のつくりにくい深い渓谷に適した橋梁の構造形式と言えるでしょう。
ついでに、アーチ橋の原理をここで繙いておきましょう。
アーチ橋は、弓なりのアーチ状の部材（アーチリブ）を用いて荷重を伝達する「アーチ機構」により、橋としての機能を有するものです。
すなわち、上図上段に示すように、外部より作用する荷重が、アーチ部材において圧縮力に変換され両端の支点へ伝達されます。
一般的な桁橋（上図下段）では「曲げ」によるたわみが発生し、主桁内部では大きな圧縮応力と引張応力が発生するのに対し、アーチ橋ではほぼ断面内に一様な圧縮応力のみが発生するに止まります。
したがって、アーチ橋はその構造特性から、桁橋と比較して以下のような特徴を持っています。
●剛性が高い
・曲げが発生しにくく、たわみ挙動が小さい。
●断面効率に優れる
・同じ支間であれば、より小さな断面（薄い部材）での架橋が可能である。
・同じ断面性能であれば、より長大な支間の架橋を可能とする。
・圧縮力が卓越するため、石材のような不連続な材料でも構築できる。
●水平反力の発生
・アーチ橋に荷重が作用すると、アーチ部材が外に開こうとする挙動を示し、支点部には水 平方向の力が発生する。
・長大なアーチ橋では、この水平力も大きなものとなるため、強固な基礎を設けるか、タイ ドアーチ形式とする必要がある。
このような特徴があるため、古来から石材を用いたアーチ橋が数多く構築されてきたのですね。
特に、九州地方には著名な石橋が数多く残されています。
アーチ橋には、アーチ部材の他に路面を確保するための部材を設けますが、この部材に剛性を持たせ、アーチ部材と力を分担し合って橋梁を構成する形式があります。
これを補剛アーチ橋と呼び、剛性を持たせた部材を補剛桁と呼びます。
補剛アーチ橋は大別して二つに分類されます。
補剛桁とアーチ部材の双方で曲げモーメントを分担するローゼ橋と補剛桁が曲げモーメント、アーチ部材が圧縮力のみを分担するランガー橋です。
これ以上の詳細につきましては橋梁工学分野にどんどん入っていってしまいますので、【参考URL】のアーチ橋 をご参照下さい。
話を元に戻します。
増田淳氏は、近代日本に誕生した事実上最初の「橋のプロフェッショナル」の一人であり、日本における橋梁コンサルタントの先駆けでもありました。
ちょうど、日本全国で橋梁の架け替えが盛んになった頃でしたから、橋梁新時代のまさに中心的役割を担ったのでした。
増田淳氏は、明治40年東京帝国大学土木工学科を卒業と同時に、アメリカ行きを志し、翌41年にはカンザスの土を踏んでいます。
増田淳氏は、カンザス市の著名な橋梁設計技術者ヘドリックのもとに身を寄せ、以後14年にわたってアメリカに留まり、多くの橋の設計を手がけることになります。
その数は30橋にも及んだと言いますから、ヘドリックの信頼の篤さが窺えます。
増田淳氏がアメリカでの修業を終えて帰国し、橋梁設計事務所を開いたのは、大正11年初頭のことです。
当時地方において、橋を設計できる専門の技師の不在は大きな悩みの種でした。
多くの府県では、鉄道省や内務省から経験者を呼んできて設計を依頼していたようです。したがって、橋梁技術の最先端を誇るアメリカで多くの実績を残し、卓越した経験と実力を有する増田淳氏の帰国は、当時の橋梁界にとってまさに天佑ともいうべきものでした。
増田淳氏はまず、長野と兵庫両県の嘱託技師の任に就き、橋梁改築の設計業務に携わることになります。
そして、その後10余年の間、全国各地を飛びまわって55橋にも及ぶ膨大な量の設計をこなし、千住大橋、白髭橋や穴吹橋、吉野川橋など、のちに名橋と謳われる橋の数々を生み出すことになるのです。
増田淳氏が設計した橋について驚かされるのは、形式の多様さです。
当時国内ではあまり前例のなかった新しい形のトラスやアーチをはじめとして、吊橋や可動橋に至るまで、増田淳氏は最新の構造を自由自在に使いこなす、まさに達人のようであったと言われます。
厳しいコスト制約条件の下、単純で洗練された技術を的確に用いて、景観に調和させながらも力強い構造体を多彩かつ大胆に表現してゆくその力量は、当時並外れた域に達していたとさえ言われます。
ところが、増田淳氏は、昭和7年を境に、その足跡をたどれなくなります。
いつまで事務所を続けたのかも不明ですが、その頃軍靴の音が高まりつつあった日本で、橋梁エンジニアたちが存分に腕を奮うことのできる舞台は、すでに失われつつあったのでした。
こうした増田淳氏の経歴を見た上で、美々津橋を眺めると、増田淳氏の技術者としての晩年の作であることが分かります。
やがて、関東大震災後に開始される復興事業により改築された橋梁群は、単純で剛性の高い構造に橋梁技術の近代性を見いだし、その一方で斬新な構造形式を積極的に表現していこうとするドイツ流の思想が主流となりました。
増田淳氏がこれに加わっていたら、どのような作品を残されたであろうかと想像せずにはいられません。
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土木技術者列伝(44)増田淳（宮崎県）Part2 |
また少し長くなりすぎましたぁ。。。
図を入れすぎた影響です。
特別、増田氏を区別している訳ではありませんので、ご理解をお願い致します。
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増田淳氏の作品を是非ご覧下さい。
本当に、実に多彩です。
わが岡山県にも倉敷市に架かる霞橋があったとは知りませんでした。
見たことはありますし、ユニークな構造形式の橋梁だなぁとは思っていましたが、まさかあれが増田淳氏の作品だったとは。。。
恐れ入りました。
増田淳氏の橋梁には、ある意味形式に対する拘りが感じられません。
増田淳氏の発想の原点は、経済性や品質或いは工期といった視点からはやや異なるところに軸足があったような気がしてなりません。
もちろん、それらを無視したという訳ではありませんが、プライオリティの高さにおいて、それらよりも景観と機能の調和があったのではないでしょうか。
職人とは、発想の美学の中に生きる人々です。
増田淳氏にもそういった雰囲気を感じ取るのはヤマトだけでしょうか？
ヤマトは、決して橋梁専門技術者ではありません。
間違った記述があるかもしれません。
ご専門の方々のコメントを期待したいと思います。
しかし、増田淳氏の作品群が訴えかけてくる存在感は、あらゆるフェーズで活かせそうに思います。
固定観念を打破し、機能重視でアプローチするも良し。
また、景観重視で構造をあとから形成するも良し。
何でも「アリ」だという姿勢は、ヤマトの得意分野ですけど。。。
少し違ったでしょうか？
【参考URL】
○美々津橋
○美々津橋
○美々津橋
○美々津橋
○美々津
○天才橋梁設計技術者
○増田淳氏が設計した橋梁
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土木技術者列伝(45)加藤清正（熊本県）Part1 |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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今回は熊本県を訪ねてみました。
ご紹介させて頂く方は
加藤清正（ｶﾄｳｷﾖﾏｻ）氏
です。
えぇ～っ！？
という声が聞こえてきそうです。
豊臣秀吉の家臣として仕え、各地を転戦して武功を発揮した加藤清正氏は、肥後熊本の領主となります。
秀吉没後は徳川氏の家臣となり、関ヶ原の戦いで武功を挙げて肥後熊本藩主となります。
賤ヶ岳七本槍の一人として数えられる加藤清正氏ですが、智勇兼備の名将としてだけではなく、築城の名手としても有名です。
そして、何よりも土木の神様として知られているのです。
茶臼山に熊本城を築城した後、白川・八池川・緑川・球磨川の四大河川の治水と灌漑を整備し、有明海や八代海の干拓などの事業を次々と行ったそうです。
加藤清正氏が行った土木事業の中に馬場楠井手(ﾊﾞﾊﾞｸｽｲﾃﾞ)があります。
これは、四大河川の一つ、白川中流左岸の馬場楠堰から渡鹿堰までの全長およそ12kmに及ぶ灌漑用の開水路です。
特に、取水堰から1.6km下流にある白川左岸の小高い中州山の中腹は、岩盤を500mに亘って開削しなければならなかったようです。
しかも、その開削深さは20mにも及んだようです。
阿蘇山水系から流れる白川は、火山灰土(ヨナ)や砂礫の堆積が著しい河川です。
このため中州山の奥深くを穿った最深部を流れる用水路は、その堆積土砂の排除に頭を悩ませたそうです。
そして、発案されたのが「鼻ぐり井手」でした。
これは、水の力を利用して土砂の堆積を排除するという、水利史上例を見ない画期的な技法でした。
まずはご覧下さい。
鼻ぐり井手は、表土の下にある阿蘇火山系の溶結凝灰岩の岩盤を掘り下げる際に、4～5ｍの間隔で、幅1ｍ、高さ4ｍの滞留隔壁（鼻ぐり橋）を設け、その下部に直径約2ｍ程度の"かまぼこ型"の奔流孔（鼻ぐり穴）を設けた構造となっています。
築造当時は、滞留隔壁（鼻ぐり橋）が360ｍ区間に80数ケ所設けられていたそうです。
水流に伴う土砂は、80数ケ所の滞留隔壁（鼻ぐり橋）による区画の中で渦巻く水と共に、底の鼻ぐり穴より一気に抜けて押し流されます。
こうして80数ケ所を次々と抜けた土砂は、岩盤水路内に堆積することなく浚渫の容易な場所まで輸送される仕組みです。
水の性質を見極め、そして、実に上手く利用した驚くべき知恵であると言えるでしょう。
以下に、実験結果があります。
滞留隔壁（鼻ぐり橋）の下部中央に穿孔を持つ現況のTYPE Aとそれ以外に、過去に存在したとされる二種類の滞留隔壁（鼻ぐり橋）、即ち現況の穿孔側壁を下方へ拡孔して穿孔面積を広げたTYPE Bと穿孔位置を水路に沿って交互に配置したTYPE Cそれぞれについて、土砂の掃流機能、流れの構造、通水機能を調べたそうです。
TypeA
TypeB
TypeC
その結果、以下のことが分かったそうです。
1.滞留隔壁（鼻ぐり橋）間の主流速分布は、二次元壁面噴流と類似の下流に凸型の形状となった。TYPE Aの掃流力は、隔壁のない水路より10倍程度高く、TYPE Bでは、TYPE
Aの3分の1程度にまで低下したが、TYPE Cでは、TYPE Aよりやや小さい程度であった。
2.TYPE Aでは、主流は穿孔から噴流状態で流出し、拡散しないうちに下流の隔壁に到達する。よって、噴流の主流速は隔壁設置区間でほとんど低下しない。TYPE Bの流況は、TYPE Aとほぼ同様であるが、縮流による流速の増加は小さくなる。TYPE Cでは、穿孔から流出した流れは噴流状態にあるが、直進した流れが下流側の隔壁に衝突して強い上昇流が生じるので、らせん状の複雑な流れが作り出される。
3.鼻ぐり井手の通水機能は、高い方からTYPE B、TYPE
A、TYPE Cの順になった。また、現況の水位条件に基づき、各タイプの隔壁を流下可能な用水量を算定すると、TYPE BはTYPE Aの2倍以上、TYPE CはTYPE Aの半分程度になった。
4.鼻ぐり井手は、隔壁の縮流効果によって水路底部の流速が高く維持され、通常の開水路に比べて、土砂が溜まりにくい構造となっている。ただし、土砂の掃流機能が強化される反面、隔壁の流水抵抗によって通水機能が低下する。
滞留隔壁（鼻ぐり橋）間の主流速分布
(a)TypeA(b)滞留隔壁（鼻ぐり橋）の無い通常の開水路
加藤清正氏が改易された後の領主の時代に、鼻ぐり井手の機能に疎い役人の手によって一部が破壊され、さらに経年劣化を受けて、現在では26基が現存しているだけと言います。
そして、現存する26基も老朽化には逆らえず、崩壊の危機に瀕していると言われています。
そこで、こうした事態を憂慮した熊本県は、地域を代表的する歴史的土地改良施設である通潤橋と鼻ぐり井手を、地域用水環境整備事業（歴史的施設保全型）により、施設機能の維持・向上及び安全性確保のための補強工事を実施しているそうです。
水理学などは勿論存在しなかった時代に発想された施設です。
何か材料を使って作るというのではなく、自然の地盤を利用してこのように高度な機能を有する施設を、どのようにして思いついたのか不思議でなりません。
発想力に驚嘆してしまいます。
ヤマトもある急流水路で、渦をわざと発生させてエネルギーロスを発生させようとしたことがあります。
しかし、水量が安定しない水路では、渦の発生は常時発生させることができなかった経験があります。
もっとも、このケースでは、渦を形成することが目的ではなく、エネルギーロスを発生させることが第一義的な目的でしたから、所定の成果は得ました。
おっと、余談でした。
上記に示したとおり、滞留隔壁（鼻ぐり橋）は、様々な形式のものが存在したという点にも驚きます。
土砂掃流力と流量のトレードオフが必ず発生しますから、それを現場の各ポイントで判断したのだと思いますが、先の渦同様にたいへん微妙な加減が要求される判断です。
職人技としか言えないような判断だと言えます。
どのようにして判断し、そして実行したのか。
興味は尽きません。
そして、ヤマトの独断です。
この鼻ぐり井手を開水路として見ると、非常に奇異な形態と見えますが、管水路の途中にサージタンクがいくつも設備された施設と見れば、あまり違和感がわきません。
水関係の専門家でも無いヤマトが知ったかぶりをしてはいけません。
さらに詳しいご意見等がございましたら、是非コメントをお寄せ頂きたいと思います。
技術とは、数式ではない。
という典型的な実施事例の一つです。
現代のわれわれは、FEMだのBEM。或いはDDAだと。
コンピュータという武器をフルに使って精度の高い解析を行い、発想の具現化を目指します。
しかし、ともすると数式に弄ばれてはいないでしょうか？
いや、それ以上に大切な何かを見失ってはいないでしょうか？
それが何かは、各自お考え頂きたいと思います。
そいう設問が今年の技術士第二次試験で出題されないとも限りません。
現代は、大量生産・大量消費の思想によって失われた技術の再構築を図るべき時だと勝手に思っています。
どうか物事の本質を見据えて、良質で息の長い社会資本を形成できるようご尽力頂きたいと思います。
偉そうな結びで失礼しました。
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土木技術者列伝(45)加藤清正（熊本県）Part2 |
またまた長くなりすぎて文字数オーバーとなりました。
他の方と区別している訳ではなく、図を多く挿入しすぎた影響です。
悪しからずお願い致しますｍ(__)ｍ
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【参考URL】
○加藤清正
○加藤清正
○土木の神様
○土砂排流400年―鼻ぐり井手―
○「鼻ぐり井手」の堆砂防止メカニズム
○鼻ぐり井手
○「鼻ぐり井手」の堆砂防止機能を探る
○馬場楠井手の鼻ぐり（動画）
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土木技術者列伝(46)野井倉甚兵衛（鹿児島県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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今回は鹿児島県を訪ねてみました。
今回ご紹介させていただく方は
野井倉甚兵衛(ﾉｲｸﾗｼﾞﾝﾍﾞｴ) 氏
です。
現場は野井倉用水。
鹿児島県には広くシラスと呼ばれる特殊土壌が分布しています。
シラス（白砂）とは一般に「白い砂」を意味しますが、地質学的には白色の火山噴出物（細粒の軽石や火山灰など）が堆積した地層をいいます。
土粒子内部を顕微鏡で観察すると無数の気泡が含まれており、そのため軽くて脆く水に流されやすいという性質を持っています。
また、水はけが良すぎる為に稲作には不向きな上に栄養分も乏しいという特徴があります。
鹿児島県大隅半島の曽於郡志布志町と有明町に広がるシラス台地がありました。
やはり上記の土壌特性のため、稲作は困難で、畑で粟や菜種、さつまいも等が主作目となっていました。
人々は何とか稲作をしたいと思いましたが、地盤標高が40～70ｍと近くを流れる菱田川よりも高かったため、用水を導水することができませんでした。
この台地に育った野井倉甚兵衛は、1889年（明治22年）村の人々といっしょに水を引く仕事にとりかかりました。
野井倉甚兵衛氏20歳の時です。
台地へ用水を給水するため、村の人々は、何度も話し合い、台地から13km上流で、台地より少し標高が高い牛ケ迫から水を引くことにしました。
牛ケ迫に水の取り入れ口をつくり、そこから用水路を掘って水を引こうとしたのです。
上図からお分かりのとおり、水路はその9割を34ケ所の隧道トンネルが占め、工事は難航しました。
もちろん、この当時のことですから、水路トンネル掘削のための機械などあろうはずがありません。
すべて人力作業に依存するしかなかったのです。
このため、人々は次第に工事を諦めて脱落していくようになります。
そんな中、1900年（明治33年）に初めて、牛ケ迫の取り入れ口に原始的な粗朶堰（そだぜき）が完成し、用水路やトンネルを経由して用水の通水が可能になりました。
しかし、その結果達成した成果は、わずか3haの水田ができあがっただけでした。
大正5年11月、この粗朶堰を石積堰堤に改築して、1,000haを水田化する計画が建てられました。
ところが、測量技術が稚拙だったため、測量誤差が大きく、水田化できたのはわずか7.5haに過ぎませんでした。
こうした結果、村だけでは開田が進められないと考えた野井倉甚兵衛氏達は、野井倉耕地整理組合を組織し、県や国に働きかけます。
常に交渉ごとの先頭に立ち、自転車にまたがって東奔西走する野井倉甚兵衛氏でしたが、心ない人びとの中傷によって留置場で年を越したり、嫌気がさして鹿児島市に移住したこともあったそうです。
やがて、食糧増産に迫られて事業が前進します。
1941年（昭和16年）、農地開発営団による工事の実施が決定されたのです。
水田520haと畑100haの計画でした。
その後も、戦時下に人と物資をかき集め、終戦後、進駐軍の事業中止指示を無視して、野井倉甚兵衛氏は怯むことなく陳情を続け、工事続行を勝ち取りました。
そして、1949年（昭和24年）に待望の完成を果たすことになります。
野井倉甚兵衛氏が発意してから60年後のことでした。
60年と言えば、人生のすべてです。
今回、野井倉甚兵衛氏をご紹介させていただいたのは、どんなに技術が優れていようと、継続する力を凌駕することはできないと言いたかったからです。
野井倉甚兵衛氏は、本来の土木技術者ではないかもしれません。
しかし、どんな困難に襲われようと逃げることなく立ち向かった精神は、真似のしようがありません。
13kmにも及ぶ水路トンネルをすべて人力作業で実現しようなどとは、まず普通ならば考えません。
その上、さしたる技術も持っていないにも拘わらずです。
まさに「水滴石を穿つ」です。
われわれ土木に携わる人間にとって、現場に困難は常に同居しています。
そして、あらゆる創意工夫を凝らしてその難局を打開していきます。
しかし、時に諦めが支配的になるフェーズがあると思います。
その時に、是非思い出していただきたい事例としてアップさせて頂きました。
不平不満は生きていれば当然起こるものです。
しかし、不平不満は何も解決してくれません。
自ら考え、そして動くことによってのみ解決できるものです。
逆境にこそ光明アリ。
と、ヤマトは常々思っています。
真に求められる機能を追求し続けることだけが、われわれ土木技術者の責務です。
われわれは、そうした偉大な先人達の成果の上で、今を生きさせて頂いているのですから。
説教がましい内容で申し訳ありませんが、これはすべてヤマト自らに発している言葉だとご理解下さい。
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土木技術者列伝(47)蔡温（沖縄県） |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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ついに最後まできましたぁ！
今回は沖縄県です。
今回ご紹介させていただく方は
蔡温(ｻｲｵﾝ) 氏
です。
現場は羽地大川(ﾊﾈｼﾞｵｵｶﾜ)です。
18世紀前半の琉球は、土木の時代でした。
その中心的な存在が、蔡温氏でした。
蔡温氏の思想と技術は、風水地理に依拠していました。
蔡温氏は、三司官という高い地位にあって、国家的な事業を次々と実現していかれました。
墓地・村落・屋敷等の土地利用規制、全琉の河川改修、杣山(ｿﾏﾔﾏ)（材木を保護するために決められた琉球王府直轄の山林）制度の確立、条里制に基づく集落形成、元文検地etcです。
そうした中で、特筆されるのが、羽地大川の改修事業です。
これについては、「羽地大川修補日記」として工事記録が残されているそうです。
日記の始まりは、「1735年旧8月16日晴天、大浦川(当時は、このように呼称されていた)は、毎年多少の水害をおこし、百姓は難儀をしてきた。しかし、この7月の大風雨の被害は甚大で、･･･」
8月20日に首里を出発した蔡温氏を責任者とする一行は、現地へ22日に到着しています。
そして、早速現地調査が始まります。
前記のとおり、蔡温氏の治水論は風水地理論にあり、「順流真秘」論に基づいています。
木火土金水の五行説を基に、それらを形態として解釈し、その相性・相剋の関係を評価して、金形と水形を基準に河川の形態を決めるのだそうです。
そして、これに河川の勾配と幅を組み合わせて、河川の改修工法を設定したそうです。
何だか良く分かりませんねぇ。。。
「順流真秘」の水流湾曲式という図解がありましたから、以下をご覧下さい。
羽地大川の現況は、逆流のところが多く、順流の川筋に改めることが課題だったと言われます。
上流から河口まで山組(ﾔﾏｸﾞﾐ)（山の連なり）が続いていたため、下流の河川周辺における田畑をさばき直せば良いと判断なさったようです。
そして、早速下流域の測量に着手し、26日には現況図面を作り上げています。
しかも、同日中に改修工事の工法と手順を設定しているそうです。
8月28日には縦断計画まで決定し、29日には改修に伴う幅杭設置まですべて完了させています。
また、人的資源の確保について、あっけないほどに試算を行い、延べ20日間で10万人とはじき出されています。
簡単に10万人と言われても、凄い人間数ですが、簡単に手配してしまいます。
そして、9月2日には本格的な工事に着手なさっておられます。
しかも、本工事に要した時間は、11月14日までの凡そ2ヶ月半。
羽地大川改修の総延長は約4.3km、4ケ所に橋梁架設、付帯用水路6.9km他に付帯施設だったそうです。
この羽地大川改修の意義は、以下のとおりだと言われています。
１）国家的事業として国土保全と農業基盤の確保
当地の米づくりは、旧11月に開始されます。そして、米が租税の基礎でした。
その大切な時期に延べ10万人を集めることは、国家戦略に基づく大冒険だったと言えます。
２）土木技術者集団
先に記述しました「順流真秘」論の他に「山林真秘」論があったそうですが、これの是非はともかく、事業企画から事業計画までの迅速さを為し得たのは、蔡温氏の人的資源開発の依るところ大だと言われています。
つまり、平素から技術訓練を部下に課していたことが奏功したそうです。
３）プロジェクトの理論と実践
羽地大川改修工事で得た知見を、翌年から実施された全琉各地の河川改修事業で応用しています。
さらに、杣山調査や元文検地へと続く国家的なプロジェクトを展開しています。
このように蔡温氏の果たされた業績は、特に土木的視点からのアプローチに基づいています。
「土木技術者列伝」の最後を飾るに相応しい方と言えるかもしれません。
何か特定のモノを造られた方という視点ではなく、国家レベルの業績を残された方をと思っていましたから。
それにしても、スピーディーさはこの上ありません！
体系化された技術力無くして、実現不可能な速度です。
しかも、俯瞰的且つ総合的な視点はいかがですか？
総監における5つの管理分野の何と何をトレードオフし、何を優先なさったのでしょうか？
ケース・スタディとしても面白い事例だと思われませんか？
ここで登場した「風水地理学」という言葉は、初めて聞きましたが、興味深いですねぇ。
「風水」って、当たるも八卦当たるぬも八卦の占いか？
と思われがちですが、意外と長い年月の間に蓄積された気候や風土に根ざした根拠ある教えであることが多いのです。
数字ばかりを追っかている方には、とても納得いかないことかもしれませんが、ヤマトは思想的には、「風水地理学」を支持したいタイプです。
今後ゆっくり時間をかけて調べてみたいと思います。
さて昨今、公共事業などでも時間軸の重要性が注目され始めています。
確かに、時間というのはとても重要なファクターであることは確かです。
しかし、それがために画一的な整備方針に陥らないことを願うばかりです。
定性的な課題を定量化して扱えば、確かに理解しやすくなることは事実です。
しかし、その過程が最も重要であることを理解しているのは、定量化に関わった関係者だけです。
アカウンタビリティの思想を重視し、過程を大切にして頂きたいと思います。
また、成果を評価測定することも忘れてはならない重要な要件です。
現代は、蔡温氏のようなトータル・コーディネーターが育ちにくい時代と言えるでしょう。
しかし、われわれは土木界に所属する技術者が、技術を武器に俯瞰的視点に立って、国家そのものを見据えていかなければならないと常々考えています。
先人の偉業に根ざすのは、すべてそうです。
「国家観」無くして、土木技術者とは言えない！
青い炎さんが実践なさろうとしていることは、ある意味まさにこれに合致した活動と言えるかもしれません。
是非とも頑張って頂きたいと、心からエールをお送りいたします。
【参考URL】
○水田を開いた蔡温
○土木技術時代の魁
○琉球王国を代表する政治家・蔡温
○蔡温の功績
○羽地大川の改修
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編集後記 |
ヤマトです。
あれは何がきっかけだったのか？
ついこの間のことではありますが、良く思い出せません。
しかし、この「土木技術者列伝」を、安易にスタートさせたことは間違いありません。
最初は、１都道府県単位で土木技術者一人ぐらいなら何とかなるだろうと考えていたからです。
ところが、しばらくすると、如何にこの考えが浅はかだったのかを思い知ることになります。
探してもなかなかそう簡単には目的に合致した方は見つからず、もがき苦しむことになるのです。
本来の勉強を放ったらかして、ネット上で検索ばかりしていました。
第1期を終えた今、第1回から第47回までの「土木技術者列伝」改めて最初から読み返してみました。
如何に安易にスタートしたかが如実に分かります。
全くの事例紹介文にしかなっていないからです。
恥ずかしくて、削除したくなってしまいましたぁ。
「土木技術者列伝」の目的は、社会的問題を続発し、信用低下が著しい土木界に携わるわれわれが、自信と勇気を回復することにありました。
そのために、モノではなく、「人」に着目し、その背後にある意思や高い思想を読みとろうとしたのです。
さらに言えば、ヤマトの意識の中では、同じ人間、彼らにできて、われわれにできないはずがない。
為せば成る！
という安易さがあったことは間違いありません。
ところが、どうでしょう？
どの方も知れば知るほど、自らの小ささを思い知る結果にしかならないのです。
お読み下さった方々はどのようにお感じになられたかは不明ですが、ブログを書いていたヤマトは、次第に自己嫌悪に落ちていく気がしました。
私のブログは「ヤマトの視点」です。
毎日something newをテーマとしています。
同時に、既存の考え方に拘らない、斬新さをブログの中で表現したいと考えています。
したがって、「土木技術者列伝」においても、対象によってそれぞれ適切な視点が必要だと考えてきました。
しかし、そのことは、対象となった先人の能力を十分に理解しなければならないことを意味していました。
つまり、「土木技術者列伝」を真に異議あるものにするためには、ヤマト自身が高い技術力と思想を持たなければならないということを理解したのは、幸せなことにこのシリーズを終わる間際でした。
もしも、初期にこの点を認識していたら、このシリーズは途中で終わっていた可能性が極めて高かったと言わざるを得ません。
しかし、幸いなことにヤマトの能力が極めて低かったために、こうして最後までこぎつけることができました。
何が幸いするか分からないのが、世の中です。
このため、多くの先人の方々には大変失礼なご紹介の仕方になってしまったような気がして、今更ながら申し訳なく思っています。
そのようなレベルの低いヤマトではありますが、「土木技術者列伝」を書かせて頂いたことで、いくらかスキルアップもできたような気がしています。
今後は先人の偉業に恥じない研鑽を重ねて、土木本来の意義と役割を具現化できるよう精進していきたいと思います。
また、情報を収集しながらも、ご登場頂けなかった方がいらっしゃいます。
そういった方々を、これから不定期にはなりますが、アップさせて頂きたいと考えています。
間違っても、「いつ第２期シリーズが始まるのか？」といったご質問だけはご容赦下さい。
先に記述いたしましたとおり、ヤマトの能力が相当程度向上しなければ、先人の方々に対して失礼ですし、それは、そう簡単には達成できるレベルではありません。
皆さまにとって、この「土木技術者列伝」が幾らかでもお役に立てたならば、幸いです。
そして、皆さまの明日へのインセンティブになったとするならば、この上ない喜びです。
最後に、ヤマトが何とかこうして初期の目的を貫徹できましたのは、偏にお読み下さった皆さま方のインセンティブに依るところが大きいと言えます。
この場をお借りして、心より御礼申し上げます。
どうもありがとうございました。ｍ(_ _)ｍ
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土木技術者列伝（追補1）青山士（新潟県）Part1 |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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再開ではございません。
「土木技術者列伝」の情報収集において、積み残された情報を「追補」としてアップさせて頂こうと考えています。
さて、今回は講座仲間であったrangerさんからご要望のありました新潟県の大河津分水を訪ねてみることにしました。
ご期待に沿えるかどうかはわかりませんが、tryしてみたいと思います。
但し、今回は背景をしっかり掴まえたいと思います。
今回ご紹介させていただきたい方は
青山 士 (ｱｵﾔﾏｱｷﾗ) 氏
ですが、Part1では青山士氏登場前までの大河津分水の歴史を眺めることにします。
かつての大河津分水地点には大河・信濃川が広がっていました。
信濃川は河口付近で阿賀野川と合流し、越後平野の各地には遊水池の役割を果たしていた潟が多数存在したようです。
大河津分水の発想が記録として最初に登場するのは江戸時代です。
寺泊の本間屋数右衛門が江戸幕府に大河津分水建設（当時は大河津堀割と呼称）を請願します。その後も、２代目数右衛門（子）など多くの人物が大河津分水の建設を幕府に訴えましたが、様々な理由で結局大河津分水は建設されませんでした。
江戸時代には着手されなかった大河津分水工事でしたが、明治2年（1869）ついに工事が始まります。
しかし、工事は途中で中止、大河津分水は完成しませんでした。
この明治初期に行われた工事は大正時代の第２次工事に対し「第１次工事」と呼ばれています。
工事の主力は人力であり、また、分水路掘削箇所の一部は地すべりを起こす山地ということもあり、工事は遅々として進みませんでした。
また、明治5年には、工事の負担増に不満を持っていた農民を扇動し、大河津分水反対をかかげた「悌輔（ていすけ）騒動」までもが発生し、工事は一時中断を余儀なくされます。
その後、工事は再開され明治6年11月には通水寸前まで完成しますが、明治8年に通水はせず工事中止となったそうです。
中止の理由は、明治政府から信濃川の調査を命じられたイギリス人技師ブラントンの大河津分水工事反対意見が大きく影響を及ぼしたようです。
ブラントンは、新潟港を貿易港として維持していくためには信濃川の流量を減らしてはならないと報告したのでした。
また、オランダ人技師リンドーは、正確な測量をもとに、水位や勾配、流量の計算などを行い、工費なども勘案して、最終的に現状の河道のまま堤防を修理することを提案して、大河津分水建設に反対したそうです。
このように技術上の判断から第１次工事は中止されたと考えられています。
工事は中止されましたが、大河津分水工事の再興をめざした治水運動は、地域の治水運動家達によって続けられました。
この結果、大河津分水工事そのものは見送られるものの、政府は信濃川の堤防強化の方針を打ち出し、明治19年国は河身工事、県は堤防改築工事をそれぞれ分担して工事が始まります。
こうした折、越後平野史上最大の水害「横田切れ」が発生します。
この大水害を機に、大河津分水の実現をめざす運動が再び大きく盛り上がります。
明治政府は、鉄道整備の進展を背景として、舟運利用を中心とした「低水工事」から氾濫防除を目的とする「高水工事」を開始しようとしていました。
明治29年4月の河川法公布により、大河津分水の開削を軸とした第２次工事への道が開かれるのでした。
明治40年（1907）、政府は大河津分水工事の実現を決定し、42年に起工式が行われ、分水路の掘削と水量調節のための堰の建設に着手します。
分水路の長さは約10ｋｍ、そのうち8ｋｍは平地でしたが、海に近い2ｋｍは高さ100ｍ程の山だったそうです。
掘削土量は約2,900万ｍ3で、ダンプトラックに積むと地球を１周する程の量です。
国内外の大型機械が投入され、延べ1,000万人の労働者が携わったと言われます（当時の新潟県人口は約180万人）。
工事は、規模と難易度から当時“東洋一”とも“東洋のパナマ運河”とも呼ばれたそうです。
そのような最新の設備で順調に進捗するかと思われた工事ですが、海から約1ｋｍ離れた山間部で、同じ箇所（分水路右岸側）が途中2回（分水路通水後に１回）の地すべりを発生したそうです。
規模は1回目が最大で、崩土量は600万ｍ3に及んだそうです。
この付近は地すべり地形のため、掘削しても即座に崩土が発生するため、“化け物丁場”と呼ばれていたそうです。
しかし、幾多の困難を乗り越えて、分水路と共に信濃川下流への水量調節を目的とする「洗堰」「自在堰」「固定堰」の３つの堰と閘門が完成し、大正11年（1922）8月25日洪水を利用して締切堤防が切られ、分水路に初めて水が流れたのです。
この工事は、明治初期の第１次工事に対し、第２次工事（正式名称：信濃川改良工事）と呼ばれています。
ところが、大正11年の通水から5年後の昭和2年6月24日の「自在堰」陥没に伴い、上流からの流入水の大半が分水路へ流れ込み、流水が途絶えた信濃川下流地域は、農業用水、上水道用水をはじめ、舟運などの各方面で大きな災害に直面することとなります。
「自在堰」陥没の原因は、度重なる洪水による堰の基礎部の洗掘に依るものでした。
しかし、洗掘は局部的なものではなく、分水路全体に亘る河床の洗掘が明らかになりました。
「自在堰」陥没後、ただちに応急工事として、信濃川本川への流量を確保するための仮締切り工事が行われます。
同時に、「自在堰」の復旧に向けての調査が始まりますが、「自在堰」の復旧はダメージが大きいことから絶望的となり、昭和2年12月補修工事として、新しい堰である「可動堰」の建設と同時に「固定堰」の改築及び分水路への床止・床固の建設が実施されることになるのです。
長い前段でしたぁ。。。
Part2へ続きます。
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土木技術者列伝(追補1)青山士（新潟県）Part2 |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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今回は新潟県の大河津分水のPart2です。
いよいよご登場なさいますのが
青山 士 (ｱｵﾔﾏｱｷﾗ) 氏
です。
補修工事の最高責任者として、新潟土木出張所長（現在の北陸地方整備局長）に任命された青山士氏は、現場責任者の宮本武之輔と協力し、補修工事の完成に貢献します。
崩壊した「自在堰」が13年の歳月を要したのに対し、新しい「可動堰」はわずか5年で完成させています。
この時、青山士氏は「技術は組織ではなく、人である」と述べておられます。
また、「役人の全人格が、行政の治績に大きく影響する」とも述べられておられます。
さらに、Civil Engineeringを「文化技術」と訳し、この文化技術が社会国家のためにどれだけの役目を為し、どの程度に重要であるかを持論としておられた方でもいらっしゃいました。
昭和6年の竣工報告祭では、「信濃川の水害恐るべし。信濃川の水もって利用すべし。天佑と人の努力とにより其除害と利用の工、今や成る。感謝と感激何物にかたとへんや。」と述べられたそうです。
大河津分水可動堰の右岸に高さ4ｍ、幅4.4ｍの竣工記念碑が建てられています。
その表と裏には以下のような青山士氏の有名な言葉が刻まれています。
「萬象ニ天意ヲ覺ル者ハ幸ナリ」
「人類ノ為メ、國ノ為メ」
しかし、ご本人のお名前は一切刻まれていないということです。
青山士氏は、無教会主義のクリスチャンであった内村鑑三氏の影響を強く受け、私利私欲のためではなく、広く後世の人類の為になるような仕事をしなければならない、という思想を貫いた方でした。
このため、東京帝国大学工学部土木工学科をご卒業後、赴いたパナマ運河開削工事で得た情報について、太平洋戦争中、パナマ運河への攻撃を立案していた海軍から提供を求められますが、断固として拒否なさったそうです。
アメリカにおける外国人排斥運動の影響を受けて、パナマ運河の完成を見ることなく帰国なさった青山士氏は、帰国後、荒川放水路(現在の荒川下流域)の建設工事を指揮します。
荒川と隅田川の分岐点、岩淵水門のそばにある荒川放水路の記念碑には
「此ノ工事ノ完成ニアタリ 多大ナル犠牲ト労役トヲ払ヒタル 我等ノ仲間ヲ記憶セン為ニ
神武天皇紀元二千五百八十年 荒川改修工事ニ従ヘル者ニ依テ」
と、碑文をしたためていらっしゃいますが、やはりご自身のお名前はどこにも見あたりません。
何とも、覚悟が違いますね。
こんな簡単な言葉で表現するのが申し訳ないですが、他に言葉が見あたりません。
まだまだ修行が不足しているヤマトです。
ただ、青山士氏の工事でのご活躍内容の詳細が見つからなかったため、歯切れの悪い内容になってしまいました。
申し訳ありませんｍ(__)ｍ
幾多の困難を乗り越えて為し得た「大河津分水」に関わってこられた多くの技術者の方々に対して、衷心より感謝申し上げたいと思います。
大河津分水工事殉職の碑には、工事に伴い失われた尊い命100名と記載があります。
ご冥福をお祈り申し上げます。
この数字ばかりではなく、おそらくは、記録に残っていないようなご苦労が、山のようにあったであろうことは容易に想像できます。
特に、信濃川改良工事（第2次工事）では、壮絶な自然との闘いが繰り広げられています。
大工事だけあって、資料館まであるようですから、じっくり調べていけば、さらに多くの事実が発見できるだろうと思います。
大河津分水は、都合3回に亘って大規模な工事が行われています。
どれが最も困難かという疑問は、ナンセンスだと思います。
しかし、青山士氏が関わられた3回目について考えると、既設備を可能な限り活かしながら、尚かつ根本的な水害対策を要求されたと考えられます。
予算も工期も当然厳しかったことと推察いたします。
そのような制約条件で雁字搦めにされた工事が、どれほど現場担当者には厳しい要件であるか、皆さまには良くご理解頂けると思います。
当時は、現代と異なり安全管理が十分とは言えなかったはずですから、先に示したとおり多くの人命が損なわれ、多大な人的被害が発生しています。
内村鑑三氏の影響を強く受けたと言われる青山士氏が、どれほどそのことで胸を痛められたか想像に難くありません。
2ヶ所に残された碑文は、青山士氏の苦しみそのものであると共に、鎮魂の詩であると言えるでしょう。
また、同時に現場の作業に従事されたすべての方々に対する、感謝の言葉であったと考えられます。
「技術は組織なり」という考え方に真っ向から異を唱え、「技術は人なり」を生涯貫かれた青山士氏は、晩年不遇だったことが残念でなりません。
あくまで人を尊重し、組織の歯車としての個を認めようとしなかった青山士氏の心は、常に現場で汗する作業員のそれぞれと共にあったような気がしてなりません。
そうでなければ号令やかけ声だけで、難工事がこれほどの短期間で完成するはずがありません。
高い技術力とは、崇高な思想と言動に支えられて初めて成立し、その時にだけ人の心は動くことを改めて教えられた思いがします。
われわれ現場技術者は、資格に甘えることなく、その価値を高め、同時にそれを誇りにして明日を創っていかなければなりません。
そのためには、「公益確保の責務」ではなく、「公益確保の意思」をもって進んでいく覚悟が必要です。
ヤマトも技術士の端くれとして、日々精進に努め、日本の明るい明日を目指して頑張りたいと思います。
Part1へ戻る
【参考URL】
○信濃川大河津資料館
○大河津分水路
●大河津出張所ライブカメラ
○信濃川の歴史
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土木技術者列伝（追補2）岡崎文吉（北海道）Part1 |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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今回の追補の対象は、北海道を代表する河川、石狩川です。
「土木技術者列伝」の初回、右も左も分からなかったヤマトは、講座仲間の竜馬さんからネタの提供を頂きました。
竜馬さん、その節は大変お世話になりましたｍ(_ _)ｍ
したがって、北海道につきましてはヤマト自らが対象者の選定を行っていませんでした。
その後、各都府県を巡っている間に、改めて北海道で発見した方がいらっしゃいました。
その方は、なんとこともあろうに、ヤマトと同じ岡山県のご出身だったのです。
しかし、お名前すら存じ上げない情けない状況だったので、いつかは取り上げさせて頂こうと考えていました。
前置きが長くなってしまいました。
今回ご紹介させていただく方は
岡崎 文吉(ｵｶｻﾞｷﾌﾞﾝｷﾁ) 氏
です。
今回も背景の理解から始めていきたいと思います。
大雪山系の石狩岳西斜面で、ここから上川盆地、石狩平野を経て石狩市で石狩湾へと注ぐ石狩川は、流域面積は 14,330km2 で利根川に次いで全国2位、長さ268km は信濃川、利根川に次いで3位の大河です。
原始の石狩川は、流水が自在に蛇行をし、常に澪筋（ﾐｵｽｼﾞ）を変えながら、満々と水を湛えた大河でした。
雪解けとともに水嵩は増し、長雨があればたちまち暴れて森にあふれ出し、流域を湖水と化し、運んだ土砂を広く堆積させる、人々にとっては始末に負えない暴れん坊でした。
石狩川の改修の歴史は、北海道の開拓の歴史と期を一にし、とある出来事がこれに拍車をかけることになります。
1898年9月の大洪水です。
石狩川やその支流の氾濫により、幅約40km、延長約100kmという巨大な湖が出現したそうです。
これは琵琶湖二つ分の大きさに当たります。
洪水の影響は甚大で、石狩川は過去最高の8.2mという水位を記録し、この水が退いたのは、1ヵ月も後だったそうです。
石狩川流域における死者は112人、流失倒壊家屋2,295戸、浸水家屋1万6,000戸、浸水耕地反別4万1,000ha。
未曾有の出来事だったようです。
この結果、北海道庁は、この年の10月、「北海道治水調査会」を設立し、洪水対策のための調査を開始することになるのです。
「北海道治水調査会」の8人のメンバーは、さっそく調査にとりかかります。
その中心となったのは、道庁の技師だった26歳の岡崎文吉氏です。
岡崎文吉氏は1872年（明治5）に、岡山県に生まています。
よほどの秀才だったらしく、15歳で年を偽って、札幌農学校工学科に第1期生として入学し、優秀な学生に対して学費が免除される校費生の扱いを受けています。
当時の札幌農学校は、ほとんどの講義が英語で行われたといいますから、岡崎文吉氏の英語力は相当なものであったに違いありません。
卒業後も給費研究生として学校に残り、2年後の1893年（明治26）には、21歳の若さで札幌農学校助教授に就任なさっておられます。
また、1896年（明治29）には、道庁の技師にも任ぜられておられます。
治水調査会が、水文データを調査・収集・分析を行っている間、岡崎文吉氏は、1902年（明治35）にアメリカとヨーロッパに1年間出張し、河川管理の実状を視察し、治水理論を学んでおられます。
その成果は「欧米治水調査復命書」にまとめられていますが、そこではフランスのローヌ川の捷水路（ｼｮｳｽｲﾛ）[ショートカット]方式に批判的な立場をとる一方、アメリカのミシシッピー川の蛇行を生かした治水に共感を示しておられます。
岡崎文吉氏は、ゆるやかに蛇行する石狩川での水運を、将来も生かしたいと考えておられたようで、調査会による調査結果、1904年（明治37）の大洪水時の流量データや欧米での事例を参考として、「石狩川治水計画調査報文」を1909年（明治42）道庁に提出し、石狩川改修の方向性を明らかにしておられます。
岡崎文吉氏の報告骨子は、蛇行した流れをそのまま残し、決壊しやすい護岸を補強するとともに、別に放水路を開削して、洪水時の水位を低くするというものでした。
こうした岡崎文吉氏の考え方は「自然主義」と言われ、河川を矯正し過ぎることを避け、自然との調和を図ることをもっとも大切にしておられました。
また、岡崎文吉氏は、森林が原始的河川の荒廃を防ぐことを明らかにし、河畔林の植栽を提唱なさいました。
こうした考え方の下に、岡崎文吉氏が初代の石狩川治水事務所長として、1910年（明治43）に石狩川第1期治水工事をスタートさせるのでした。
工事は生振～篠路の放水路の掘削から始まります。
しかし、工事は財政難でなかなか進みません。
やがて、岡崎文吉氏の行く手に思わぬ障害が現れるのでした。
Part2へ続く。
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土木技術者列伝（追補2）岡崎文吉（北海道）Part2 |
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ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
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【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
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特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
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1917年（大正6）、沖野忠雄内務技官が来道し、石狩川の改修について岡崎文吉氏との間で意見交換を行ったと言われています。
沖野忠雄氏といえば、日本の土木学会をリードしてきた重鎮であり、「土木技術者列伝」でもご紹介させて頂いたとおり、大阪築港、淀川改修工事などを、心血を注いで完成させたことで知られています。
沖野氏は、1875年（明治8）にフランスに渡り、パリ中央諸芸学校に学んでおられます。
フランスのローヌ川に代表されるフランス流の河川工学を学び、日本でもそれを普及させてこられた偉大な方でした。
岡崎文吉氏の自然主義と沖野忠雄氏の捷水路（ショートカット）主義は、真っ向から対立せざるをえませんでした。
当時、岡崎文吉氏45歳、沖野忠雄氏63歳でした。
論争は意外な形で決着がつきます。
大正7年、岡崎文吉氏はにわかに「内務技師」として東京への転勤を命ぜられるのでした。
いずれにしても、岡崎文吉氏の退任により、石狩川の改修の方向は、大きく転回することになります。
1918年（大正7）から1969年（昭和44）までの半世紀にわたって、石狩川の改修は一貫して捷水路（ショートカット）工法で進められることになるのです。
この出来事が石狩川の運命のみならず、日本の河川の運命を決める分水嶺だったのかもしれません。
石狩川には、大正7年の生振捷水路から昭和44年の砂川捷水路まで、一貫してショートカット工事が施され、上流にはダムが築かれ、長大な堤防をめぐらすことになりました。
明治27年に364kmと測量された石狩川は100kmも短い268kmに短縮されたため、急流となった流れに対する保護の観点から、河岸や河床はコンクリートで固められます。
これによって洪水の流下能力は1.7倍に高まり、河川水位は最大3.5m下がって、治水の目的は達せられました。
今ではショートカット工法に対する環境負荷低減という視点における反省に立って、多自然型河川改修が思想的にはトレンドとなっています。
しかし、当時のショートカット工法は間違いだったと言えるのでしょうか？
一概にそうは言えない側面があることに、われわれは目を向ける必要があります。
ショートカット工法には、工事の延長減に加えて、単純性が特徴です。
したがって、施工速度は自然主義よりも断然速いと考えられます。
その結果、費用対効果においては、自然主義とは比較にならない効果発現速度が得られたはずです。
さらに、工事自体は単純化が可能ですから、大量生産方式のルーチン化も可能となります。
したがって、工事費も自然主義に比べ、割安だったことと思います。
また、流下能力の飛躍的な向上は、土地利用の有効化に大きく寄与する結果となります。
この結果、石狩川沿線の開発は、加速度的に進展する効果を生み出します。
岡崎文吉氏のように優れた技術者が、まだ世にさほど大勢おられなかった時代背景を考えた場合、ショートカット工法は、やむを得ない選択だったのかもしれません。
このように、ある選択には、必ず長短両面があることを、われわれ技術者は必ず心に留めておかなければなりません。
どのように優れた選択と思えるものにも、「弱点」はあるということを。
また、「技術」とは永遠に確立されない未成状態のものであることも理解しておかなければなりません。
それは、「技術」が内外環境と無縁のものではあり得ないからです。
さて、その技術について、岡崎文吉氏が44歳の時、つまり大正4年「治水」という著作を著されています。
その中の記述から、岡崎文吉氏の思想を眺めてみましょう。
「本来自然に出来上がった河川の流路のほとんどは理想的な状態で形成されているので、可能な限りその状態を維持し、たまたま存在する治水上不都合な箇所だけを、自然の実例に鑑みて改修することが大切である。これを私は自然主義と言っている。」
「治水を考える上で、森林は重要な役目を果たしている。森林は河川の現状を維持し、それが荒れるのを未然に防いでくれるのだ。水源にあたる上流部の森は、雨が一度に流れ出すのを防ぎ、ゆっくりとしみ出させる。つまり、この森は水源涵養を果たす天然の調節者である。よって保安林として乱伐を慎み、その十分な維持、保全に努めなくてはならない。また、河畔林は川岸が削られるのを防ぎ、洪水時には抵抗となって破壊力を弱める作用を為す。つまりこの森は岸を守る天然の保護者である。この森も充分に守り、育てなくてはならない。みだりに開墾したり、伐採したりするような不法行為は絶対に禁止すべきである。」
「近代の水理学は自然を教師とすることを忘れ、天然の河川を可能な限り真っ直ぐな流れにすることばかり考えている。すなわちあたかも川を人工の運河の如くつくりかえる事が治水の根本であると単純に思いこみ、かえって治水に悪い結果をもたらしてしまった。このような弊害を私は欧米の河川で数多く見てきた。本来川には人間の手を加えるべきではなく、自然の法則に反するショートカット方式は金と労力の無駄でしかない。」
「その昔ガリレオは天文学の複雑さも、川を流れる水の複雑さにはとうてい及ばないと嘆いたという。それほど複雑な川の水を処理しなければならないのが治水事業なのだ。そのためには机上の理論よりも実地の経験がものを言うはずだ。それなのに、近代の水理学は姑息な計算に走りすぎる。河川の原始の姿を完全なまでに改造しようと企て、かえって河川の平衡を壊したあげく、治水に失敗している。こんな愚策を取ることなく、可能な限り河川の現状を維持し、自然を模範としてその摂理をまず第一に尊重しなくてはならない。それが本来の川と人とのつきあい方なのだ。」
まさに同感です。
「問題は、現場から生じるが、解決方法も現場にある」というヤマトの持論は、まさに原点はここにあるのです。
自然を教師とせよ。
自然と向き合う機会の多い、土木系の技術者は、力で自然をねじ伏せようなどと考えてはならないのです。
自然の偉大な力を上手く利用させてもらうという姿勢が大切なのだと思います。
河川構造物に限らず、あらゆる土木構造物に共通する重要な手がかりだと、ヤマトは思っています。
岡崎文吉氏は、こうした考えの基、「岡崎式単床ブロック」を考案なさっておられます。
これは河床や河岸の弱い部分の浸食を防ぐため、箱形のコンクリートブロックをワイヤーですだれ状に編んで、マットレスのように敷くもので、「屈撓性鉄筋コンクリート単床」が正式名称です。
屈撓（ｸｯﾄｳ）とは「曲がりしなる」の意味で、水流を受け止めて自在にしなり、極めて高い護岸効果をもたらすとともに、何より安価で施工が簡単であるという利点がありました。
岡崎文吉氏はこの工法を用いて、夕張川や石狩川（現茨戸川）で実際に護岸工事を行っていらっしゃり、そのいくつかは現在でもそのまま使用されているそうです
岡崎文吉氏の名前は、むしろ海外で、「岡崎式ブロック」の考案者として広く知られています。
ミシシッピ川では、様々な工法で護岸工事を行った結果うまく行かず、米国エンジニアリング・ニュース誌に掲載された岡崎文吉氏の３つの論文（1912～14）でこの方式を知り、非常に高い効果を得たことから、現在では1,000マイル（約1,600km）にもわたって、岡崎式ブロックが施工されているといいます。
やがて、歳月は流れ、平成9年に改正された河川法は、大きな思想的転換を行いました。
明治29年に制定された旧河川法は「治水」を目的とし、昭和39年の新河川法になって「利水」目的が加えられ、100年間にわたって河川管理の目的は治水・利水を主眼としてきました。
平成９年の新河川法は「環境」を目的の一つに明記し、自然との調和、生物多様性や生態系の保全、自然の再生などを重視しながら、河川を保全するとしています。
そこには、過去100年の河川管理によって川本来の自然が失われ、人々と川とのつながりも切れてしまったことへの反省があります。
岡崎文吉氏の『治水』から90年余りを経て、ようやく日本の川は岡崎文吉氏の思想の高みに近づきました。
21世紀に引き渡された課題は、上流から河口までを一つの世界、一つの秩序と捉え、流域のすべての人々が協力しあって、川を守り、慈しむことでしょう。
岡崎文吉氏が果たせなかった姿を、石狩川は取り戻すことができるかどうか。
岡崎文吉氏からの宿題をこなすのは、われわれの責務です。
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Part3へ続く。
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土木技術者列伝（追補2）岡崎文吉（北海道）Part3 |
【参考URL】
○「石狩川治水の祖 岡崎文吉」について
○岡崎文吉の治水思想
○岡崎式マットレスを追う
○石狩川治水の祖・岡崎文吉
○石狩川の歴史
○石狩川
○石狩川治水史
○原始的河川の処理について（著作）
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土木技術者列伝（追補3）藤原林七（熊本県）Part1 |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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『土木技術者列伝』を通して全国をバーチャルに巡りながら、気にかかったことを思い出しながら、追補という形で補足しています。
今回は、とても心残りな点についてまとめてみたいと思いました。
それは、『九州の石文化』についてです。
少し、長くなるかもしれませんが、おつきあいの程宜しくお願い致します。ｍ(_ _)ｍ
今回ご紹介させて頂きますのは、
藤原林七 (ﾌｼﾞﾜﾗﾘﾝｼﾁ) 氏
です。
舞台は熊本県です。
まずは、次の写真をご覧下さい。
藤原林七氏が遺された石橋は、上記の三橋だけと言われています。
しかし、遺されたモノ以上の功績を我々は認めない訳にはいきません。
日本全国に残る石橋の数は1,000を超え、その95%にあたる約970が九州に現存すると言われています。
明治時代までの石橋架設数が一番多いのは熊本県で、大正・昭和まで含めると、大分県が日本一となるそうです。
熊本県を代表する石橋と言えば、「通潤橋」です。
ヤマトは以前からこの通潤橋のルーツを知りたいと思っていました。
ここでいうルーツとは、誰がいつ何を目的にという類のものではありません。
どのような背景で造り上げられたものなのか、要は人にまつわるhistoryが知りたかったのです。
熊本県の石橋の歴史は、加藤清正氏による熊本城築城に起源を求めることができると言って良いでしょう。
加藤清正氏は、築城にあたり、近江の石工集団・穴太衆(ｱﾉｳｼｭｳ)を連れてきます。
穴太衆は、織田信長の築城した安土城の石垣普請でその能力の高さを世に知らしめます。
そして、彼らは熊本城の築城完了後も熊本県に残ったと言われています。
その結果、地元の石工集団との交流が行われ、地元の仁平氏を中心とする肥後の石工集団が勢力を持つこととなります。
仁平氏は、当時長崎に初めて架けられた「眼鏡橋」を見に行かれています。
「眼鏡橋」は、1634年（寛永11年）長崎市の中島川に架かる二連のアーチ橋のことで、中国から渡来して興福寺の住職となられた如定氏が架けたと言われています。
これを見て石橋を学ばれた仁平氏は、穴太衆の技術をベースとしながら、しかも長崎の眼鏡橋の要素をも取り入れた独自のスタイルを築いていきます。
仁平石工グループは、1700年代後半から1800年代初期にかけて熊本県の北部で活躍することとなります。
長崎の眼鏡橋に興味を持ったのは、仁平氏ばかりではありませんでした。
当時、長崎奉行所に勤務していた藤原林七氏もその一人でした。
藤原林七氏は、石橋の原理や架橋技術をどうしても知りたいと思い、ついに国禁を犯し、密かに出島のオランダ人と接触を持つこととなります。
しかし、その事実はやがて奉行所に知られるところとなり、藤原林七氏は逃亡を余儀なくされます。
武士の身分を捨て、農民に姿を変え、1787年（天明7年）頃にたどり着いたのが熊本県の種山村でした。
石橋の原理や技術を得ても、しょせん藤原林七氏は下級武士であり、石工ではありませんでした。
つまり、理論は理解していても、それを実現するための技術力が皆無だったわけです。
藤原林七氏は、どうしても自ら石橋を造りたいと思い、近くに住む石工・宇七氏に弟子入りし、石工修業を始めることになります。
同時に、長崎で習得した知識をもとに、石橋を造るために必要な円周率やアーチ力学の研究も進めることとなります。
藤原林七氏のアーチ理論が完成したのは1813年（文化10年）頃と推定されています。
藤原林七氏がオランダ人と接触し、石橋に関する知識を得てから20年以上の歳月が過ぎていました。
藤原林七氏が暮らしていた鍛冶屋谷と呼ばれる緩やかな小山辺りに流れる小川に架けられたものが冒頭ご覧いただいた三橋です。
自分の理論や技術を確かめながら架けていったであろう小さな石橋は、長い年月を経て周辺の自然に見事に溶け込み、うっかりすると見逃してしまいそうです。
それ以降、藤原林七氏は、彼の息子嘉八や村の若者たちに石橋造りの理論や技術を徹底してたたき込んでいきます。
これが次の石橋新時代の主力となる「種山石工」集団となっていくのです。
仁平氏石工グループと種山石工グループは、その後どうなっていくのでしょうか？
Part2へ続く。
【参考URL】
○種山石工
○肥後の石造り目鑑橋
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土木技術者列伝（追補3）岩永三五郎（鹿児島県）Part2 |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
土木界全体の地位向上と我々土木技術者の
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精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
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特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
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熊本県における2つの石工集団。
さぁ、どう展開していくのでしょうか？
仁平氏石工グループの中核、即ち、仁平氏は、1790年（寛政2年）57歳で逝去なさいます。
それ以後も、仁平氏石工グループは、理左衛門氏を中心として石橋を造ります。
一方、種山石工グループについては、次の系譜をご覧下さい。
種山石工グループにとって幸いだったのは、村の周辺で豊富に切り出すことができた凝灰岩の存在です。
阿蘇山の噴火物の堆積岩であるこの石は、生成過程で層を成し、加工性に優れ、比重が軽いという特徴を有していました。
このような環境下において、種山石工グループは依頼される難工事を次々と攻略していきます。
そして、当代随一の名工が誕生します。
岩永三五郎氏です。
種山村でアーチ橋の研究を進める藤原林七氏には、寛政年間に息子嘉八が誕生しています。
また、石工としては藤原林七氏の師匠にあたる宇七氏にも、長男宇吉に次いで1792年（寛政四年）次男三五郎が生まれます。
年齢が近い二人は後に、兄弟弟子として藤原林七氏のもとで、石橋造りを学びます。
自分自身の父も石工である岩永三五郎氏でしたが、藤原林七氏が架ける石橋に強く引かれ、彼の弟子になることを自ら望んだといわれています。
両者はその後の種山石工グループの中心として活躍し、私生活でも実際の兄弟のように仲が良かったそうです。
1837年（天保8年）藤原林七氏が逝去なさってからも、その関係は生涯続いたと言われています。
いったんアーチ理論を学ぶと三五郎氏はめきめきと頭角を現わしていきます。
1817年（文化14年）には、棟梁として下益城砥用の雄亀滝橋(ｵｹﾀﾞｷﾊﾞｼ)の架橋に着手します。
翌年には見事にこれを完成させます。
この雄亀滝橋は、近隣の田畑に水を送るための水道橋で、熊本で最初に造られた用水路橋といわれています。
この時、三五郎氏弱冠二十五歳でした。
その後も道路建設や治水、土木などの事業全般に高い能力を発揮し、早くから名人の名をほしいままにしたと言われています。
三五郎氏は、技術や知識だけでなく、棟梁としての統率力にも大変優れていたそうです。
気の荒い石工たちをまとめる豪快さと、繊細さを併せ持つ岩永三五郎氏は人使いも上手だったと伝えられています。
1821年（文政4年）には、八代の約700haの干拓事業に参加されています。
用水路や樋門、眼鏡橋の建築などで大きな活躍をなさったそうです。
この時の仕事が評価されて、三五郎氏は肥後藩より苗字帯刀を許され、岩永姓を名乗るようになります。
1841年（天保12年）岩永三五郎氏は薩摩藩に迎えられます。
この時、岩永三五郎氏は、種山村から数人の石工を伴って薩摩へ出向いています。
しかし、工事では多くの薩摩藩の石工たちを使わざるを得ませんでした。
岩永三五郎氏の名声を評価し、招いた薩摩藩でしたが、一方で不安も抱えていました。
石橋を造るにあたっては、流域の地形や水量を細かく調査することから始まります。
当時こうした地図のたぐいは藩の極秘事項だったのです。
特に、薩摩藩は秘密保持に厳しかったといわれます。
招きはしたものの、心から岩永三五郎氏を信用できないまま、工事を任せることになったのでした。
そのため、彼を囲む石工たちの中には、薩摩藩の厳命を受けた密偵五人が含まれていたそうです。
名工とは言え、他国から石工を招かれた薩摩の石工たちは面白くなかったようです。
しかも、その肥後の石工の下で仕事を手伝えというのが藩からの命令でしたから、藩の仕事だけに妨害するわけにもいかず、しぶしぶ仕事には出て行くが、遠巻きに見るだけだったり、わざと失敗したりで、石の切り出しや運搬にもまともに協力しなかったそうです。
しかし、岩永三五郎氏は不満を漏らすことなく、肥後から同行した数人の石工たちだけを使って黙々と仕事を進めていったと言います。
岩永三五郎氏は、自分を見張っている密偵の存在にも気付いていました。
すべてを察した岩永三五郎氏でしたが、これにもあえて気付かぬふりで仕事にだけ打ち込まれたようです。
そんな苦況が一変する出来事が起こります。
稲荷川に三連の抱真橋（永安橋）を架けている最中に大雨が降りました。
川は洪水のため増水し、もし支保工が浮いてしまえば、石橋もろとも流されてしまいます。
土手の上から濁流を見つめていた三五郎は、自ら流れに飛び込み、潜水を繰り返しながら丹念に基礎を調べられたようです。
もちろん流れにのまれたら命はありません。
それまで冷ややかな目で岩永三五郎氏の仕事を眺めていた薩摩の石工たちも、これには舌を巻いたと言います。
そして、抱真橋完成後はそれまでの非礼をわび、驚くほど協力的になったと言います。
この後も岩永三五郎氏は、精力的に架橋を進めながら、他にも河川改修や新田開発に大きな成果を残しておられます。
そんな中で聞こえて来たのが肥後の石工永送り（暗殺）のうわさでした。
この時代、藩の秘密を守るための警戒は厳しく、築城などに従事した者が神隠しといって行方不明になることが珍しくなかったのです。
自分が密偵の監視下にいることに気付いた時点で、岩永三五郎氏の覚悟は決まっていました。
自分には子どももいない。
存分に仕事を終えた後は、潔く討たれて果てよう。
しかし、肥後から連れてきた若い石工たちまで道連れにすることはできない。
故郷の父が病気だ、母が危篤だとあれこれ理由をつけて、石工たちは一人一人肥後へと帰されたそうです。
その間も、岩永三五郎氏だけは石橋を架け続けたと言います。
中でも、甲突川五橋の一つに数えられる西田橋は、その完成度や高い芸術性から見て岩永三五郎氏の最高傑作といわれている。
この西田橋架橋のため、最後まで薩摩に留めていた石工・三平を肥後へ逃がした後は、薩摩の石工たちと共に高麗橋、園田橋、武之橋、玉江橋などを次々に架橋していきました。
薩摩の石工たちも岩永三五郎氏のもとで着実に腕を上げていきました。
岩永三五郎氏は、ついに江ノ口橋の架橋を最後に故郷肥後への帰国願いを申し出ます。
予想外に許可がおりた上、藩主からお褒めの言葉と褒美まで賜ったそうです。
すでに死を覚悟していた岩永三五郎氏は、これを惜し気もなく薩摩の石工たちに分け与え、身ひとつで肥後へと旅立たれたそうです。
その後を追ったのが岩永三五郎氏のもとで石工として仕えた密偵たちでした。
彼らは岩永三五郎氏の人柄に心服しており、どうしても切り殺すことなどできなかったそうです。
結局、彼らは岩永三五郎氏を逃がし、岩永三五郎氏の羽織に包んだ渡世人の首を国に持ち帰ったと伝えられています。
1849年（嘉永2年）岩永三五郎氏は、9年ぶりに無事故郷の土を踏みます。
しかし、故郷に戻った岩永三五郎氏は間もなく病の床に伏し、2年後の1851年（嘉永4年）59歳でその生涯を終えられたと伝えられています。
話は、変わります。
岩永三五郎氏が薩摩へ招聘されている間、種山石工グループはどのような活動をしていたのでしょうか？
種山石工グループの手により、八勢目鑑橋、通潤橋や霊台橋など、歴史に名を残す石橋が次々と出来上がっていきました。
岩永三五郎氏やその他の優秀な種山石工グループの名声は、次第に仁平石工グループを凌駕する存在になっていったのではないかと考えられます。
仁平石工グループの手による石橋は、歴史の表舞台から消えるようになります。
一方で、種山石工グループは、更なる名工を生み出します。
Part3へ続く。
Part1へ戻る。
【参考URL】
○石橋の解説
○種山石工
○甲突川五大石橋復元工事！
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土木技術者列伝（追補3）閑話休題 |
ヤマトです。
あるお知り合いの方から、ヤマトのブログは、内容が「重たい！」とご意見を頂きましたぁ
ごもっともな面もあるかと思い、少々軽いネタをご紹介させて頂こうと思います。
今回の「九州の石文化探訪」は、誰のためでもなく、ヤマト自身の好奇心を満足させるものでした。
ですから、極論すれば、自らブログへ書き込めば終わりと言っても良い内容でした。
しかし、です。
あれこれ検索をしていると凄いものが見つかったのです。
何かと申しますと、高校生が作成し、運営しているサイトなのですが、実に良くできています。
そのサイトとは
肥後の石橋
というタイトルで、ヤマトが知りたかった内容の大半が網羅されているのです。
このサイトを作られたのは、熊本国府高等学校の皆さんです。
一度是非ご覧下さいｍ(_ _)ｍ
それは、はっきり申し上げまして凄いです！！！
地元の貴重な資源に目を向けて下さったことだけでもありがたいと思うのに、その上、このように情報収集なさって整理した上で公開するのは、並大抵の努力ではありません。
こうした活動が全国に拡がっていくことを願って止みません！！！
ヤマトのいい加減な情報収集と加工に基づくブログよりは、彼等のサイトの方が余程信用できます！！！
しかし、明日はPart3で攻めていきます！
どうか、皆さまご容赦をｍ(_ _)ｍ
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土木技術者列伝（追補3）橋本勘五郎（東京都）Part3 |
ヤマトです。
【目的】偉大なる過去の土木技術者の業績を収集し
広く広報することによって、
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インセンティブとする。
【方針】各都道府県から最低１名を選定する。
可能な限り現場でご苦労なさった方を優先し、
精神性や意志を明らかにする。
【補足】ヤマトが調べられる範囲・内容はわずかです。
どうか皆様さまで補足して下さい。
特に技術者としての内面が分かるとありがたいです。
なお、記載させて頂く内容はインターネットでの検索に
依るものであることを予めご了解下さい。
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岩永三五郎氏亡きあと、種山石工グループのリーダーはどうなったのでしょうか？
種山石工グループの先頭に立ったのは、種山石工の開祖・林七の息子嘉八の三男丈八氏でした。
丈八氏は1822年（文政5年）に生まれ、岩永三五郎氏のもとで修業を積み、早くから頭角を現します。
薩摩へ招かれた岩永三五郎氏にも兄弟と共に同行したが、母の十七回忌法要を理由に肥後へ帰されています。
帰郷間もなく、丈八氏は緑川本流最大の難所・船津峡への架橋工事を依頼されます。
対岸への往来手段は船以外に無く、いったん増水すると川止め。木橋を架けてもそのたびに流されてきた場所でした。
住民の苦しみは大きく、流されない石橋は悲願だったようです。
しかし、この時岩永三五郎氏は薩摩にいました。
丈八氏や兄の卯助氏、宇市氏は、広い川幅に驚き、最初は断ったそうです。
しかし、断り切れず要請を受け、兄弟力を合わせて着工からわずか7カ月という短期間で完成させたのが霊台橋(ﾚｲﾀｲｷｮｳ)です。
この経験は、丈八氏を初めとする種山石工グループの大きな自信になりました。
彼らは次々に架橋工事を進めていきます。
同時に、種山石工グループの名声はより広く知れ渡るところとなっていきました。
やがて、矢部の総庄屋布田保之助氏は霊台橋を見て、白糸台地に水をもたらす水道橋も夢ではないと考えます。
そして、種山石工グループを矢部へ招くのでした。
矢部地方は浸蝕谷が多く、水量は豊富でしたが、谷が深いために不毛の地となっている地域が多数ありました。
特に、緑川に遮られた白糸台地は水源もなく、100haの土地はまったく収穫も望めませんでした。
この緑川に架ける水道橋こそが、通潤橋でした。
しかし、この通潤橋だけは一筋縄では為りませんでした。
失敗の連続で諦めかけた時もあったようです。
やがて、1年8ケ月後の1854年（安政元年）に何とか完成にこぎつけます。
6km離れた笹原川から引いた水で、白糸台地にも水田を開くことができたと言います。
この通潤橋には、強度を高め、水をスムーズに流すためのあらゆる工夫が凝らされているそうです。
これを繙いていくと、また相当な紙数に及ぶでしょう。
【参考URL】に、平成新訳「通潤橋仕法書」をリンク付けしておきました。
詳しくはそちらをご参照下さい。
通潤橋は、「石工の技」の集大成といえる施設だったと言っても過言ではないでしょう。
この功績によって、丈八は「橋本」姓を名乗ることを許され、その後名前も「勘五郎」と改名したとされていますが、これは史実とは異なるようです。
いずれにしても、こうした経緯を踏まえて、橋本勘五郎氏は岩永三五郎氏の後継としての基礎を固めていくのでした。
橋本勘五郎氏の評判は、やがて当時の明治政府にも届き、東京に石橋を架けるため招かれことになります。
それまで政治文化の中心である東京や奈良、京都などにおいて、江戸時代以前の石橋を見掛けることはほとんどありませんでした。
その理由は、石橋の技術は九州が卓越していたこともありますが、軍備防衛上の理由が大きかったと言われます。
つまり、当時の川や堀は自然の要塞で、敵にひとたび攻め込まれたら橋を壊して敵の侵入を防ぐ考え方が支配的でした。
即ち、壊れない、燃えない石橋は、本州ではなかなか受け入れられなかったのです。
しかし、世は移り、明治になると、その思想は一変し、石橋の需要は国内全域に広まったと考えられます。
東京に招かれた橋本勘五郎氏には覚悟があったと言われます。
薩摩に招かれた岩永三五郎氏は、「永送り」（暗殺）をなんとか免れましたが、今度は東京です。
無事に仕事を終えても、まず命はないだろうと考えたのです。
橋本勘五郎氏は、妻子や親兄弟と永遠の別れを交わし、東京を目指しました。
そこまで覚悟を決めた勘五郎でしたが、明治政府は彼を優遇しました。
明治4年から働き始め、明治6年3月の給与は12円。
学校長の給与が4～5円の時代でした。
しかも、3カ月後には5月に完成した万世橋 (ﾏﾝｾｲﾊﾞｼ)の出来栄えの素晴らしさが評価され20円に昇給しています。
翌明治7年には「測量司」の官職まで与えられ、新年恒例の歌会始への出席も命じられています。
皇居の旧二重橋、日本橋、江戸橋、神田橋など数々の石橋架橋を手掛け、明治政府には強く慰留されましたが、故郷の妻の病気をきっかけに橋本勘五郎氏は帰郷します。
残念ながら奥様はすでに他界なさった後だったようですが、その後橋本勘五郎氏は以前にもまして熊本周辺での石橋架橋にご尽力なさったようです。
成熟期を迎えた感のあった石橋文化でしたが、終焉は早かったようです。
昭和になって手軽に使えるコンクリートが普及すると、瞬く間に石橋は廃れていきました。
しかし、種山石工グループの手により架けられた石橋の多くは、百数十年を経た今も現役として川の流れをまたぎ、九州の原風景となっています。
やっと、ヤマトの出番です。
Part毎にヤマトが登場したのでは、鬱陶しいだろうと辛抱していましたぁ。
今回取り上げさせて頂いた種山石工グループが、九州唯一の石工集団で無いことは、皆さまご承知のとおりです。
当然、各地域でそれぞれ石工集団はあったはずです。
但し、世に残るモノは、造った人を物語ります。
それは、造った人の心を語るからだと思います。
こんなことを書くからヤマトのブログは重たいと言われるのでしょうね。
しかし、これが職人気質ヤマトのカラーですから仕方ありません。
泥臭くても、現代的なくても、このスタイルを改める気は毛頭ありません！
徹底的にこのスタイルで押し通します！
但し、どんなにヤマトが頑張っても種山石工グループには入れてもらえません。
120kgの石が運べなければNGだそうですから。
できるのは竜馬さんぐらいでしょうか？
「九州の石文化」、これを石橋という視点で眺めてきたシリーズです。
何となくヤマトもスッキリしましたぁ！
以前から石橋を架けたいと考えていましたので、とても参考になりました。
「土木」とは、文字どおり「木」と「土」ですが、「土」には”石”も含まれるとヤマトは考えています。
鉄とコンクリートが万能の時代ではありますが、土木の基本を忘れないようにしたいものです。
さて、これで「土木技術者列伝」の追補を終了いたします。
本編から引き続き、ご愛読ありがとうございましたｍ(_ _)ｍ
Part2へ戻る。
【参考URL】
○種山石工
○目鑑橋の匠
○平成新訳「通潤橋仕法書」